ゆかりある日記 その30

あと20分でアラーム?

洗濯機が震える音で起きる。昨日ゆかりさんが予約をしてくれていたらしい。文学フリマの次の日は極力休みにしている。洗濯機が振動がイク直前のように激しくなり感覚が短くなって、イッたようで音が鳴る。
僕はその間、昨日の文学フリマのことを検索して余韻に浸っていた。ゆかりさんを見ると洗濯を終えた音で起きたようで、干すよー、と弱々しい声で言う。じゃあそれに甘えようと思って、またスマホを見ていたが一向に起きる気配がない。起きないの?と聞くと、あと20分で起きる…と寝言のように言うので、ゆかりさんは起きていなくてまだ寝ていると思い、洗濯を干す。
雨の日が続いたからもう一度洗濯機を回したい。干してまた洗濯機を回す。洗濯物をベランダに出していると、ありがとう、と街を救ってもらった村人のように言うので、何時に起きるの?と聞くと、20分にはアラームが、と言ってまた目を閉じた。
僕はテレビをつけてスッキリを観る。オードリー 若林さんの結婚のニュースが見たい。テレビをつけてもゆかりさんは寝たまま。テレビを観ているとすぐにまた洗濯機が終わりを知らせる。洗濯終わったよ!とゆかりさんに言うと、20分にはアラームが、とまた言っていたので、僕が干した。雨が降りそう。

渋谷に夏

文学フリマの次の日は休みにしていたし、洗濯を終えたし、何をしようと思っていたらゆかりさんが渋谷に用があるらしく、それについていくことにした。昨日手に入れた本を持って出かける。
雨が降りそうな天気だったのにいつの間にか晴れていた。そして暖かい。春が来たのかもしれない。文学フリマが春を呼んだのかもしれない。
渋谷に着くと人が溢れていた。平日なのに。平日の昼間なのに渋谷にいる人は休日なのか。
ゆかりさんについていき、用がある場所の前で別れた。別れてしまって気づいたが、自分がどこにいるのかわからない。方向音痴がここで発揮されるとは思わなかった。広い道を探す。早くスマホで地図アプリを調べたら良いのに、調べるのは負けな気がする。広い道を嗅覚を使い、遠くに見えるビルに向かう。曲がり曲がり元に戻って曲がり、広い見覚えのある道に着いた。よかった。汗だくだった。僕か渋谷に夏が来た。

渋谷のマクドナルド自宅

迷っていたが、本屋に逃げて、マクドナルドへ逃げてようやく落ち着き本を読む。昨日文学フリマで購入した「生活の途中で」という更新されるのが楽しみなブログを書いているミワさんが主催の本だ。あらゆる人が、生活を書いている。読みながら、ああ好きだと思った。自分がこの中で何かを書いている妄想もした。
安くなったポテトはいつの間にか冷たくなっていた。駄菓子のような味になったポテトを食べ終え、本を読んでいると、用を終えたゆかりさんから帰るよと連絡が来た。仕事を終えた時にくる連絡と同じ文言だったので、マクドナルドが自宅のように一瞬だけ思った。すぐにマクドナルドを出てゆかりさんに会う。
良い本を読んでいるんだよ、とゆかりさんの用について聞かずに言う。

渋谷のパルコ

せっかく渋谷にいるのだから新しくなったパルコへ行こうと思い、向かう。人が溢れている。人が人を産んでいるのかもしれない。
かもしれないじゃない。人は人を産む…
パルコでは外国人がたくさんいて、上の階から順次眺めていく。すれ違った人が、「まだ新鮮な匂いがするよね」と言うので、匂いに意識を向けると、新品の電化製品のような匂いがした。

渋谷の帰り

渋谷から離れる。ちょうど帰宅ラッシュで人が多いが、読みかけの「生活の途中で」を読む。こだまさんのところで泣きそうになる。そしてミワさんの文章にも感情が揺さぶられ泣きそうになる。
歯を食いしばって鼻から息を吸わないようにして我慢して顔を上げると、窓に映るゆかりさんが僕を見ていた。
「リンガフランカ」という芸人を題材にした漫画では相方として自分のもう半分になるような存在を探していたが、僕にとってゆかりさんはもう半分なのかもしれないと思いつつ、GAME BOYZさんの冒頭の文章が自分の想像できる冒頭とは大きく違って面白くて、とても良かった。こんな良い本を文学フリマで買えるのか、と思って今までは自分が書かなくてもと卑屈に自虐で自分の気持ちをごまかしていたけれど、僕は僕の楽しいままゆかりさんのことや周りのことをもう少し言葉のレベルを上げて書こうと思えた。クローゼットに置いてある庄野潤三を読んで考えていきたいと思った。まだまだやれることはあるので楽しみだ。
そして大好きなロロの三浦さんの文章を読む。やはり大好きだと思った。自分を飾らない、自分から離れていない文体が好きなのだと思う。
自分はどうなのだろうということは置いておいた。電車の中に置いたまま、駅に着いた。降りる。

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