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日記/2022-04-28 人生がチョコレートボックスのようなものでも

 帰り道、夕飯どき。

 首元が伸びきったTシャツに垢じみたチノパン、ストラップを限界まで伸ばしきった肩掛けカバンには、パンパンに詰まった何らかの荷物。"まさに" と形容する他ない雰囲気のチー牛くんが、背中を丸めたまま早足で歩くそのリズムに合わせておなかをさすり、鼻先までずれ落ちた眼鏡を通して、所在なさげにきょろきょろと周囲を眺める。そのひときわ奇妙な歩き方は、わたしの視界の中で、否応なくわたしの注意をひきつける。すき家に入るのだろうか。それともしっかり二郎系か、はたまた流行りの生娘シャブ漬け丼か。彼の今夜の暴食には何が選ばれるのか、なんともなしに見守ってみた。

 不意に何度か立ち止まっては足先の向きを変え、そして、ラーメン豚山・荻窪店のあの、ギラギラと点滅する黄色い看板の下で少しためらってから、彼はそそくさとピットインした。こっそりと心の中で吉野家に賭けていたわたしは、おやつにFitsグミのアップル/オレンジ味を買うチャンスを逃してしまった。ざんねん。ちなみにこの豚山荻窪店では、大ラーメン野菜抜きカラカラにんにくアブラマシ、という惚れ惚れするような潔い注文を、すらすらと慣れた口調で毎度頼んでいるVホス系のかわいらしい男の子によく出会う。"男の子" だなんて呼ぶのも失礼かもしれない。仰ぎ見たくなるほどの "男"。Don't judge a book by its cover、人は見かけで判断してはいけない。


 🍜 

 「チー牛」と言えば、その年齢に似合わない幼く垢抜けない顔つきをとりわけ揶揄されている。服装がそれに続く。が、その立ち居振る舞い、具体的には歩き方だとか、もっと言えばただ立っているだけでも、アンバランスさ、異様さが、遠目からでもチー牛くんの判別を容易にする。チー牛くんがスーツを着てたって、どうめかしこんでたってチー牛くんでしかない、その所以だ。油をさされたブリキの木こり人形は "心" を探しにいくため、エメラルドの都を目指し旅を始めるが、体の使い方をまだうまく把握できていないうちには、ドロシーの隣できっとこんな動きをしていたんだろうな、と、ドロシーの困惑に思いを馳せる。

 なお、わたしも同じく、立ち方も歩き方もキモいブリキ人形あがりである。かねがね悩んでいる。横断歩道を渡る際、その向こう側に見えるなにかのお店の窓に映る自分の姿は、さしずめ、組みあげ方を間違えられた上にうっかり検品もスルーされたエラー品、といった風格である。わたしはチー牛はめったに食べないので、このポップでキッチュでトレンディな蔑称をすら名乗る権利がない。だれか、早くリコールしてくれよ。わたしを。でなくば分別してリサイクルに回してくれ。


 家に帰ってから暇だったので、YouTubeの検索ボックスに「姿勢 歩き方 改善」と打ち込み、出てきた結果のうち、目立っているサムネイルをタップしてみる。美しく見えて疲れづらくなおかつ痩せる、という一石三鳥の歩き方を、人間の基本的な動きにすら難儀してしまう不器用なわたしたちのために、ゆっくりと丁寧にレクチャーしてくれる動画だった。しっかりと指示に従い、歩き方を練習してみたが、このメソッドを徹底すれば、この動画に映り逐一指示を出してくれている、この、ヨレヨレでだるんだるんのお姉さんのようになれるのか。ほう。ふとそう思った瞬間、自分は今何をさせられてるんだか、全くわからなくなった。無料で観られる動画の内容を疑って文句をつけるのみならず、他人の容姿にまで下世話な評価を投げつけるような、性根のひねくれたブリキ製の人間。だからこそ、体もそれに倣って、いつまでも歪みが取れないんだろうな、と、また自分についての理解を深めるに至った。



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