【速報】2020年上期IPOと下期展望
IPOマーケットは復活したかーーーー。
2月まで堅調だったIPO市場は、新型コロナウイルスの影響を受けた株式市場全体の下落を受け、3月以降は、多くの企業が、新規上場の見送りや延期を強いられました。
5月には、新規上場が途絶えたものの、足元、6月24日には3社のIPOが再開し、好調な株価上昇を見せています。
" 企業データが使えるノート "では、新規上場時の有価証券報告書(Ⅰの部)などから、国内IPOデータベースを組成し、提供しています。
当記事では、国内IPOデータを基に2020年上期のIPOを振り返るとともに、2020年下期のIPO展望について考察を行っていきます。
1. 2020年上期IPO概観
まず、IPOの各数値を確認していきます。
< IPO社数 >
Q. 2020年上期のIPO社数は?
A. 34社で着地
新型コロナウイルスによる株式市場への影響から、新規上場の取り消し、延期が発生したものの、6月には、6社のIPOが再開され、上期全体としては、34社の実績となりました。
* 東証サイトなどから筆者作成
* 東証サイトなどから筆者作成
結果的には、例年水準のIPO社数に落ち着いたものの、IPOを中止・延期した企業は、2009年のリーマンショック以来最多の18社となっています。
3月末時点では、IPOマーケットの大幅にシュリンクする見立てがありましたが、4月以降、株式市場全体の急速な回復を受け、回復基調にある状況です。
< 時価総額 >
Q. 2020年上期のIPOサイズは?
A. 1位は、スピンオフ上場のカーブスHD 635億円
* 公募価格ベースの時価総額
* 東証サイトなどから筆者作成
2020年上期のIPOは、時価総額1,000億円を超える案件はなく、全体としては中小規模のIPOが目立ちました。
最も時価総額が大きなIPOは、コシダカHDからスピンオフIPOをしたカーブスホールディングスで、635億円。2位のフォーラムエンジニアリングも公募がなく、売出しのみの上場案件でした。
ロコガイド、ビザスク、サイバーセキュリティクラウドなど新興銘柄として注目を集める各企業は、100億円を超える規模で上場をしています。
昨年上期と比べても、50億~100億円規模のIPOがメインとなっている状況は変わりません。
* 東証サイトなどから筆者作成
<メイン市場>
Q. IPOの市場分布状況は?
A. 引き続きマザーズメインのIPOが主流
* 東証サイトなどから筆者作成
多少の変動があるものの、新興市場についてはマザーズが主流となり、IPOの65%を占めます。
長らく議論がなされていた株式市場の再編については、2022年4月より「プライム市場」「スタンダード市場」「グロース市場」へと変更になるため、今後は、新市場への移行を想定した市場選択が進んでいくものと思われます。
<業種>
Q. IPO銘柄の業種分布状況は?
A. サービス業のIPOが最多、情報・通信業は減少
* 東証サイトなどから筆者作成
昨年上期は15社だった情報・通信業が7社に減少しました。
ウイングアーク1stなどの情報・通信業に所属する企業が新規上場承認取り消しとなった影響やが見受けられます。
「ジモティー」や「グッドパッチ」は、「サービス業」に分類されており、IT企業の線引きが曖昧ではありますが、当該業種が15社のIPOとなっています。
また、ペルセウスプロテオミクスやバリオセキュアといったバイオ・医薬品業種に所属する企業も軒並み上場が見送られ、「医薬品」業種のIPO実績がない状況でした。
また、数は少ないものの、機械・ガラス・土石製品・鉄鋼・輸送機器・電気機器などの業種で上場がありました。
<主幹事証券>
Q. 2020年上期の主幹事証券獲得数トップの証券会社は?
A. 野村證券・みずほ証券 ともに8件を担当
* 東証サイトなどから筆者作成
主幹事担当 上位4社は、野村、みずほ、SMBC日興、大和となり、昨年同様に国内証券会社がトップ争いをしている状況です。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券は、担当1社となっていますが、時価総額(公募ベース)トップのカーブスホールディングスの主幹事を獲得しています。
2. IPOマーケットは復活したか?
< 近年で最多の公募割れが発生 >
Q. コロナ禍の影響を受けた当初のIPOマーケットの状況は?
A. 3月IPO銘柄を筆頭に、18件の公募割れが発生
* 東証サイトなどから筆者作成
* 東証サイトなどから筆者作成
近年のIPOにおいては、上場後、初値が公募株価を超えるケースが8割以上となっていました。しかしながら、今年の3月以降の案件については、株式市場の急激な悪化を受け、一気に状況が変わりました。
* 東証サイトなどから筆者作成
2月上場のAHCグループや、ジモティー案件までは、初値が公募価格を上回ったものの、その後、3,4月上場の25社中、18社の初値が公募価格を下回り、IPOマーケットの急速なセンチメント悪化が見られました。
3月に上場を行ったビザスクは、上場直前で当初の想定価格から条件を引き下げたものの、初値が公募価格より12%程度値を下げるなど、当時の地合いの悪さが伺えます。
ロコガイドなど、6月に再上場承認がなされた企業は、当初よりも3,4割株価を下げて申請がなされましたが、当時のマーケットの状況からすると、妥当な調整であったと言えそうです。
< IPOマーケットは復活したか? >
Q. 6月以降のIPOマーケットの状況は?
A. IPO6社全てが公募価格を大幅に上回る
* 東証サイトなどから筆者作成
日経平均株価やマザーズ市場など株式市場全体の復調に伴い、IPO市場も以前の取引状況に戻りつつあるようです。
上記でふれたロコガイドは、当初の市況を踏まえて、公募価格を下げ再上場承認がなされましたが、いざ取引が開始されると、130%の株価上昇を見せるなど、結果としては、当初の公募価格を大幅に上回りました。
マザーズ市場がTOPOXをアウトパフォームするなど新興市場が堅調に推移する中、IPOマーケットにおいても個人投資家を中心とした投資意欲が高まっているようです。
3. 2020年下期IPO展望
Q. 2020年下期IPOはどうなる?
A. 株式市場の回復基調が続けば、IPOマーケットも堅調維持が見込まれる。業種により一定の濃淡が出てくる可能性。
IPOマーケット自体は株式市場全体の影響を大きく受けます。
「情報・通信」業種などは、リモートワーク推進や業務効率化の影響を受け、コロナショック以前の株価水準を取り戻しており、IPOマーケットの社数、バリュエーションなども通常時の水準に戻ることが期待されます。
* 東証HPより参照
一方で、マザーズで二番目に上場企業数が多い業種である「サービス業」については、株価水準も以前までの戻りはなく、今後の業績見通しも含め、回復に時間がかかることが想定されます。
飲食や旅行関連といった業績の悪化が多く見られる業界では、IPOにおいても難しい状況が続くと考えられます。
* 東証HPより参照
- 2020年7月に上場予定の企業
4. まとめ
< 2020年上期IPO >
✓ 市況が一時に急激に悪化したものの、社数は例年水準まで回復
✓ 企業規模の比較的小さい案件が多かった
✓ 3,4月の公募割れ件数は過去最大
✓ 株式市場の回復に伴い、IPO市場も正常化に戻りつつある
✓ 「サービス業」の回復が該当IPOにも影響していく
✓ 「情報・通信」は、下期以降、コロナ前の水準を上回る可能性
国内外の株式指標の回復については、実体経済との乖離の指摘も多くあり、二番底懸念については、引き続き警戒がなされています。
現在は、回復基調にあるIPO市場ですが、関係者にとってはまだまだ気の抜けない局面が続いていくかと思います。
以上です。
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