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プリキュアの変身シーンから失われたものとは

YouTube の東映アニメーションミュージアムチャンネルプリキュア 20 周年を記念して、その変身シーンを一挙に公開している。

20 周年。人ひとりが産まれて成人するまでの年月に渡って、あらゆる世代の女児の耳目を集め続けた日本代表級のモンスターコンテンツ。それがプリキュアである。

筆者(私)がなんとなく覚えているのは『 Yes!プリキュア5GoGo!』あたりで、もうその後のシリーズはほとんどわからない。ただ、最新シリーズにおける主人公の変身シーンには文字通り隔世の感を覚えずにはおれない。

↑ これはプリキュア公式YouTubeチャンネルからの引用だが、もうこのワンシーンだけで、プリキュアの性質がどれほど変容してしまったのかを思い知らされる。

プリキュアのデザインはより複雑で、カラフルになった。ツートンカラーのプリキュアなどもはや珍しいものではない。お絵かき好きの女児はこういう衣装を模写できるのだろうか(汗)。

変身シーンも凝りに凝っている。近づいたり離れたりを繰り返しながら、目まぐるしく旋回する視点。忙しなく転調する BGM 。最後は画面を分割、マルチアングルでその勇姿を映し、プリキュアが名乗りを上げる頃にはゆうに 1 分を超えている。

YouTube で繰り返し再生されることを意識しているのは間違いないだろう。シビアに作画をチェックされる近年のアニメにおいて、変身シーンはそれ自体がひとつの「映像作品」と言っていい。東映アニメーションは、女児という容赦なき生き物を相手に、毎年のようにこんな凄い変身シーンを作り続けているのだ。

ただ哀しいかな、筆者のような、老害化しつつあるおっさんにはもうこれらの変身シーンに追随できなくなっている。「とにかく凄い変身シーンを作ってやる」という熱量は感じるのだが、正直、誰が何に変身したいのかがピンと来なくなってきた。

これは筆者がギリギリ記憶に残っている、『Yes!プリキュア5』の主人公、キュアドリームの変身シーンである。

それが思い出補正であることを一切恥じずに書くが、その潔さ、凛々しさ、力強さにはマジに涙が出そうになった。キリッとした表情、美しいポージング、雄々しさすら感じさせる声……泣ける(おそらく、老化によって抑制が効かなくなっているのも多分にあるだろうが)。

まず音楽が良い。

自分が新しく変わっていくことへの明るい期待感。弾むような歓喜。一方では未知の困難への予感があり、それでも力強く進もうとする確固たる意思をも感じさせる。語彙力が無く、まったく上手く表現できないが、そういう「初々しさ」をギュッと詰め込んだような曲だと思う。

音楽という意味では『 5GoGo 』も好き。↓

それは意外なほど優しい曲調から始まりながら、主人公が光に包まれた次の瞬間、劇的に転調する。立ち向かう者だけが持つ気高さ、孤高であるがゆえの悲壮。プリキュアであるというのは、授けられた力であり、それ自体が使命なのだ。

「大いなる希望の力――」なんと気高く、美しい響きだろうか(詠嘆)。この 40 秒足らずの変身こそ、筆者のプリキュア観の根幹を成していると言ってもいい。と同時に、それはもはや時代の要請とはだいぶズレた姿になってしまった――というのも悲しい現実だろう。

自分でも語りがキモくなってきたのでそろそろ締めるが、プリキュアの変身から失われたものは何か? と考えたとき、それは「勇壮さ」だと思う。

変身するということの前提には、そもそも他者からの抜き差しならない要請がある。かけがえのない何か、あるいは誰かを助けるために、主人公たちは一介の女子中学生という立場を一時的に捨ててでもプリキュアになる。

大げさな話だが、それは避けられない「有事」なのだ。変身とは「有事」へと挑むその過程であり、同時に「平時」への決別にほかならない。ゆえに、その顔が笑むことなどまずありえない。

初期のプリキュアにはそうした「勇壮さ」が作品全体の雰囲気としてあったと思う。シリーズを重ねるごとに可愛く、カッコよくなっていくプリキュアだが、どうしても初期の「勇壮さ」は失われてしまったように思えるのだ。

とはいっても、時代が変われば作品テーマだって変わっていく。20 年経ち、女児とその親たちが相対する現実はよりシビアなものとなった。時代が要請する価値観からも無縁ではいられない。初期のような「暴れる女児」の方向性で押し通せるほど、現代日本のお茶の間は甘くない。

筆者からすると、プリキュアは既に「終わることを許されない作品」になりつつあるように思える。最後のプリキュアたちはいかなる姿をしているのか想像だにできないが、それが歴代プリキュアとの連続性が危ぶまれるような形態に成り果てていても、個人的には不思議には思わない。

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