小説を書く日記④

先日書いた小説の中のエピソード。僕の欠点の一つに読み返さないし、推敲を最低限しかしていない。それは本当にダメだとわかっているけれど、やりたくない。自分の作品を読み返すのってなんかなんだろう面倒くさい。
しかしそれはやらなければいけないので、日記上でやることにする。 誰にも見せる予定のない小説なので、日記上でやらなければ絶対やらないので。

以下が先日書いた小説で、こういうエピソードを重ねて小説にしようと今考えている。
何を考えてこの小説を書いたのか。
考えていく。基本的には無意識で書いているので、意識をさせる。
まず冒頭はいつも悩む。どっかの誰かに冒頭の一文が一番大切だと聞いたことがあるので、その誰かの言葉を信じて冒頭はいつも考え込む。これがうまく思いつけば、すらすらーと書ける。1000文字くらいは。そこからは冒頭のブーストも効かない。現に今も書けていない。
といっても、冒頭がうまくいっているかは、まだわからない。冒頭には『川はどうやって作られるのだろう、と考えてすぐにやめた』と書いた。
急に川の話?となるが、この小説自体が「ダイニングテーブルを探す」という生活を小説にするということなので、ダイニングテーブルから一番遠いものを考えて、そこから始めようと思った。最初『「ダイニングテーブル欲しいんだけど」とローテーブル越しで彼女が言った』みたいな文章を書いていたが、それはただのコントの始まりにしかならない。『あ、こんなとこはにファーストフードができたんだな、入ってみるか』と同義。
なので、遠くから書こうと思い、『ダイニングテーブル』→『家のもの』→『外』みたいな連想ゲームと自分が書いていた時に頭に浮かんでいた疑問をそのまま書いた。これがうまくいくのかはわからない。生活を書こうとしているので、突拍子もないなという判断をしたら、変えなければいけない。
さらにいえば一応、エピソードの終わりまでは書いているが、ただの文章としてはまだ何もしていないに近い。
動きだけを書いているので、ここから何を書いて何を書かないのかを選択していく。
小説って日記と違って書くことの選択な気がする。

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 川はどうやって作られるのだろう、と考えてすぐにやめた。隣で僕と同じようにスマホを見ている玲奈さんに尋ねようとしてやめた。特に動く理由もなく僕らは部屋の中でただ過ごしている。
 玲奈さんは何をやっているのだろうと起き上がって見る。僕が動いたことで玲奈さんも僕を見る。
「何? どうかした?」
 玲奈さんが僕を見ながら言う。特に何もなく、どうもしていないので無言。
「別に、ただ日々が終わっていくなって」
「そうね、」
「うん」
 会話も続かない。二人とも寝そべって天井かスマホの小さな画面を見ているだけ。僕らの世界は二人が寝そべるくらいしか存在しない。
「なんかさ、」
 玲奈さんがスマホの画面を見ながら話し始めたので、僕は玲奈さんを見る。
「なんか、別になんかあったってわけじゃないんだけどさ、昔仲良かった人とかからさ、連絡来たときってどうしようとって思う。別になんで連絡してきたんだろうっていうそういう理由みたいのがわかれば、なんとなく心が保てるんだけど、今平気? とか聞かれると平気ってなんだろうってなるというか、」
 玲奈さんはいつも僕に尋ねているようで、自問自答をする。僕は彼女の自問自答だとわかりつつ、うん、うんと句読点があるであろう箇所に相槌を埋め込む。
「それって一緒に住んでたヤバい人だった人?」
 昔、玲奈さんから聞いたヤバい人のことだと思って尋ねる。何がヤバい人なのかは思い出せない。ただたしかヤバかったということだけが印象に残っている。
「そうそうそう、その人で、なんか安定しない人だったから何か万が一のことが起きてしまったのかなあって思ってたんだけど、どうしようかな、平気ってだけ送ろうかな」
「送ってみたら」
「スタンプだけ送った」
「あ、言葉ではないのね」
 僕はかつて聞いたはずの何がヤバかったのかを思い出そうとしている。
「あ、沼を作ろうとした人?」
 思い出す。玲奈さんが話していた沼を作ろうとした恋人。
「そうその人、また沼でも作ってくれればな」
 沼ってどうやって作られるのだろうと、さっき似たようなことを考えていたのは昔に沼を作ろうとした人、って書くと偉人のようだけど、沼作成未遂の人のことをかつて聞いていたからだろう。
 どうやったのかというと、玲奈さん曰く、一緒に住んでいた家の近くにあった空き地に窓からホースで水をずっと撒き続けていたらしい。地面をぬかるませ、どんどん水を撒いていると、そこに虹がかかっていたらしい。なんで沼を作った理由はわからない。ただ一緒に観ていた映画のせいかもしれないね、と玲奈さんは昔話していた。彼女はそういうすぐ影響を受ける人なんだよと笑っていたのを思い出す。結果、沼はできたのだろうか。沼を作ってどうしようと思っていたのだろうか。
「沼を作ってどうしようと思ったんだろ」
 沼を作っていない玲奈さんに聞いてしまう。
「なんだろうね、聞いてみよっか」
 イッヒッヒヒと魔女が笑うような声。玲奈さんも楽しくなってきたのかもしれない。そんな沼を作ろうとした彼女と付き合って同棲をしていたのに、別れてしまって僕と今付き合って同棲をしているのはつまらなくないのだろうか。
 僕は沼を作らない。川も作れない。
「楽しい?」
「ん? 楽しくなってきた」
 多分僕の思う質問の意図は通じていない。しかし楽しいのなら良いと思う。
「早く既読にならないかな」
 玲奈さんは起き上がってスマホの画面を見つめていると返事が通話できたらしく、慌ててスマホを落としそうになりつつ通話に出た。
「久しぶり、うん、大丈夫、うん、うん、あーうん、あーそうなんだ、ほんとに? へー」
 ヤバい彼女が話している内容はこっちまで聞こえてこない。玲奈さんの相槌だけでは会話は想像できない。
「うん、へーあ、変わるんだ、へー、あ、そう、おめでとう、うん、うん、まあ、うんそれは、まあいいかな、元気でやってるなら、いいし、うん、じゃあ、うん、はーいじゃあねー」
 通話が終わり、スマホをひょいっと優しく投げた玲奈さんに聞く。
「なんだった」
「結婚するんだって、りえのやつ」
「そっか」
 結婚か、その報告だったのか。僕らも意識してしまう、結婚。
「それでね、苗字変わるんだって、なんか勝手にそういうの嫌で結婚とかしないと思ってたけど」
「うん」
「苗字、作る沼と書いて作沼になるんだって」
「沼作ったのか!」
 二人で笑顔。
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