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学校へ行かずに革命は起こせるか

先日、不登校でYouTuberをやりながら学校へ行く必要はないと説いている沖縄在住の小4が話題になった。
私が中学生の時には「YouTube」という単語を知っている人はクラスに数人程度しかいなかったというのに、すごい時代になったなとただ感心する。
まあそんな話はさておき、その少年は「革命を起こしたい」「戦争をなくしたい」ということをしきりに言っているので、学校(小学校)へ通わずにそんなことが可能なのか、私なりに考察してみた。

※知らない方のために解説しておくと、「ゆたぼん」という名前でYouTuberをやっている10歳の男児がいる。
彼は「宿題をやるのが嫌だから」という理由で不登校となり、不登校は不幸じゃない!という主張をYouTubeを通じて発信している人物である。
該当の動画はこちら:https://youtu.be/y9bRnu7UuCU

※彼の発言には「同級生がロボットに見える」「ピースボートを作る」など「明らかに親の影響を受けている」と思われるものが散見されるが、ここでは彼本人の意思であると仮定して私の持論を展開する。

少年が主張する「学校へ行かなくてもいい」という価値観には、私も同意する部分はある。
というのも、今日の学校教育、特に義務教育には異常だと感じざるを得ない部分が非常に多い。
生理でも休むことを許されず、生理痛を悪化させるプールの授業。
パーマを禁止するにも関わらず、天然パーマであれば無理矢理ストレートパーマをかけなければならない校則。
教員側がきちんとした理由も説明できずに決定されて強制されるスカートの丈。
真冬に裸足を強制されて霜焼けが悪化し、授業に集中できなくなる掃除。
誰かが大怪我をするか、死ぬまで中止されない組み立て体操。

挙げれば枚挙にいとまがなく、「何が目的で何が手段なのかを見失っている」と言わざるを得ない慣習や校則は非常に多い。
しかも教員の志望者は年々減る一方で教員採用試験は完全に「優秀な人を採る」試験から「ヤバい人を採らない」試験へと変化してしまっている。
(現に私の住んでいる地方の小学校教諭の倍率は私が現役小学生であった当時は20倍を超えていたのに対し、今はたったの3倍しかない)
残念ながら今後は昔より優秀な教員も減り、このような状況が改善されていくのにもあまり期待が持てるとは言えない。

しかしである。
「宿題を強制されるのが嫌だ」という理由で学校へ行かずに勉強を放棄しているような人間に、革命を起こすことなど到底できないであろうと私は思う。

「革命」というと工業暗化を引き起こしたヨーロッパの事象やショスタコーヴィッチの交響曲などが想起されるが、今回はクリミア戦争の天使について紹介する。
フローレンス・ナイチンゲールと聞いて、今の日本に知らない人はほぼいないであろう。
彼女はクリミア戦争の際に戦場の病院へ赴き多くの兵士を救ったことで有名である。
当時の戦場の病院というのは不衛生極まりなく、感染症が蔓延しており患者の死亡率は45%にのぼっていた。
しかしフローレンスは病院内の衛生を徹底させ、僅か着任3ヶ月にして死亡率を5%にまで引き下げることに成功する。
しかもこの時代には「細菌」という概念は発見・確立されていないにも関わらず、彼女は高い死亡率の原因が不衛生な環境に蔓延る細菌であることに気が付き、多くの「無駄死に」を排除することに成功したのである。

現在の常識からは想像し難いが当時看護師という職業は「学がない女が就く卑しい職業」とされていたにも関わらず、彼女はその功績から世間の認識を根底から覆したのである。
これは間違いなく革命といっても良いだろう。

そんなフローレンスは勉強を放棄していたのかというと、その真逆である。
彼女は父親がケンブリッジ大学の教授だったこともあり、幼い頃から歴史、地学、芸術、数学などあらゆる分野の学問を徹底的に勉強している。
フローレンスの功績は看護学のみに注目されがちだが、実は彼女は統計学の母とも呼ばれている。
幼い頃から数字や数式に強い関心を示しており、クリミア戦争の終結後は死亡率を世界で初めてグラフ化した。
これにより「数値を可視化する」ということに初めて成功し、現代の統計学の礎をも築いている。

このように、革命を起こすというのは知識無しには不可能な側面が大きい。
世紀の大天才であればまた話は別なのかもしれないが、残念ながら私を含む多くの人間は天才ではなく凡人である。

先に述べたように、学校へ行きたくない気持ちは分かる。
一部の無能な教員の存在、非効率な勉強方法、まるで意味のない校則、集団行動によるストレス……など、考えただけでも鬱屈な気分になる。

しかし、本当に学校に行きたくない理由が「宿題をやりたくない」のならば。
宿題には一切手を付けず、全力で勉強してみろ。
それで結果を出すことが出来るのなら、周囲の目は少しずつ変わってくるだろう。
少なくとも私のような偏屈な大人を黙らせることくらいは大いに可能であるし、もしかしたら「宿題を出すよりも効率的に学力を高めるやり方があるのか……?」と考え出す教員もいなくはないかもしれない。
「勉強はしない」「学校へは行かない」と発言しておいて「戦争をなくしたい」「革命を起こしたい」「世界中の人と友達になりたい」なんて画餅に過ぎない。
第一、外国語を学ばなければ日本語を話せない人と友達になるのは不可能である。

本気で革命を起こしたいのならば宿題をやらずに結果を出してみろ。
話はそれからである。


【注釈】
※工業暗化(こうぎょうあんか)……工業が発展することで黒い煙を発生させることにより、周辺の生物(蝶が有名)の体色が黒い個体が多く生き残るようになった現象のこと。主に産業革命時に顕著に見られた。

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