ドラマ「地面師たち」を観て感じた、騙し騙されは善悪ではないんだな、ということ

詐欺師たちは「騙される方が悪いんだ。」と言う。
それに対して、多くの人は「いや、騙す方が悪いだろ。」と言う。
そんな“どちらが悪い論争”に、僕は昔から違和感を感じていた。

先日、Netflixで配信されている日本のドラマ「地面師たち」を観て、このモヤモヤが何なのかわかった気がする。
騙される人間がいるから騙す人間がいるわけで、結局これは表裏一体。
善悪の話ではないんだなと。


地面師たちの活躍

僕は正直、このドラマの地面師たちの活躍を観てカタルシスを感じてしまった。

もちろん彼らがやっていることは社会的に悪である。
人の気持ちを踏みにじり金を奪い取る。
時には殺しも行う。
そもそも彼らは犯罪者なので、社会的には許されない存在だ。

しかし地面師たちの活躍は、このくだらない社会へのカウンターのように感じた。
僕は地面師たちがダークヒーローのように思えたのだ。


騙される理由

本作は実話を元にしてるとは言え、明らかなフィクションである。
エンタメとして楽しめるように作られている作品だ。
現実はもっとえげつない世界なのかもしれない。

このドラマは地面師たちが如何に詐欺を行いミッションを達成するか、というのをクライムサスペンス的に描いている。
しかし、ただのエンタメでは終わっておらず、詐欺の構造を興味深く拝見することができた。

本作では善悪はほとんど描かれていない。
騙す方が悪者、騙される方がかわいそうな善人、ではない。
むしろ騙される方が滑稽ですらある。
そんな滑稽な人々を手玉に取る地面師たちがヒーローのようにも見えてしまうが、かと言って彼らが善と言うわけでもない。

騙される側がとても滑稽なわけだが、これは騙される人間も所詮は愚かな人間だと言うことだ。
よく、正直者は馬鹿を見るとか良い人だから騙されるなんて言うが、本作で騙される人間たちはそうではない。

騙される理由は愚かだからだ。
金、利益、出世、派閥争い、プライド。
そんなものに翻弄されているから彼らは騙された。
しかし騙された彼らが執着しているそれは、現代社会では絶対的な存在でもある。
皆それらのために生きているのだ。
ドラマを観ている僕たちだって同じではないだろうか。

地面師たちはそこにつけ込む。
絶対的なものを盲信する我々を嘲笑うかのように。

詐欺師が強いのは常識の外側にいるからだ。
そもそも犯罪を行っている彼らは常識外れの権化のような存在である。
そりゃ常識の内側で生きている人間は太刀打ちできない。
詐欺師はなんでもありで攻めてくるんだから。

ただ、僕たちが盲信している常識的な社会を、このドラマの地面師たちはぶち壊してくれる。
そこに気持ちよさを感じてしまったのは否めない。

僕自身が現代のこの社会をくだらないと思っている。
金さえあれば幸せになれる。
いい会社に勤めて出世するのが成功だ。
なんか馬鹿馬鹿しい。

資本主義が絶対的な社会なんだから、地面師のような詐欺師が一番強いのは仕方ない。
人間が金や土地のような空虚なものに執着するから、地面師が成り立っているのだ。
地面師はこんなくだらない社会へのカウンターであり、現代社会の脆弱さを浮き彫りにしてくれた。

詐欺師に騙されないためには、そんな執着を捨てなければならないのかもしれない。


最強の人間

本作では主要な登場人物がほとんど死ぬ。
ただ、主人公の辻本、地面師リーダーのハリソン、刑事の倉持の3人は生き残る。
彼らの共通点は、“金”を巡る物語の中で“金”の外側にいるという所だ。

特に本作で最強な存在であるハリソンは、あんな大規模な詐欺を計画し実行し成功までしているのにも関わらず、全く金に執着していない。
それがハリソンがこの物語中で最強たる所以だと思う。

結局、金に執着していないから勝てるのだ。
多くの登場人物は金に翻弄されたが故に破滅してしまう。
一方、ハリソンは金のために行動していない。
彼が望むのは、勝つこととそれに伴うスリルだけなのだ。
だから金に目が眩み裏切ることはないし、逆に金に翻弄された人間を冷酷に切り捨てる。

辻本や倉持に関しても原動力は金ではない。
辻本はもともと復讐心が原動力だった。
詐欺をしている時にしても金のためではなく、ただ詐欺というゲームに熱中していたに過ぎない。
ハリソンが辻本を信頼していた理由は、そこにあるのだろう。
倉持は刑事としての正義や己の信念を貫いていた。

金が絶対的な現代社会では、金をたくさん持っている人間が強者で勝者だと思われがちだが、実は金なんかに執着しない人間が一番強いのだ。


馬鹿らしい社会

騙している地面師にしろ、騙されている企業側にしろ、この二者の駆け引きをエンタメ的に楽しんで観ていた反面、ものすごく滑稽な世界だなとも思ってしまった。
たかが金のために馬鹿馬鹿しくないか?
結局、真剣に金や名誉や幸福のために命を掛けている人間より、ゲーム感覚で楽しんでいる人間が一番強いのだから。

そして、騙される側がくだらないものに執着してるからこそ、この世から詐欺がなくならないのだろう。

本作のような地面師詐欺以外にも様々な詐欺がある。
人の欲望につけ込むだけでなく、人の善意につけ込む詐欺ももちろんあるが。

騙し騙されを善悪で割り切ろうとするような人間ほど騙されてしまうのかもしれないな。
でも世の中そんな単純じゃない。

よく、この人はいい人そうだから、と簡単に他人を信用してしまう人がいる。
人を信用することは悪くはないが、いい人って何なのかと自分の頭で考える必要があると思う。

騙される人間がいる限り騙す人間はいなくならない。
そして、騙される人間がこの世からいなくなることはない。
善悪ではなく、光と影なのだろう。
人間が存在する限り詐欺はなくならない。

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