15年ぶりにYコンビネーターが採択した日本発のスタートアップ「テイラー」とは
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今月、設立2年目のスタートアップ、テイラーは、米国の名門シードアクセレーターであるYコンビネーターの育成プログラムに採択されたことを公表し、国内スタートアップシーンで大きな話題を呼んだ。
グローバルスタートアップへの登竜門とも言うべきYコンビネーターに参加する日本拠点の企業は実に15年ぶりとのことだ。
世界のトップVCも認めたテイラーが解決する「日本のIT課題の本丸」とはなにか。そして、知られざるYコンビネーター採択の要件とはどのようなものか。
過去に、店舗集客サービス「スマポ」、タクシー配車アプリ「日本交通タクシー配車」などのプロジェクトに携わり、3つの会社の創業・売却の経験を持つシリアルアントレプレナーでもある代表取締役の柴田陽氏に「企業データが使えるノート」のアナリストである早船明夫がインタビューを行った。
日本のIT課題本丸に挑むテイラーとは
2018年、経済産業省は日本企業のITシステムに関する構造的な課題をDXレポートで明らかにした。
大企業を中心に、既存システムが事業部門ごとに構築され、全社横断的なデータ活用ができず、複雑化・ブラックボックス化した結果、2025年以降に多額の経済損失が生じる可能性が指摘されている。
諸外国ではIT人材が社内に在籍しており、基幹システムを自社主導で構築することに対し、日本ではシステムの開発・運用をSIerに依存してきたことなどから「日本のIT関連費用の80%は現行ビジネスの維持・運営に充てられている(DXレポート)」などの根深い問題を抱えている。
そのため、同レポート内ではIT人材がベンダー側から、ユーザー側に移行する必要性が示されているが、長年に渡り続いてきた状況を打破することは容易ではなく、具体的な解決策も乏しい。
このような「日本のIT課題の本丸」に対し、テイラーの「ローコードに近い形でERPを構築できるシステムを提供する(柴田氏)」サービスはこの課題解決の呼び水となる可能性がある。
ここからは柴田氏に独自の視点を聞いていく。
シリアルアントレプレナー柴田氏が7年越しにサービスを立ち上げた理由
――― テイラーのプロダクトをつくろうとされる経緯は
柴田氏:テイラーを起業するまでにさまざまな分野でのプロダクトローンチを試しながら、「これだ」というテーマを考えていたら、7年が経っていました(笑)
その中で、自身で製品開発をする機会も多数あり、ローコードを用いることで、想定よりも複雑なシステムを手軽につくることが出来たという体験がありました。
世の中の流れとしても一から開発するのではなく、ローコード、ノーコードの流れが加速していくことは明らかです。フロントエンド側のツールは多くのプロダクトが勃興しているのに対し、バックエンド側のプロダクトが少ないことに着目をし、ERPをローコードで構築できる「Tailor Platform」を作りました。
――― テイラーが解決する課題はどのようなものでしょうか
柴田氏:主に国内のエンタープライズにおいては、基幹システムやERPを構築する主体は、ユーザー側ではなく、SIer側などのベンダーとなってることが多く見受けられます。
そのような関係上、個別カスタマイズしたユーザーサイドの要望が反映され、技術的には綺麗なアーキテクチャをもったシステムにはなっていないことが散見されます。一方で、ベンダーはユーザーの業務理解が深くないため、現場が使いやすいシステムが作られない。
つまり「技術と業務の両方を熟知している人がシステムを作っていない」結果、多くの非効率なシステムが残り続けている点が最大の課題なのです。
これを解決するのが「Tailor Platform」です。
――― IT人材がユーザー側に少ないという国内環境の中で、テイラーのシステムは有効に活用されるのでしょうか
柴田氏:テイラーが提供するシステムでは、ERPをモジュールを組み立てるように作ることを目指しています。
これは住宅建築で言えば、2x4工法の建築のようなもので、あらかじめ決められた規格の部材を組み上げる事で、完成までの生産性が上がり、コストが一気に下がります。
企業のシステム開発においても、予め組み合わせ可能なシステムを提供する事で、工数が大きく下がるとともに「プログラミングではなく、ローコーデであれば自社主導でシステムを構築したい」という人材を増やすことが出来ると考えています。
これは私たち独自のアイディアでありません。
ITの歴史は常にそのような流れを辿っており、サーバを購入し、インフラ環境を整えていた時代からAWSのようなクラウド型のサービスに移ることでニーズや人材が増えたことなどからも明らかです。
ガートナーの調査によれば、2024年にはアプリの新規開発の65%はローコードでつくられるという予想もあるほど、多くのシステムはローコード化していきます。グローバルの一大トレンドであることは間違いありません。
――― 現在の製品の完成度や市場環境をどう見ているか
柴田氏:私たちが取り組むERPという領域は確固とした定義があるわけではないので、表現が難しいですが、全体構想の20%程度も完成していません。現在は、数社にサービスを提供し、開発を進めている状況です。
ミドルウェアレイヤーからサービスを開始する企業はあまり多くないので、世界にも明確な競合がいる状況ではないと思っています。
一方で、Salesforceなどが機能拡張やAPI連携を強めていることに代表されるように、SaaSなどのフロントエンド側が領域を広げており、ユーザーの独自開発を行わずシステムを構築したいニーズに高まりを感じています・
グローバルスタートアップへの登竜門 Yコンビネーター挑戦のリアル
米国のベンチャーキャピタル「Y Combinator」のアクセレータプログラムは過去にAirbnbやDropbox、Brex、Stripe、Coinbase、OpenSeaなど名だたるスタートアップを輩出してきた。
今回、テイラーは日本拠点のスタートアップとしては15年ぶりの採択企業となった。Yコンビネーターのプログラムを受ける狙い、採択の秘訣を聞いた。
――― 柴田さんのnoteでは「環境が起業家を育てる」という重要性からプログラムを受けたと書かれていましたが、参加のメリットを教えてください。
柴田氏:Yコンビネーターでは3か月間に渡り、1週間に一度パートナーとの定期ミーティングや「demo day」と呼ばれる、プレゼンテーションがプログラムの中心となります。
定期ミーティングを行うパートナーは、実際にスタートアップをつくった起業家でもあります。私を担当している方も過去にARR100Million USD、調達額300Million USDといった規模の企業を経営していました。
そのような経験を持ち、複数のバッチのメンタリングも行っているので「Brexが君たちくらいのころには、、」といったアドバイスが受けられるのは得難い経験です。
日本でARR100Millionを超える企業は4社程でしょうが、そのような経営者から定期的に直接フィードバックを得る機会はないと思いますし、他のアクセレータプログラムにも特に応募はしませんでした。
――― Y Combinatorに採択された要因をどう振り返りますか
柴田氏:プログラムの申請にあたってはWeb上などでもかなり情報は出回っていますので、参考にしながら応募を行いました。
採択の理由については直接フィードバックは受けていないのですが、Y コンビネーターは、ハッカー志向が強いので、技術者が社内にいることを重要視している節はあります。
創業者の経験や相対する課題感の大きさ、またそれに対して、解像度の高い理解やソリューションの提示、なぜ自分たちはそれが出来るといった点を深く聞かれます。
意外に思われるかも知れませんが、フォーム通過後の面接は1回だけで、しかも15~20分程度でした。
この時間の中で、誰かが話しているような課題やプロダクトではなく、自身が考える本質的な視点を伝えるという、非常にベーシックなことが重要だと感じました。
プログラムを受ける中での経験や発見は、国内のスタートアップにも還流すべく、Podcastやnoteなどで今後も発信していきたいと考えています。
柴田氏が考えるグローバルスタートアップ誕生に必要なこと
――― テイラーの挑戦をはじめ、日本からも世界に挑戦する企業をつくるという機運が高まっています。柴田さんから見たグローバルスタートアップ誕生に必要なことはなんでしょうか。
柴田氏:まずは、絶対的にスタートアップの数が増えることが重要だと感じています。日本と米国を比べた時に同一の領域に対し、日本が2社のスタートアップがあるとしたら、米国では20社くらいの企業があるくらい、ピラミッドの大きさが違います。
学生起業なども含めて、若い世代によってたくさんの企業が生まれることが前提として重要ではないでしょうか。
加えて、製品の売り手だけでなく、買い手の変容も起きるとさらに良いと考えております。
特にBtoBにおいては、買い手である企業が保守的であることが多く、新しい技術や製品を試す傾向が米国に比べて少ないと思います。 購買サイクルが長くなると、資金力の小さいスタートアップにとっては難しくなり、結果的に中庸な製品を目指すことになってしまいます。
社会全体が「まずは試してみる」というようなマインドを持つと、ユニコーン企業が増えやすくなると考えています。
(取材・執筆・構成) 企業データが使えるノート 早船 明夫
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