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【最新決算】SaaS企業は「冬の時代」を迎えているのか?

月額有料マガジン「企業データが使えるノート」では、

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本記事では「企業データが使えるノート」がSaaS企業各社の決算説明会への参加、決算説明資料のチェックを行い、アナリスト視点から決算のポイントをまとめている。

ビジネス、投資家視点からSaaS企業の最新の決算状況を理解されたい方に役立つ内容を目指している。

また、記事の最下部ではSaaS企業が公表した最新のSaaS KPIを一括でダウンロードが可能だ。

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サンプルデータ↓

急ピッチで時価総額下がるが業績は概ね堅調

2022年に入り、「バブル崩壊」とも言われる新興市場の調整局面において、SaaS企業各社の時価総額は軒並み2020年半ばから数分の1程度の水準まで落ち込んだ。

* 2022年5月vs2020年5月 時価総額対比

上場企業の低調なバリュエーションは未上場スタートアップにも影響し、一部の追加投資案件を除き、新規投資の件数は減っている。

一方で、今回の決算公表内容を確認する中では、当期予想数値を含めた業績モメンタムの悪化は目立って見られていない。

一部の企業で業績予想の未達や下方修正はあったものの、SaaS市場そのものは順調に成長を続けており、ファンダメンタルは底堅い。

中期計画に対し着々と実績を積み重ねていくラクスやこれまでの大型調達を活かし虎視眈々とM&Aを実行していくfreeeなど、マーケット環境を逆手に取った積極的なチャレンジも見受けられる。

資本市場に嵐が吹き荒れる中でも絶え間ない成長を続けていく各社の現状を確認していく。

ARR100億円企業、6社に到達 


まずは、ARR実績とARR成長率の現在地を確認する。

* 企業データが使えるノート 集計

今回の決算発表でユーザベースがNewsPicksを除くSaaS ARRで103.2億円に達し、国内では6社目のARR100億円越え企業となった。トップ6社の成長率は30%前後で推移しており、規模を拡大している中でも新プロダクトの投入やM&Aなどを通じ成長スピードが維持できている。

次にARR実績値とARR成長率を散布図にプロットする。

* 2022年5月時点のARR・ARR成長率より作成

青色の曲線は過去のSaaS企業業績トラックレコードから導いた「ARR100億円時に成長率30%」となるための目安だ。

現在ARR100億円に達していない企業ではセーフィーやクラウドサイン(従量課金含む)がこの曲線を上回っているが、近年IPOを行った企業の多くは大台の達成まで数年を要することが想定される。

ここからは個別の決算内容のポイントを解説していく。

プレイド 通期業績予想を下方修正 株価が3日間で-47%の下落

決算説明資料

今回のSaaS企業決算でネガティブな公表内容となったのは CXプラットフォーム「KARTE」を提供するプレイドだ。

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* 2022年9月通期の業績予想下方修正を公表している

決算短信と同時に公表された2022年9月期業績予想では、従来の予想売上高の下限、74.1億円を下回る71.8億円に修正を行っている。

下方修正の主な要因は「KARTEのサブスクリプション売上高が鈍化したこと(CFO 武藤氏)」が影響している。

この決算内容に対し株価は敏感に反応、決算翌日から3営業日で-47.3%の大幅な下落を見せた。

成長鈍化の要因は以下の公表スライドにまとめられているが、表現がやや抽象度が高い。

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* 2022年9月期 第2四半期決算説明資料より

公表資料からは「顧客成熟度の多様化に伴う、プロダクト提供に留まらない導入/運用支援を含めた統合的サービスの必要性向上」という点に下方修正につながる課題が見られる。

プレイドが提供するKARTEの月額単価(ARPA)は94.4万円と主にエンタープライズ向けのサービスだ。

「サイトやアプリに今来訪している人をリアルタイムに解析、可視化」といった高度なWeb上の顧客分析が可能である一方で、導入からの活用促進や分析結果を踏まえた改善施策の実行については、通常の業務系SaaSよりも"難易度が高め"のプロダクトとなっている。

プレイドはKARTE・KARTE for APPが想定するSOM(Serviceable Available Market)を3,800社と試算している。現時点の獲得社数が559社とリテラシーや導入意欲の高いアーリー層からマジョリティ層に移る中で、導入・運用が十分に出来ず、解約が発生していると見られる。

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* 2022年9月期 第2四半期決算説明資料より

上期までの業績進捗率が46.2%~48.7%と昨年同様にほぼ順調に進捗しているにも関わらず、下期が大幅に未達が予想されるのは、上期の解約影響による修正と考えるのが自然だ。

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* 2022年9月期 第2四半期決算説明資料より

プレイドは解約率の開示を行っていないものの、既存顧客の前年対比収益の変動を示すNRRは足元で悪化を見せており、徐々に影響が出ていることが伺える。

決算説明会の中でも「デリバリーにおける課題が顕在化した結果(CEO 倉橋氏)」との発言があったように、価値実感を届ける体制をいかに構築できるかが、中長期的な課題となっている。

倉橋氏は「厳しい決算、厳しい業績予想」と繰りかえす中でも「必要以上に悲観していない」と、体制強化に向けて巻き返しの意欲を見せる。

国内でも屈指の高単価エンタープライズ向けSaaSはマジョリティの壁を破り、成長を加速させることができるか、注目が集まる。

AI inside 通期業績予想に対し未達

決算説明資料

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