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「High & Low John Galliano」を観た

 邦題は「ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー」

愚かな行為をしたのはまあ事実なんだけど、若干意訳しすぎというか。
まあHigh & Lowっていうと日本じゃLDHの映画になっちゃうから仕方ないね。


この手のドキュメンタリーにネタバレも何もないと思うんだけど、ネタバレ警察の人は戻ってね。






あらすじ
スペインに生まれロンドンに移住したガリアーノ氏は抑圧された少年時代を過ごすも、ファッションの名門セント・マーチンズを卒業とともに才能を開花。
その後金がないながらも英VOGUEの後ろ盾を得てなんとか開催したショーがLVMHの目に留まり、ジバンシィ、ディオールのデザイナーとしてスターダムを駆け上がる。
しかし多忙を極めて心身ともに疲弊して行く中、最大のビジネスパートナーや父親の死などもあり遂に崩壊、件のユダヤ人(とあまり語られないがアジア人)差別発言により有罪判決。
当然ディオールは解雇され一度表舞台から姿を消す事になるが、その後メゾンマルジェラの新デザイナーとして復帰、2022年のアーティザナルコレクション「シネマ・インフェルノ」までを描いたドキュメンタリー。



感想
あらすじの通りガリアーノ氏の半生自体がかなりドラマチックなので、この手のドキュメンタリーとしてはかなり見応えのある内容だった。

当然ディオールの歴史の中でも特に名を残したデザイナーの一人である事は間違いないし、当時筆者は高校生~大学生くらいだったがウィメンズの方もコレクションのルックくらいは見ていたので、ある程度のイメージはあった。
だが、やはり当時のディオールについて男目線で言えばエディ・スリマンというこれまたメンズファッション界に革命を起こしたデザイナーが就いていた時期であり、どうしてもそちらにばかり注目していた。
ガリアーノ氏自身のブランドについてもかなり奇抜でリアルクローズとは言い難く、特に代表作であるニュースペーパー柄のアイテムはディオールの方でも展開されていたと思うが、筆者が海外ブランドに興味を持ったタイミングでは既にあまりにもマスになりすぎていて「オタクが着ているダサい服」というまでの認識になっていた。
そのため、そこまで深くガリアーノ氏に興味があったわけではない。

そんな中で例の事件が起きるわけだが、大半の日本人にとってはユダヤ人差別発言がどれだけ重い物なのかというのは、表面的な知識は持っていたとしてもピンと来ないのが正直なところだろう。
実際にその時の動画など出回っていたので当時見ていたが、確かに「ヤバい事言ってるな」というのは分かるのだが、その発言の裏にある歴史的・宗教的背景などは当事者ではない我々日本人には計り知れない部分がある。
ただユダヤに対する発言の方がクローズアップされているが、実際にはアジア人に対する暴言も吐いている。

ここでは本当に彼の深層的な本心からその発言が出たのか、単に表層的な酔った勢いの暴言なのかが問われた。
本人は後者だと主張しているが、その真意は我々に知る由はない。

そして実際に暴言を吐かれた被害者のインタビューもあるのだが、この被害者は「一度も謝罪がない」と言い、ガリアーノ本人は「謝罪した」と言う。
どちらが正しいかは分からないが、後半はこういった生々しさが目立ち、彼が手掛けたブランドの服を着る事に対して複雑な感情も生まれた。

ガリアーノ氏は一度はファッション界の頂点にまで上り詰めたためその世界の権力者とも繋がりがあり、その力である程度は色々と融通を利かせられる部分はあるとも考えられるだろう。
しかし、ユダヤ人にルーツを持つ当時のディオールCEOの発言によれば、事件から数年後に直接謝罪に訪れたため、現在は赦しているらしい。
その証拠に2022年に、解任後初めてディオールのアーカイブを尋ねられるよう手配している。

この辺りについて我々一般人が是非を問うという事はできないし、現状またファッション業界の第一線に復帰している事実からも、事態は一応の収束を見ていると判断する。


その後マルジェラのオートクチュールに当たるアーティザナルコレクションでシネマ・インフェルノと題して演劇形式でのコレクションを発表し、ガリアーノ氏の独特の世界観を存分に発揮して完全復活を印象付けた所で映画は終わる。
特に復帰以降は酒も薬も完全に断ち、健康的に生活している様子がうかがえる。
あまりマルジェラでの仕事風景の映像はなかったが、ショーの発表時もディオール時代のように気張っている感じがなく、自然体であるように感じられたのは好印象だった。

昨年シネマインフェルノのイベントが渋谷で行われていたが、なぜか行かなかったのでこれを機にもう一度やって欲しいと思った。
この映画を観た後だと、また見方が変わるように思う。

余談だがその後、今年1月に発表された2024年のアーティザナルコレクションもマルジェラ就任後最大と言っても良いほど大きく評価された。

7月にマルジェラ退任が噂されたが、すぐにブランド側から否定されている。
しかしそれ以降情報がないので、真偽のほどは。


今でもディオールで展開されるサドルバッグはガリアーノ氏が手掛けた代表的なアイテムである。
またマルジェラで人気のグラムスラムや5ACも彼が手掛けた。
このようにファッション界に与える影響はかなり大きいデザイナーである事は間違いないので、この辺りのブランドやアイテムに興味を持っている方は一度観てみてはどうだろうか。




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