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【シナリオ】リナクの街のおとぎ話

シナリオセンター課題「盗人」

人物

  • ウブンツ(23)旅人

  • デビアン(20)技師

  • フェドラ(30)豊穣の神

  • セントス(21)衛兵

本文

砂漠・俯瞰(夜)

夜空一面に輝く星。砂丘に長い足跡。

足跡の先にラクダと人影がある。

同(夜)

ラクダと共に歩くウブンツ(23)。男性。革製の水筒を傾けるが空っぽ。何度も水筒を揺するウブンツ。

強い日差しを放つ太陽。

簡易テントのひさしにうずくまるウブンツ。目が座っている。

ウブンツ、ラクダに近づく。その手にナイフが握られている。

眩しく光る太陽。ラクダの悲鳴。

ラクダの亡骸から血を啜るウブンツ。

×    ×    ×

少ない荷物で一人歩くウブンツ。

ウブンツが砂丘を越える。その先に街。ウブンツ、目を見開き砂丘を転がり落ちるように城壁に近づく。

城壁・前

短い吊橋の先に白銀の鎧を着たセントス(21)。ウブンツが近づく。
セントス、槍をウブンツに向け、

セントス「何者か」
ウブンツ「(かすれ声で)…水、水をくれ」
セントス「…貴様、見ない顔だ。旅の者か」

頷くウブンツ。セントスはにやりと笑い、

セントス「水?水といったか?いいだろう。これを五十ウルで譲ってやる」

セントスが腰の水筒を指差す。

ウブンツ「…相場の五十倍だ」
セントス「嫌なら野垂れ死ね」

ウブンツが渋々金を取出す。セントスはそれをひったくり、水筒を差し出す。

ウブンツは水筒を傾けるが、何も出てこない。セントスが大笑いする。

ウブンツ「きさま!」

ウブンツがセントスに掴みかかるが、すぐに振り払われてしまう。

地面に突っ伏すウブンツ。

セントス「リナクへようこそ。旅人」

バザール

人でごった返し活気あふれる市場。フラフラと歩くウブンツ。

ウブンツの耳に水のせせらぐ音。ウブンツはハッと顔を上げ、音の聞こえる方へ急ぐ。

水路

地面を掘り下げて作られた小さな水路。その脇に立つデビアン(20)。男性。大きな紙を拡げ見ている。

デビアンの後ろの角から千鳥足のウブンツが現れ、その場に倒れ込む。
驚き後ろを振り返るデビアン。

デビアンの家・中

ウブンツがベッドの上で目を覚ます。体を起こしかけてあった毛布を見る。続いて辺りを見回すウブンツ。土石で作られた壁や家具。

側で読書していたデビアンが気づく。

デビアン「おや、目が覚めたね」
ウブンツ「…お前、助けてくれたのか」

毛布をとりウブンツが頭を下げる。

ウブンツ「命の恩人だ。ありがとう」

ニコリと笑うデビアン。

デビアン「いいさ。君、旅人だよね。ここの陽気は外の人には厳しいだろう」
ウブンツ「あぁ…しかし市場は凄かった。真昼だというのにこんなに活気のある街は初めてだ」
デビアン「そりゃそうさ。この街に夜はないからね。昼でもみんなせかせか働くさ」

ウブンツの驚いた表情。

ウブンツ「何だって?夜がない?」
デビアン「なんだきみ。知らずにこの街に来たのかい。この街の夜はね、フェドラ様に取り上げられてしまったんだ」

ウブンツ、目を見開き、

ウブンツ「驚いた。神の御技か」
デビアン「そうだよ。フェドラ様ね」
ウブンツ「この度で何柱か神に会ったが、皆人と交わるようなことはなかった…生きていけるのか、夜がない砂漠で」
デビアン「ああ。それこそフェドラ様のお陰でね。こんな街でも穀物が育つのは彼女のおかげさ」
ウブンツ「それなら人から砂漠の夜を取り上げるなんて…なぜそんな酷いことを」

デビアンが肩をすくめる。

デビアン「さぁ…神様の考える事だから」

デビアンが立ち上がる。手にした大きな紙を広げ、ウブンツに見せつける。

デビアン「それに今は、これもある。君も見たろ。水路を建設中なんだ。もうじき完成する」
ウブンツ「あぁあれか。あれも凄かった。治水なんて王都でしか見なかったぞ」

デビアン、嬉しそうに手を広げる。

デビアン「そうだろうそうだろう!見てくれよこの地図。ひいひいひい爺さんから続く一族の大事業さ。僕の代でやっとこの辺りの水脈を網羅したんだ」

愛おしそうに地図を眺めるデビアン。

ウブンツ「…俺も何か手伝おうか」
デビアン「いい、いいよ!ずっと昼だからわかり辛いけど、君丸三日寝てたからね。無理しない方がいい。僕は水路の様子を見にいってくるよ」

身支度をするデビアン。扉を出るところでウブンツに振り返る。

デビアン「あ、そういや君、歌は得意?」
ウブンツ「…まぁ。路銀の種だからな」
デビアン「そうか。それなら落ち着いたらフェドラ様に奉じにいってみたらどうだい。僕らの神は退屈しているようでさ」

デビアン、それだけ言い残し手を振って出ていく。ウブンツは腕組し、

ウブンツ「神か…それなら或いは妹の…」

神殿・中

誰もいない巨大な神殿。石柱が左右対称に並び、その中心に玉座。

玉座の前でハープを手に歌うウブンツ。玉座に座るフェドラ(30)。女性の姿。足を組み、肩肘をついてウブンツを見下ろしている。

曲を終え一礼するウブンツ。

フェドラ「人間。悪くなかったぞ。この歌はそなたの旅の記憶か?」

跪き頷くウブンツ。

フェドラ「ふむ。妾の暇を潰した礼じゃ。褒美をとらすぞ。何が良い?」
ウブンツ「滅相もない…」
フェドラ「何をいい子ぶっておる。聞きたいのじゃろう?妹のこと」

ウブンツ、驚き顔を上げる。フェドラはケラケラ笑い、

フェドラ「妾にわからないとでも?どれ折角じゃ、詳しく見てやろう」

フェドラ、玉座横の鏡を手に取る。

フェドラ「ふむ…これがお主の妹か。奴隷として売られ…可哀想にのう。で、それを追ってお主は旅をしているわけだ」
ウブンツ「…はい。フェドラ様、妹の居場所を教えて頂けないでしょうか」
フェドラ「教えてやってもよいが…歌だけではちと不足じゃのう」

フェドラ、舌なめずりしてニヤリと笑う。わざとらしく手を叩き、

フェドラ「そうだ。妾はあれが欲しい。デビアンとかいう小僧が持っている水源の地図。あやつ、相当なお人好しらしい。盗むのは容易いじゃろう」
ウブンツ「え…」

表情が凍りつくウブンツ。

ウブンツ「あれは、先祖から受け継いだ大事なものだと…」
フェドラ「(大声で)うるさい!」

フェドラが立ち上がり、髪を逆立て口から少し火を吹く。ウブンツが跪く。

フェドラ「あれは人間には過ぎた代物じゃ。水路なんぞ作ろうとしおって。忌々しい」
ウブンツ「しかし街の発展にはよいかと…」
フェドラ「発展!?この妾がいてそんなものが必要と思うか」

フェドラ、苛ついた声で、

フェドラ「大人しく雨乞いだけしていれば、ずっと恵みを与えてやったものを。浅ましい人間どもめ、近頃は贄も出さん」
ウブンツ「…神よ、それで夜をお奪いになったのですか。街の発展を防ぐために」
フェドラ「奪った?あれは必要な躾じゃ」

フェドラ、再び玉座に腰掛け、

フェドラ「お前も妾の言に従うがいい。話はそれだけじゃ。さっさと行け」

デビアンの家

扉が開き、デビアンの家に入るウブンツ。デビアンが寝息をたてている。

デビアンの枕元に近づくウブンツ。枕元の地図を手に取る。

地図を握りしめるウブンツ。その手が震える。

ウブンツ、長い溜息をつき、地図を離す。そのまま部屋の窓に移動する。

強い日差しを放つ太陽。ウブンツは眩しそうに目をすくめるが、次第に慣れていく。最後にはしっかりと目を開く。

ウブンツ、窓から離れデビアンの肩を叩く。デビアンが目を覚ます。

デビアン「あ、あぁ…君、帰ったのか」
ウブンツ「まぁな。ところでこの水脈の地図なんだが、少し借りれるか」
デビアン「え…どうして?」
ウブンツ「神にこの地図を奪えと言われた」

デビアンが息を呑む。

ウブンツ「なあに、心配するな。こいつを餌にして逆に奴の鏡を盗んでやろうと思ってな。力の源泉らしい」

デビアンがガバリと体を起こす。

デビアン「え!?ちょ、ちょっと待って君、フェドラ様に逆らうのか?何でそんな」
ウブンツ「…何でだろうな」

ウブンツ、一つ溜息し、

ウブンツ「俺はどうも、神に背くことより恩人を裏切ることの方が怖いらしい」

弱々しく笑うウブンツ。

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