ゆかりある日記 その6

覚えていないらしい
朝起きて歯を磨きながら窓の外で取り壊されていく家を見ていた。家の原型はもうなくなっていた。早いなあと思っていると、横で寝ていたゆかりさんに急に足を掴まれ揺らされる。何をするんだ、の思って声をかけてもゆかりさんはまだ寝ていた。

寝癖
出かける準備が終わると、ゆかりさんが両手を挙げてあくびをしていた。出かけるよ、というと本人はすごいスピードで動いているけれど、僕にはゆっくりとしか見えない速さで起き上がったところ、髪型の上に髪型が乗っているような、髪型の上に他の髪が縦横無尽に跳ねている寝癖になっていて、思わず笑って写真を何枚も撮った。アメリカの大学生が卒業式でかぶる帽子のような寝癖だ。
撮られている間はゆかりさんは立ったまま。寝起きで判断がうまくできていない。

一人
一人で歩いていると、ゆかりさんに鉄のフライパンの話をするのを忘れていたと思い出す。
ただゆかりさんといるときは全く思い出さない。
鉄のフライパンを洗わず使い込むことを育てるというらしいというだけの話なので、しなくても良い。

同じなのに別の場所
上京してきた友人と会うために出勤よりは遅く家を出る。微妙な暑さで、朝早くからやっているスーパーへ寄る。子どもがいないからお土産に何を買ったら良いのかわからなくなってジュースもビスケットを買って駅へ向かう。開店直後なのに大量に買う人たちがいて、平日の午前中にいつも行く場所へいくのは不思議な感じがある。まるで別の場所。

友人
待ち合わせの公園に少し早く着く。少し待っていると保育園の散歩の集団が前を通る。すごく良い公園だねー!と僕にまで届く声で言う園児がいてそれに同意をしていたら、子どもを連れたMが来た。公園を歩きながら近況を話す。久々に会うはずなのに、昔ファミレスで喋り合っていたのが昨日かのように話は弾む。池にいる鯉は跳ねる。
話しながら散歩をしている平日午前の公園。
なんとなく幸せかもしれないなとMの子と手を繋ぎながら思った。歩きながら僕とゆかりさんのこれからの話になる。
「伊藤さんは大丈夫だよ、もう父親だよ」と母親のMに言ってもらえる。なんとなく欲しい言葉だったのかもしれない。友人と公園から六本木まで話しながら歩く。大丈夫の言葉がずっと心に残っている。
六本木で別れて、僕は地下鉄で電車に乗ろうとしたが、迷ってずっと六本木の地下を歩き続けていた。方向音痴だけは大丈夫ではない。

ゆかりさん
回転寿司屋でお昼ご飯を食べる。
するとカントリー調の音楽が聞こえる。ゆかりさんがミスタードーナツのような音楽が聞こえると言い始めた。
ミスタードーナツの音楽はカントリー調らしい

ゆかりさん
帰宅して部屋で寝そべり休んでいると、犬が吠えあっている声が聞こえた。ゆかりさんはそれを聞いて、ケンカだ!ケンカだ!と言う。特に外を見に行こうとはしない。口ではケンカだと言っても微動だにしない。

#日記

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