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【独占取材】AI化進める弁護士ドットコム、リーガルテックの絶対王者となれるのか

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2023年9月より開始しています!

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今、上場SaaS企業の中で弁護士ドットコムが「AI銘柄」の筆頭であることをご存知だろうか。

生成AIブームが本格化した3月ごろを変曲点に、同社の株価は2倍水準まで上昇。

* Google Financeより

背景には、あらゆるリーガル(法務、法律)情報を学習させた、特化型の大規模言語モデル(LLM)を実現していく中長期ビジョン「リーガルブレイン構想」に対する評価がある。

多くのSaaS企業が自社プロダクトにChatGPTなどの生成AIを連携させる動きも活発化しているものの、投資家は様子見ムードが強く株価への影響は"微風”。

そのなかで、なぜ、弁護士ドットコムは評価を受けるのだろうか。

今年8月、非弁護士の法律事務の取扱い等を定める「弁護士法72条」への法務省によるガイドラインが示されたことで、契約書レビュー領域に実質的な規制緩和がおきるなど追い風が吹くリーガルテック領域。

電子契約システムシェアNo1の顧客基盤を活かし、法務領域全体へサービスを拡大させる弁護士ドットコムは、この分野での「絶対王者」の地位を確立できるのか。

AI戦略の可能性、クラウドサインの成長戦略、激化するリーガルテック競争の勝ち筋を弁護士ドットコム 代表取締役社長 兼 CEO元榮 太一郎氏に独占取材を行った。

弁護士ドットコム 代表取締役社長 兼 CEO | 元榮 太一郎 もとえ たいちろう
1975年米国イリノイ州生まれ。1998年慶應義塾大学法学部法律学科卒業。1999年司法試験合格。2001年弁護士登録。アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業入所。2005年に独立開業し弁護士法人Authense法律事務所創業。同年、弁護士ドットコム株式会社を創業し、国内初の法律相談ポータルサイト「弁護士ドットコム」の運営を開始。2014年弁護士初の東証マザーズ市場上場。2016年7月に参議院議員通常選挙に立候補し、当選。2017年6月より代表取締役会長に就任、2020年9月に財務大臣政務官に就任、代表取締役会長を退任。2021年10月に財務大臣政務官を退任、2022年6月より当社代表取締役社長に再任。
*経歴社名は現社名

法律・規制と背中合わせにある弁護士ドットコムの成長

弁護士ドットコムは、2005年の設立以降、法律相談サイト「弁護士ドットコム」が成長をけん引し、2014年に上場を果たした。

2015年には日本初のWeb完結型電子契約システムの先駆けとなる「クラウドサイン」をリリース。新型コロナウイルス禍におけるリモートワーク需要なども取り込みながら、年率150%を超える急成長を遂げ、現在は同社の売上の半分を占める主力事業となった。

リーガル領域でのビジネスに取り組む弁護士ドットコムは、法律や規制を考慮しながら事業を進めてきた。

祖業の法律ポータルサイト「弁護士ドットコム」では、法律事務所によるインターネット広告が解禁されたことで初めて収益化が可能となったほか、電子契約サービスのクラウドサインでは、電子署名の法的有効性を定めた法律「電子署名法」の整備が、普及のきっかけとなった。

また、今年、8月に法務省が明らかにした弁護士法72条に対する見解は、企業における契約書レビューシステム利用に問題がないことを示したものとなり、今後の製品展開に大きな影響を与えている。

常に事業化の不透明さを許容しながら粘り強くユーザーニーズに応えてきた弁護士ドットコムは、今期(2024年3月期)の売上高は107億円を見込み、時価総額は1,147億円に達している。

ここからは、実際の元榮氏へのインタビュー内容をお届けする。

元榮氏が考える不透明性が高いなかでの事業づくりのポイントとは

ーー祖業のポータルサイト「弁護士ドットコム」では、弁護士のインターネット広告が解禁されていない時代から運営を行い、8期連続の赤字となるような投資を行っています。不透明な環境で事業を成功させるポイントはなんでしょうか。

元榮氏:2005年当時は、弁護士への依頼は敷居が高いものでしたが、インターネットの普及でその状況は変わり、弁護士自身のマーケティングが重要となるという確信を持っていました。なぜなら、私が弁護士になった2001年は1.7万人しかいなかった弁護士は、2020年には4万人を超えると予測されていたからです。

人口が減少する日本で、弁護士が大幅に増えれば競争が促進され、遅かれ早かれインターネット上がその主戦場になるので、それに備えて場所を作ろうとスタートしました。

2005年にサービスを開始し、当初2年間は、インターネット広告に対するルールが定まっておらず不明確だったためビジネスとして成立するか胃がキリキリする思いでしたが、2007年に日弁連(日本弁護士連合会)がルール整備し、広告モデルが成立する状況となりました。

そのうえで、逆にあえて有料化を遅らせて、徹底的にフォロワーが出てこない環境を作っていけば、オンリーワンのプレイヤーになると考えました。ドミナント化のため無料でやり続けていくという戦略の下、8年間赤字の先行投資を行ったのです。

全く競合がいない状態になったことで、2013年8月に有料化すると一気に収益化し、そこからわずか1年3ヶ月後の2014年11月に上場承認が下りたというのが弁護士ドットコム第一の成長ストーリーです。

ーー直近で弁護士法72条のガイドラインが示され契約書レビュー領域も本格的な市場が見込まれるようになりました。同様に、いずれかのタイミングで今回のような解釈がなされると考えていましたか。

元榮氏:時間軸についてはその時々の条件によりますが、テクノロジーの進歩に応じて弁護士法の解釈も柔軟に変わる時代になってきています。ただし、どの程度ドアが開くかは、国民的なコンセンサスに寄るところが大きいと考えます。

率直にお話しすると、昨年ChatGPTが出るまでは国民のAIに対する信頼性が高まっておらず、AIが社会にとって今ほど身近な存在ではありませんでした。AIに触れたことがない人たちがほとんどで、見えないものに対する漠然とした不安がありました。ですから、個人的にはAIなどのテクノロジーが時代を先取りしても、世の中がついてこないことを若干心配していたのです。

しかし、ChatGPTが出てきて驚くほど世界を席巻しました。興味深かったのが、朝の情報番組やバラエティー番組などビジネスパーソンではない主婦や若者、高齢者世代が見るメディアにまで次々と紹介されていったことです。これを見て、日本の国民的コンセンサスが変わったと感じました。

ChatGPTがある場合とない場合で、今回の法務省のガイドラインの書きぶりは大きく変わったというのが、私の見立てです。

世の中の理解が一歩進んだことで、AIサービスが一歩先から半歩先のものになりました。今回の法務省のガイドラインは、実はサム・アルトマン氏に感謝した方がいいですね。(笑)

ーー リーガルテック領域では、法律的観点でビジネスが成立するかどうか、一定の不透明性がある中で、タイミングを見計らいながら意思決定されてきました。AIについていえば、可能性はありましたが、技術的なブレイクスルーがいつ頃になるかの予見が難しかったと思います。

元榮氏:自社のビジネス都合で発展スピードを想定するのではなく、常に時代のペースを待つと言うことでしょうか。最も理想なのは、時代のペースを自ら生み出すことですが。

AI自体には10年間想いを寄せていましたが、いよいよ技術革新が到来したことで、今回はロケットスタートという感じですね。

いざ動き出すとなれば、実際にプロダクトを作って世に出す中で具体的なフィードバックや気づきを得て、更なる社会実装が可能な動きを速めています。

どのLLMを使うべきか、GPT3.5か4か、ファインチューニングだけでなく、データベースを活用したエンベディングと両方やった方がいいのではないか、など、実際に作ることで解像度や探求心が深まっていきます。

今年5月に「弁護士ドットコム チャット法律相談(α版)」をリリースしたことで、リリースまでの間に多くのナレッジを蓄積できましたし、やると決めたことで、一緒にやりたいエンジニアも採用できています。

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