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知られざる超優良バーティカルSaaS企業イタンジの急成長と展望を探る

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2023年9月より開始しています!

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「私たちは10年間評価されませんでした」

不動産賃貸業界向けSaaSを提供するイタンジの創業当初からのメンバーであり、現在、同社の代表取締役を務める野口氏は、倒産危機や事業のピボットを経たこれまでの道のりを振り返った。

「自分たち以外に価値を信じていなかった」という不動産に特化したデータベースを基盤に現在は業績が急拡大。

直近のSaaS ARRは2022年6月期末で17.3億円、前年同期比成長率は+60%の驚異的な伸びを見せている。これは上場SaaS企業と比較しても極めて早い成長スピードと言える。

* 企業データが使えるノートが公開データより作成

バーティカルSaaSという言葉が存在しない時期から地道に取り組んだサービスは、いま、不動産賃貸業界で大きな存在感を放っている。

イタンジ成長の背景には、バーティカルSaaS特有の業界構造に食い込む緻密な戦略があった。

野口氏へのインタビュー内容を基に、そのポイントをまとめていく。

イタンジ株式会社 代表取締役 野口 真平 | 在学中に同大学主催のビジネスプランコンテストで優勝、学生向け SNS を企画開発し起業を経験。その後、IT企業に入社し、エンジニアとしてシステム設計を担当。2014年2月、イタンジ株式会社に入社。 同社でWEBマーケティング、不動産仲介業務、システム開発、管理会社向けシステムのコンサルティング業務、執行役員を経て、2018年11月代表取締役に就任。


事業転換、創業者の退任、GA technologiesによるM&A

イタンジは、2012年にBtoC向け賃貸物件の情報ポータルサイト「HEYAZINE(ヘヤジン)」の提供から事業を開始している。

当時の代表は、伊藤嘉盛氏(2018年にイタンジ代表を退任、現トグルホールディングス代表取締役CEO)。野口氏は、大学時代の知人である創業メンバーの一人から誘われ、勤めていたSIerを退職し、5人目のメンバーとしてイタンジに入社している。

2013年、イタンジは、グロービス・キャピタル・パートナーズなどのVCからのシード出資を受けたが、「当時取り組んでいた不動産関連のBtoCサービスがプロダクトマーケットフィットせず、ランウェイが残り2か月の状況となった(野口氏)」ため、事業転換を余儀なくされた。

事業資金が枯渇する中で新たに注力したのが、賃貸不動産の管理会社向け物件確認サービス「ぶっかくん」や仲介会社向けサービス「nomad cloud」といったBtoB領域のプロダクトだ。

* イタンジHPより物件確認システム「ぶっかくん」

これらのサービスが徐々に軌道に乗り、黒字化を迎える2018年のタイミングで伊藤氏を含む創業者メンバーが退任。現在、東証グロース市場に上場している不動産テック企業GA Technologiesが株式を取得し子会社化。イタンジの代表は野口氏が引き継いだ。

「今でこそ、イタンジは順調な伸びを見せていますが、当時は賃貸不動産関連市場は非常に狭いマーケットだと見られていました。実際、私たちも、コアターゲットとしていた1,000社に対して営業電話が4巡目となり、顧客からも迷惑がられ、社内のモチベーションが低下する局面もありました(野口氏)」と、バーティカルSaaS特有の壁にぶつかり始めていた当時の状況を振り返る。

成長モメンタムを失いつつも、野口氏や残った創業メンバーが可能性を見出したのは、連続的な製品展開による顧客単価の向上と、サービスを通じて得られるデータによるBtoBマーケットプレイス領域への拡大だった。

この意思決定が後のイタンジの急成長を支えていく。

* 2018年のM&A後、成長が加速していった

野口氏にイタンジの成長ストーリー、展望を聞くと、バーティカルSaaS企業にとって普遍的に重要な観点が見えてきた。

3つのポイントにまとめ、解説していく。

イタンジのメインターゲットは物件管理会社と仲介会社

イタンジの企業ミッションは「テクノロジーで不動産取引をなめらかにする」だ。

不動産領域の中でも「賃貸」に照準を絞りサービスを提供している。

一般的に、賃貸不動産の契約にあたっては、物件を所有する「オーナー」、物件の家賃徴収や入退去手続きなどを行う「管理会社」、店舗などで賃貸不動産の案内を行う「仲介会社」、物件の入居を希望する「入居希望者」が介在している。(業界構造の理解は上記Youtube動画が分かりやすい)

このなかでイタンジが提供するSaaSプロダクトは「管理会社」と「仲介会社」をターゲットとしている。

従来より、賃貸物件の契約では様々なアナログ業務や紙での処理が発生していた。

例えば、物件確認と呼ばれる、「仲介会社」が「管理会社」に対し行う賃貸物件の空室確認は、電話やFAXが主な手段となっている。

これは「管理会社」が抱える物件の多くを複数の「仲介会社」が取り扱っているため、既に契約が決まっていても情報がリアルタイムに反映されず、必要となる確認作業だ。不動産会社で物件選びをする際に、私たちもよく目にする光景である。

当時より、イタンジは不動産仲介業を営んでおり「多いときには1日300回も電話のやりとりを行った」野口氏の経験などをもとに、この非効率を解消するサービス「ぶっかくん」をリリースしている。

また「管理会社」向けのみならず「仲介会社」に対しても追客と呼ばれる継続的な営業業務をサポートする顧客管理「nomad cloud(ノマドクラウド)」の提供をほぼ同時に立ち上げている。

これらのSaaSの合算で直近のARRは17億円規模まで拡大している。

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