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【歌謡ノベルズ】ダンシング・オールナイト









ずーっとさ、甘い時想い焦がれて、夢で抱きしめて、弾む心抑えきれなくて。

ピタッとくっついたらウエストは細いんだろうか、とか、もっと上のほうはふわんと弾力があるんだろうか、それとも意外と手のひらサイズなんだろうか、実のところオレは結構手の中にすっぽり入るぐらいの方が楽しみ倍増でスキだったんだよなぁ、とか、もっと下の方はパーンっと弾けそうなんだろうか、それなら求肥入りの最中を手の中で握りしめちまった時のように指の間から溢れ出てきちまうんじゃなかろうか、とか、すらっとした白い首筋がやけに目についたら、お約束だけど長い指で髪を耳にかける仕草もそそられるんだよね、とか、そのままぐーっと形のいい耳まで見えてきて、やっぱりこの穴はまず指で攻めるべきなんだろうか、それとも舌でいったほうがいいんだろうか、とか迷っているうちに、その長くて艶のある髪をかきあげる首筋からは仄かに外国の香水の香りが漂ってきて、オレの鼻孔をくすぐってくれるんじゃないだろうか、とか、いや、くすぐって欲しいのは鼻孔だけじゃないんだけどな、とか、親指でなぞったくちびるの形はこうだった、ずっと触れたかった上唇の上右側の(あの娘にしたら左側の)ちょうど真ん中にある小さなホクロ、とか、厚みはややぽってりめ、紅も引いてないのにキレイなピンクで、思わずしゃぶりつきたい衝動にかられるけど、ちょっと指だけ咥えさせてどんな反応をするのか見てみたい、そしたら舌で転がしてくれるだろうか、いや唇をすぼめて吸ってくれるんだろうか、どうせ吸うならきつーく吸って欲しいんだよなぁ、いや、この際だからきつーく吸うのはそこだけじゃなくってさ、とか、もーー妄想超特急だけは爆走しちゃってエンドレス。

そんな一夜の、ふたりで行った東京ベイの夜景のきらめき。
窓を開けながら、「キレー。」と言って長い髪をなびかせていたあの娘。そんなきらめきの中に揺れるオレの下心。
虹色の橋を見たあと寄った、やけに外人が多い盛り場のバーで、たくさん並んだキャンドルを見ていると、なんだか嬉しいような悲しいような、よくわからない感激の涙が、あれよあれよという間に潤むオレの瞳の中。その中でその涙を振り切るように、不意にあの娘が無邪気に踊ってみせる。

Dancin' all night。
キラキラ汗を振り飛ばしながらあの娘は踊り続けてる。このミラーボールが回るホールで。
安っぽい盛り場のみんなの視線を一心に集めながら踊ってるあの娘のボデーラインが眩しすぎて。どれだけ撫であげたかっただろうか、あの脚を。どれだけ吸い付きたかっただろうか、あの太腿に。だけど、もしも言葉にすればなんだかそれも嘘に染まるようで。ただ黙って感じていられればいいんだ、それで。

Dancin' all night。
だからそうっと近寄って、声を殺して、耳元で囁いて、細い腰をしっかり抱きながら、あの細いカラダをこの手に入れたい。潰れちまうんじゃないかと思う程強く、強く、強く。
お互いの鼓動が大きく波打っているのをひたひた感じながら、このままずっとふたりでぴったりくっついてカラダの凹凸を記憶形状させるようにしながら、くるくるまわる。頭の中じゃあ、すでにオレ達肌を合わせて、汗で滑りが良くなって、上に乗ったり下になったりしたってキモチがいい程のつるつるさ。
あぁ、こうしていたいよ、いつまでも。身体揺らして、瞳を閉じて。


上品だけどピリッとスパイシーなアイリッシュ・ウィスキーのタラモア・デューをちびちびやりながら、知らず知らずのうちに独り言。誰もいないカウンターで思わずついた吐息がひとつ。

オトコの涙のようなビターなほろ苦さ、だけどいつでもアイルランドでは売上二番手。一番手のジェイムソンにはどうしたって勝てないところが、なんだかどっかの誰かみたいだな、って親近感湧いちゃって、
「お前もか」
なんて漏らしちまう。
だけどオレもお前と同じでカンジやすいんだよな。ハートがさ。ほろっとそれだけで崩れてしまうような。

始めから深入りしちゃいかん、ってわかってたけど、オトコの気持ちなんてそう簡単に操れない。危なげな恋だなんて思うと余計にもっと知りたくなってね。口づけしたくてふっと人差し指で持ち上げた小さな顎。それと一緒に上げた長い睫毛も色っぽくって、もう後戻りなんてできない、ますます募る熱い想い。柔らかい髪と細い首の間にこのまま顔を埋めて、あの頃はいつだってただぬくもりを手探りしてたんだ。あの娘に。

Dancin' all night。
もっとそれ以上言葉にすれば、なんだか絵空事のような、あんなこともしちゃう、こんなこともしちゃう、ってーノンストップの妄想爆発。だけど意思ではどうにもならないんだ。オレの夢の中を泳いでいるような、乾いたウソに染まる気がしてくるよ。ホントならとろけ合いたいのに。

Dancin' all night。
わかってる。そう長くは一緒に居られないって。こんなに甘い時は短いのがお約束。あれ程長ーーーい夜はもう来ない。だから余計にこのままずっーーーと踊っていたいんだよなぁ。この柔らかい肌の感触をいつまでも忘れないように。ぬくもり欲しい、って胸の奥で言いながら。凍えた手を温めるように。瞳を閉じて、羽二重餅を思い出しながら。



70年代の終わり頃、500万台造ったおフランス車の、意外に日本人の体型を具現したような形のどっしりルノー5(サンク)ターボが、実は5千台しかなかったなんて知ったのは、登場50周年の今年になってから。毎年春先にあるレトロモーターショーでも今年は大集合。
あのボリュームたっぷりのヒップがあの娘のヒップラインと重なってついつい手を伸ばしたくなる滑らかさなんだよな。

なんだ、俺のこの愛車も実は結構希少価値があるのか、そんなの持ってるオレだって同じくらいの希少価値。中堅のファミリーカーだって一世を風靡したらしいけど、日本で持ってるのはよっぽどのモノ好きか、変わり者か。いずれにしたって希少価値。
いつだって『6』って数字ににこだわるヤツが居たようだったが、ここでこだわってるのは『5』なんだよな。ルノー『5』(サンク)が500万台、5千台で50周年。クレイジーキャッツの『五万節』じゃあないけれど、オレなんて流した涙が五万粒だぜ。
価値があるならまだいいが、どうやら今夜はそれが裏目に出たか。腰をゆらゆらさせてるこの店で、なんだかこれが最後(五)の夜を迎えるらしい。
オレが決めた訳じゃないけど、別にあの娘が決めた訳でもない。ただどちらからともなくそう決めて、仕方ないから想い出なぞるように、あの娘のボデーラインを未練たらしくなぞるように、踊るんだ。あの娘と初めて会った、熱くて長いたった二人っきりで過ごした夜のように。


Dancin' all night 
言葉にすれば、ウィスキーと食べるチョコレートのように、舌に絡みつくような甘さでとろけ合いたい。だけど 嘘に染まるように言えば、実際、ウイスキーと食べる最中みたいなもんで、薄い皮が上顎にくっついてちょっぴり違和感を感じたり、実は賞味期限がすでに切れてて、中の求肥が締まった感じになっているのを、あぁ、コレだったよ、コレはコレでいい感触なんだぁ、なんて別な意味で堪能しながら飲むタラモア・デューだったり。

Dancin' all night
このままずっと触れていたいのに触れていられない。行ってほしくないのに行っちまうんだろ。するっと白いシーツの中から勢いよく起き上がって、脱がせ散らかした黒い下着を拾って歩きながら、どうせ、もう他のこと考えてるんだろ。
さっきまでこの手の中で踊っていた感覚を握り締めながら、祈ってたんだ。
「行かないでくれ。」
って瞳を閉じて。オレひとりで。

Dancin' all night 
哀しいだけだよな、言葉にすれば。
Dancin' all night
何も言わなくていい、 嘘に染まるのはイヤなんだ。
Dancin' all night 
このままずっと、あの娘の感触だけを手探りするさ。
Dancin' all night
 涙が出てきてもいいから、瞳を閉じて。




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