【公開取材】 SaaSスタートアップはSIerの牙城を崩すのか
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2018年、経済産業省が公表したDXレポート。
「デジタル競争の敗者」や「サイバーセキュリティによる災害」といったバッドシナリオへの警鐘は、今、現実のものとなりつつある。
課題の根底には、日本企業がITシステム開発をベンダーに一任し、既存システムへの保守や維持管理にコストを割かざるを得ない負の構造が存在する。
社内のIT人材不足、現場の抵抗、SIerのインセンティブなど変化を阻む理由を列挙すれば尽きないが、レポートの発行から5年経った今もブレイクスルーの兆しは見えない。
そのなかで金融機関の基幹システムに新たな潮流を巻き起こす、新進気鋭のスタートアップがある。
「金融を“サービス”として再発明する」をミッションとするFinatextホールディングスだ。
自身も外資系金融機関に勤めた代表取締役社長CEO林氏は「多くの既存の金融システムはユーザー満足度が低く、必ず切り替えが起きる」と、国内金融業界が抱える課題感に勝機を見出している。
日本企業はレガシーシステムと共に競争力を失っていくのか、あるいは、SaaSスタートアップはその救世主となりえるのか。
企業データが使えるノートでは、金融業界においてクラウド型のシステム提供を行い、DXを第一線で推進するFinatextホールディングス代表取締役社長CEO林 氏、取締役CTO田島 氏に取材を行った。
SaaSスタートアップはまだ企業ITの本丸に切り込めていない
近年、急成長を遂げているSaaSスタートアップだが、IPOを行ったSaaS企業のARR上位の顔ぶれを眺めてみると一つの傾向が明らかになる。
それは「中堅・中小企業向け」を主体とする顧客をターゲットとするSaaS企業、あるいは大企業向けであっても「非基幹システム」を提供するSaaS企業が、これまでのIPOの大半を占めてきたという事実である。
これまで急成長を遂げてきたfreeeやマネーフォワード、ラクスなどのSaaSスタートアップは、アーリー層を中心とした中堅・中小事業者へ展開し、数万規模の顧客を抱えるなど着実に市場を開拓している。
一方、従来から巨額の予算が投じられてきたエンタープライズ基幹システム領域については、依然としてグローバルベンダーやSIerがサービスの主要提供者であり、新興企業の影は薄い。
これは金額面で比較すると一目瞭然で、上場SaaS企業のARR上位28社の売上合計は2,387億円に対し、SIer各社の売上高は1社でも数千億から数兆円に上るなどエンタープライズ領域においては圧倒的な費用が投じられていることが分かる。
SIerのビジネスモデルは、システム導入に関わるコンサルティング・設計、開発、運用・保守の一括管理であり、ユーザー企業は自社にIT人材を抱えることなくIT環境を構築してきた。
しかし、個別開発や役務提供を前提としたサービス提供は、時間経過とともに保守コストが増加し、機動的な改修ができないなど経営に直結する問題につながっている。
日本の大企業の多くがレガシーシステムを抱え、「攻めのIT投資」が出来ず、大きなリスクが生じていることは2018年に公表されたDXレポート内でも再三指摘された。
それから4年が経過し、2022年に公表された「DXレポート2.2」においても「デジタル投資の内訳はDXレポート発出後も変化がなく、既存ビジネスの維持・運営に約8割が占められている状況が継続」と変化の兆しは見られない。
停滞が続く中で、基幹システム領域に「業界特化」を切り口として攻勢をかけるスタートアップがにわかに台頭し始めている。
これらの企業は、物流、金融、小売、製造業といったレガシー領域に特化し、時に「DX戦略の策定」といった上位概念の提案・立案を行いながら、クラウドシステムの提供を開始している。
この中でFinatextは、2021年にIPOを遂げた先行プレイヤーである。
同社は、展開する3つの事業セグメントのうち「金融インフラ」事業において、資産運用・保険ビジネス向けにインフラとなるクラウドシステムをAPIベースで提供している。
金融業界においては、DXレポートの指摘にもあるように、SIerを中心とした個別システム開発が続けられた結果、多額の保守・運用コストに悩む企業が少なくない。
Finatextは、共通性のあるクラウド型の基幹システムを提供し、導入・運用コストの削減を行うなど「次世代のシステム提供者」として急成長を遂げている。
ニッセイアセットマネジメントが提供する資産運用アプリケーション「Goal Navi(ゴールナビ)」は、Finatextのシステムを用いてサービス提供が行われ、従来型のシステム開発よりも短期間、低コストでのリリースを実現するなど、大手金融機関においてもクラウド型のシステム利用が始まっている。
Finatextは証券や保険などを中心に既に17社に対しシステムを提供し、2023年度には、25社導入の目標を示すなど、着実に金融業界におけるクラウド化を進めている。
セキュリティ要件やシステムの堅牢性など、一般業種よりも難易度が高い領域において、なぜ基幹システムの「クラウド化」を推し進めることができるのか。
ここからは、実際のインタビューから、その秘訣を探っていく。
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