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第7回 うちうちうち【朽羊歯ゾーンのWoundTube】

【クソ問題】
Q.関東に生まれた人間が、自分で電車を使って出かけるような歳になる少し前に四国に移り住むと、どうなる?

答えが見えないように、適当な画像を貼ろうと思う。

「人間」と書きましたが私個人のことです、念のため
カニじゃないことが信じられないカレー

A.山手線の「内回り」「外回り」を「順打ち」「逆打ち」と呼ぶようになる

【解説】
山手線は、東京・秋葉原・上野・池袋・新宿・原宿・渋谷など、誰もが聞いたことのあるであろう駅を多く通る環状線だ。環状線なので、「上り」「下り」の概念がない。代わりに、東京→神田→秋葉原……と進む、反時計回りの進み方を「内回り」と呼ぶ。逆は「外回り」だ。

私が子供の頃、「ゆうがたクインテット」というNHK教育テレビ(確か当時は「Eテレ」という名前ではなかった)の番組で、山手線の駅名をひたすら内回りの順で言う歌がよく流れていた。

「内回り」はおろか「山手線」「環状線」という言葉すら知らなかったが、東京では線路が輪になっている電車が走っているということは理解して、私もひたすら歌った。

メロディーは単純なループだが、駅の数の関係で、2周目以降はメロディーに対して駅名がずれていく(炭坑節が踊れる人は、メロディーと振り付けがずれる感じを思い起こしてほしい)。これがかなり難しい。2周目か3周目の途中で、混乱して止まってしまうか、駅を飛ばしていつの間にか1~2周目の歌詞になってしまうのだ。何度もチャレンジしているうちに、すっかり山手線の駅名と順番を覚えてしまった。

少し集中は必要だったものの、大人になって関東に戻った今やってみたら、あっけなく3周を突破した。自分で乗ったときの記憶がある。半分以上の駅に思い出がある。泣きそうになった。

こんなこと、子供の頃には考えられなかっただろう。東京のことだと頭ではわかっていても、それぞれの駅名に、何の違いも景色も見いだせなかった。小説の設定だと言われた方がまだ身近に感じただろう。情景も想像しただろう。

閑話休題。

四国には、「四国八十八カ所巡り(四国遍路などとも)」という文化がある。一番から八十八番までの番号のついた、「四国八十八カ所」と呼ばれるお寺を巡礼するのだ。

これもまた四国をぐるりと一周することになるので、山手線と同じように、回る順番の名前がついている。数字の小さい順に回るのが「順打ち」、大きい順に回るのが「逆打ち」だ。逆打ちは、道が厳しい代わりに三倍のご利益があるとされている。

なお、今年知ったのだが、東京の高幡不動尊には四国八十八カ所巡りを模した場所がある。1時間程度で回れて、ご利益は同じ。そっちでいいじゃない。

山手線の駅名をばっちり覚えて、しかし「内回り」「外回り」という言葉を知らないまま四国に渡った私は、「順打ち」「逆打ち」の概念を叩き込まれる。そして関東に戻れば、山手線に乗る機会。

これがあのとき覚えた駅を回る電車……! と感動しつつも、なじみのない順で回る山手線に違和感を覚え、歌とは逆の方向に走る場合もあると気づく。「内回り」「外回り」では、どちらが歌の順なのか思い出せない。

そこで、私は無意識に、歌の順番を「順打ち」、逆の順番を「逆打ち」と呼ぶようになってしまったのだ。

今日調べて知ったのだが、四国八十八カ所巡りの「順打ち」は時計回りらしい。私が「順打ち」と呼んでいる「内回り」は、反時計回りだ。つまり、あのNHK教育テレビの歌で駅名を覚えた人以外にとって、「順打ち」と呼ぶべきなのは「外回り」なのだ。歌いだしの「東京」と、八十八カ所の一番目である「霊山寺」は、奇跡的に似たような位置なのに(どちらも東)。

他の地方では、他の環状線の歌が流れていたのだろうか。四国の人の前で山手線の歌を歌って、知らないと言われたことがある。

大阪や京都にも、環状線はあるだろう。愛知にはあるが環状をしていない(以前、沿線に住んだが、愛知環状鉄道は全くループしない。なぜか終点がある)。四国は聞かないが、九州や東北などはどうだろう。

環状線がある別の地域から四国に移ったのちまた戻ったなどの理由で、自分の地域の環状線の回り方を「順打ち」「逆打ち」と呼んでいる人がいたら、ぜひ教えてほしい。

反時計回りが「順打ち」なら、なおさらだ。


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