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【短編】西日

群れだって建てられたマンションの一室に西日が差し込み、部屋にあるローテーブルとガラスの花瓶、テーブルに肘をつきながらゲームをする男の子を琥珀色に染める。その男の子は、この家に住む家族の末っ子、2人兄弟の次男。次男は頬にあたる西日を気にも止めず、ゲームのスティックを回しボタンを押し続ける。

陽がさらに落ち、光の色が濃くなった頃、家の鍵が開けられる。学ランを着た長男が扉を開け、靴を脱ぎ、玄関の近くにある子供部屋に荷物を投げ込む。そのまま少しばかりの廊下を渡り、西日が差し込む部屋へ。

部屋に入った長男に次男は、ゲームを置いて、おかえりーと言う。長男はそれに答えず表情を動かさぬままに、次男の腹部を蹴り上げる。床に転がる次男。長男は次男の顔を左手でカーペットに押しつけ、お前、昨日なにした?と言う。次男が、え、と口にすると同時に長男は右手を振りあげ、次男の頬を目がけて拳を振り下ろす。

骨と骨がぶつかる音が柔らかなカーペットに吸われつつ部屋に小さく響く。長男は次男に馬乗りになり、右の拳を振り上げ振り下ろす。振り上げ振り下ろす。振り上げ振り下ろす。ごめん、ごめん、と次男は繰り返すが、長男はやめない。

西日が2人を染める。次第に次男は細切れに息を吐きはじめ、それはすぐに笑い声に変わる。なに笑っとんねんと長男が拳を振り下ろす勢いを強めたものの、次男の笑い声は止まらず、ごめん、ごめんと言いながらも、さらに大きく笑うようになる。長男はその姿を見て、顔を引き攣らせる。次男は笑い続ける。黙れや、と叫び長男はローテーブルに置かれていたガラスの花瓶で次男を殴る。

前頭部にぶつけられた花瓶は割れ、ガラスが部屋に飛び散る。破片は西日を反射し光る。長男は次男の顔を確認する。血は出ていない。殴打される瞬間だけ笑うのをやめた次男は、長男の顔を見て再び笑いはじめる。長男は、ごめんな、大丈夫か、と次男に聞く。次男は笑いながら大丈夫、大丈夫、と答える。そして、ガラス、集めよ、と言う。長男は立ち上がり、部屋の引き出しをあけビニール袋を取り出す。次男は上半身だけ起き上がらせ、ガラスの破片を大きなものから拾いはじめる。長男は破片を集めながら次男に、ほんまに大丈夫か、と聞く。次男は笑って、大丈夫、と答え、兄ちゃんこそ大丈夫?と言う。陽が完全に沈み、暗くなった部屋。長男は掃除機をとりにいくついでに部屋の電気をつける。

しばらくたち家の扉が開く。母親が、ただいま、と言いながら廊下をわたり、蛍光灯に照らされた部屋に入る。

ゲームをする次男の頬が赤く腫れていることに気づいて母親は言う。どうしたん、それ。次男はゲームをやめて答える。ううん、ドッジボールしてたらね——

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