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ネコの類さんのこと前編

大学時代を一緒に過ごしたネコの類さん、死ぬ前と、死んだときとに書き残していたもの。前編。

実家猫のルイさんは、今年21歳。
腎不全で、わたしはそろそろ覚悟を決めなくてはならないらしい。 ずっとすごく元気な化け猫だ、と自分に言い聞かせ続けていたけれど、
最近はやっぱりだんだん衰えてきていた。
11月に帰った時には口内環境が悪くなっていたのだろう、
毛玉が少しできていたのでハサミでカットしてやった。
その時は怒り狂っていたけれど、
その2ヶ月後に帰省した時に爪が巻き爪になって肉球に食い込んでいたのでこれも切ってやったら、
最初だけちょっと怒ってあとはされるがままになっていた。
親戚中で「凶暴につき近寄るな、あの猫には」と噂されていたルイさんが、
おとなしく爪を切らせるなんて。
その衰えを思って胸が痛くなった。
20年(以上)前、私が大学に入って、半年ほどして写真サークルに入部した時、
先輩の菊地さんに、
「はい、これが君への入部特典です」
とPRESTO400というモノクロフィルムと一緒に、子猫だったルイさんを手渡されたのだった。
マンションのワンルームで二人の生活が始まった。
うちに来た初日にカレーの中にダイブしてお腹の白い毛が真っ黄色になった。
私が家に帰ると必ず玄関に迎えに来ていた。
のちに知ったのだが、私の住んでいたマンション2階には階段に重たい鉄の扉が付いていた。
その扉が開く音がすると、それを合図に玄関へ走って行っていたらしい。
私以外にも2階には10部屋ほどあったから、例えその鉄の扉が開いても、
帰ってきた住人が私でないことも多々あるのだが、
その度にすごすごと居室へ戻ってきたらしい。
子猫の頃は、ご飯を食べるときになぜか「んまんまんま」と言いながら食べていた。
大人になると言わなくなった。 
自転車に乗って一緒に大学にも行ったし、
嵐の日に田渕さんの車に乗って、お漏らししたこともあった。(ルイが。)
新幹線で帰省するときにはカゴに入って一切鳴かないお利口さん。
周りの人は誰も私が猫を連れているとは気づかなかったと思う。
でも駅を出て父の迎えの車に乗ると鳴きはじめて、それは家までやまなかった。
こたつも布団も大好きだけれど、顔は必ず外に出しておきたい派。
敷布団と毛布の間に入るようにいくら教えても、
必ず掛け布団と毛布の間に入った。
プリンとヨーグルトが好き。
4年暮らした部屋を去り、私が東京に引っ越す日には、
丸めた絨毯の筒の中をうれしそうにダッシュで行ったり来たりしていた。
一緒に引っ越せないのに!
当時東京には、ペット可の物件といえば、ファミリー向けのものしかなかった。
私は散々探したけれど、ルイさんと一緒に暮らせる部屋は見つけられなかった。
結局ルイさんは山口の実家に引き取られて今に至る。
実家で刺身の美味しさを覚え、
好物に鯵が追加された。
「不思議ね、未知と同じで、鯵が好きなのよ〜」
と母。
愛想がないので、大勢の人には可愛がられなかった。
私の好き勝手に振り回された一生だったと思う。
でも両親のおかげで、幸せな晩年だったと思う。
ここ数日、点滴に連れて行ってくれて、
でももう怖い思いはさせたくないから、とうちに帰ってきたらしい。賛成です。
どうか、どうか、苦しまないでほしい。
それとできることなら一人で逝かないでほしい。

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