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クリープハイプにしがみつく。

ライナーノーツ、とインターネットで検索すると

音楽レコードや音楽CDのジャケットに付属している冊子等に書かれる解説文をいう。 通常はアーティスト本人ではなく音楽ライターやレコーディング関係者などによって執筆される。
(Wikipediaより引用)

と、1番上に検索結果として表示された。
ということは、このライナーノーツを書く私もクリープハイプの"関係者"ということである。そんな都合の良すぎる自分勝手な解釈のもと、都合良く私の思いを添えて、これからクリープハイプの新しいアルバム「夜にしがみついて、朝で溶かして」を語っていこうと思う。

1.料理
先行公開されていたこの曲は、初めてイントロを聴いた時、私の中のクリープハイプ像ど真ん中を突き抜けた。と思えば、歌詞の1フレーズ目が「愛と平和」である。なんだこれ!やられた!ストレートな単語に殴られた。そう思えば愛と平和を「煮しめて味覚を馬鹿にして笑う」。そうきたか!と嬉しくなっていると、それまでのリムショットに印象的づけられた控えめな楽器たちが一気に開いて疾走感に煽られる。尾崎さんの言葉遊びもそこかしこに散りばめられていて、耳が気持ちが良い。
名前の分からない創作料理を食べている気持ちになった。名前は分からないけど美味しい。作り手の創意工夫が見え隠れする。だけど、食べたことないから伝えるための語彙力を持ち合わせていなくてただ美味しいとしか言えないもどかしさ。
アルバム発売前の先行公開がこの曲で本当に良かった。ほかの料理も食べてみたい!とおんなじ、ほかの曲も早く聴きたい!

2.ポリコ
私は気にしいなので、きっとこれは意味を深く考えすぎると息ができなくなってしまうな、と直感で思った。
ポリコ。「ポ」も「リ」も「コ」もなんとなく語感が可愛くて好きだ。ツンとしてるけどふざけててころんとした質感の文字だと思う。そして美味しそう。汚れとか正しさとは無縁そう。楽しく生きてそう。あ、羨ましいかも。
足りない足りない足りない、に追いかけられて、深く考えすぎないように聞こうと思っているのに、ア〜イキデキネエとなる。そういえばもうすぐ大学院の大事な研究が本格的に始まるな、とか、就活考えなきゃな、とか。バイト先のあの人苦手だな、とか。
考え始めたら止まらなくなる!どうしよう、と思っていたら曲が終わった。3分ちょっと。ちょうど良い時間だなと思う。最後、終わりです!考えるのやめて!って心配されてる気分になる優しいストロークの終わり方。あ〜だからクリープハイプが好きなんだな。

3.二人の間
ポリコで責め立てられた気持ちが一気にホッと、安心感に変わった。ひとまずありがとうございます。
「音以上気持ち未満」の心地の良さたるや。私はこの曲の1番良いポイントはこれだと思う。声に出してみたくなる語感、そこにピッタリハマったメロディ、オクターブ上のハモリも挑戦してみたくなるし、さっきまでのサビから空気感が少し変わるのも良い。
そのままで、って繰り返されるのも心地良いゲシュタルト崩壊現象が起こってきて、「音以上気持ち未満」だなとか思う。
決してズレることなく、けれども少し遅れて乗ってくるようなテンポ感も、ゆっくり歩幅を合わせる老夫婦みたいで良いな。
きっとこれは、例えば私がコピーバンドとして演奏してもこの味にならなくて、クリープハイプの阿吽の呼吸があるからこそ成り立つ。私には分からない、クリープハイプだけの呼吸があった。

4.四季
私には恋愛関わらず、気になった人、好きだなと思った人にオススメの曲を聞いてしまう習性がある。それが私の好みの曲じゃなくても、なんとなくずっとその人にリンクして覚えていることが多い。だから、私のApple Musicには私にしか分からない栞や地雷やプレゼントがたくさんある。
「この季節になるとなぜかいつも無性に聴きたくなるバンド」と同じ気持ちの動き方。初めて四季を聴いた時、私と同じだな、とニヤニヤした。誰にもバレないように。
ただの曲からあの人を思い出して、あの時言われたこと、言われた時の居酒屋のBGM、どんな季節だったか、帰りがけに1人でコンビニに寄って追い酒したこと、そのあとの心残り。「全然この曲好みじゃないんだけど」って悪態ついて、誰かのせいにして、けどやっぱり聴きたくなってしまう。なんでだろうね!なんでなんですかね、尾崎さん。
長々と自分語りをしてしまったけれど。個人的には、秋から冬にかけてイメージが変わらず曲が進むのがこの曲の好きなところ。秋は短いし、もはやなくて、けど秋になると冬が楽しみになる。これも私と同じ気持ちの動き方。ニヤニヤと笑ってしまうのでした。

5.愛す
ブスとか言って素直になれなくてごめんね、って言われて果たして許せるだろうか。いや、許せるはずがない。
でもこの曲を通して言われると、単純だけどなんとなくの愛を感じてしまって、そっか、そうなんだな、と腑に落ちてしまう。だからこそ、タイトルが「愛す」なんだと、勝手に解釈して納得した。でも待てよ。「逆にブスとしか言えない」ってなんなんだ。その逆の裏はなんなんだろう。
この曲がリリースされた時、クリープハイプっぽい、けど、クリープハイプっぽくない、なんだこれ、という戸惑いがあった。MVも含めて、伝えたいものを理解するのに必死だった記憶がある。何度も何度も噛み砕いてきて、今、この愛しさと切なさを表現するには、逆にこういう表現もありなのかな、とか理解できてるようでできてない浅い言葉で締めくくり。

6.しょうもな
「今は世間じゃなくてあんたにお前にてめーに用がある」
はっとさせられた。幼い頃からSNSが身近だったいわゆるZ世代の私たち。いつの間にか特定できない誰かに対して、自分の気持ちを吐き出すようになってしまっていることを少し反省した。不特定多数に縋りついても、誰か!って叫んでも、気づいてもらえないのは当たり前だし。見て見ぬふりされても仕方ないし。自己肯定感とか自己有用感とか自己効力感とか。だんだんと、そういうものが重要視されるようになってきたのも当たり前だと思った。
目の前の相手に、あなたに、届けるのが苦手なのも、全部人見知りのせいにしてきてたけどそうじゃないんだよな。逃げてきただけなんだな〜。
分かってほしい、察してほしいをふんわり曖昧な甘い言葉で囁いたとて、気づいてもらえるわけないじゃん。けど、具体的なアレがなくても、気づいてもらえるだろうって期待してしまうのも自然なことだよな。
神様、どうかこの私の、まわりくどいライナーノーツも、クリープハイプに届きますように。

7.一生に一度愛してるよ
クリープハイプを教えてくれた、私の大好きな先輩のことを思い出した。「ファーストばかり聴いてる太客だけどやっぱりクリープハイプのことが好きだから、安心させてほしい」ってSNSで言ってた私の大好きな先輩は、私が寂しい時も嬉しい時も、その先輩の不完全な心の隙間に入れて安心させてくれている。
2人で見に行ったこないだのストリップ歌小屋。最近リリース続いたから新曲ばっかりかと思って心配だったけど、なんだ、ちゃんと分かってるじゃん!先輩はとても嬉しそうに笑ってた。そのあと2人で大阪の路地で飲んだ缶ビールは本当に美味しかった。超美味しかった。
アルバムの7曲目にこれを持ってくる皮肉さ。追っかけ始めて歴の浅い私でも、クリープハイプを好きでよかったなと思えた瞬間でした。
死ぬまで一生愛されてると思ってるよ。先輩が居なくなる世界線は想像したくないし、これからもわたしの標識であってほしい。ねえ、先輩。一生のお願い聞いて、これからも甘やかしてね。

8.ニガツノナミダ
これを歌う尾崎さんの声が好き。声が好きで何回も聴いた。高音が鼓膜を揺らす感じ、鼓膜を突き抜けて頭に刺さる感じ。1番初めからキタキタ!とワクワクする。
CMタイアップに対する世間の意見とか、CMという枠に縛られてる感じとか、ちょっとマイナスなCMには相応しくなさそうな部分も取り入れつつ、けどちゃんとCMソングとして成り立ってるところが凄いなと感心した。
企業に寄り添いつつ、だけどやっぱりクリープハイプだから、という攻撃的な一面が見え隠れしているような気がする。けれども実はそれも想定の範囲内で、うまくそんな風に思わせられてしまっていて、ある意味私たちは感心するよう縛られてしまっているのかもしれない。いやあ、クリープハイプは恐ろしい。

9.ナイトオンザプラネット
新曲やります、って初めてライブで聴いた時、優しさで溶けてしまいそうだった。それと同時に映画を見てるみたいで、ステージの上に本当にクリープハイプは居るのだろうか、実はスクリーンに映し出されてるだけかもしれない、とか不安にもなった。
アルバムのタイトルにもなっている「夜にしがみついて、朝で溶かして」から始まる歌詞は、しがみつく、って言ってるのに必死さがなくて、むしろ余裕たっぷりな印象さえある。ラップ調の尾崎さんの優しい発声に、印象的なギターリフと、それを支えるドラムの安定感、彩りを加える鍵盤の音。どことなく漂ってる不完全な雰囲気。なんにも考えたくない時に聴くのにぴったりだな、と思う。全てが嫌になってしまった時、この曲はたっぷりの余裕で私を優しく包んででろでろに無かったことにしてくれるんだろう。
尾崎さんの描く歌詞は、時間の経過が実感できる所が好きなところ。それが1〜2分でも、10〜20年でも。あ、ちゃんと生きてるんだな、と分かるところが優しさであり、クリープハイプが私の支えとなっている理由である。

10.しらす
カオナシさんの歌は、触れちゃいけないものを両手にそっと渡された気持ちになる。いつでもそう。いけない気持ちにさせる天才だと思う。けれども、渡されたからには大事に大事に抱え込まなきゃな。傷つけないように壊れないように。
勇気を出して抱え込んでみると、あ、実は私にもこの気持ちあったな、って気付かされる。歌詞に具体的に表現されているわけではないんだけど、見透かされてしまった気持ちになる。そして、戸惑ったり困ったりして、私の中で神格化されてしまっている曲。
触れちゃいけないものってたぶん、私の中で押さえ込まれて無かったことにしてた色んな気持ちたちのことだろうな、と他人事のように俯瞰する。

11.なんか出てきちゃってる
ある人の生活の一部が出てきちゃってる。音楽の間にセリフが出てきちゃってる。合間に唐突に流れるBGMも偶然出てきちゃった感がある。これもアルバムの楽曲の1つだけど、アルバムの合間をぬって毛色の違う何かが出てきちゃってるなと思えてしまう。
クリープハイプの言葉遊びの頂点だなと思った。ここまで「出てきちゃってる」というテーマを一貫して押し切ってしまう力強さが羨ましい。でも歌詞では「出てきちゃってる」って言ってないのも憎いなと思う。何の、もしくは誰のネジが緩んだのか、ネジの緩んだその先を、セリフの本人はどんな人なのか想像しながら聴く。偶然出来上がった主人公が頭の中に出てきちゃって、なんだか離れてくれなくて。偶然って、実は偶然では無さそうじゃない?ドキドキしてきた。

12.キケンナアソビ
イントロからクラクラするこの曲。これまで述べてきたように、こんなにもわたしの気持ちに寄り添ってくれているはずのクリープハイプの、大人の色気をこれでもかと見せつけられて、心がジリジリしてしまった。
叩かれてるような力強い演奏は本当に暴力的で、リズムの取り方までもが重たくて殴られてる気分になる。でも無理矢理探せば優しさがほんのり見つかって。その優しさに、勝手に愛を感じたりして。
突然の冷たさは、簡単に人を沼に引きずり込んでしまうからキケンなんだよな。いろんなところで散々言われてるはずなのに、自分のいいように考えてしまって、そのあとの優しさにやっぱりなって安心する。よく分かんないけどモテてる人とか、冷たさと優しさのバランスが上手なんだと思う。知らんけど。

13.モノマネ
好きです。とても好きな曲です。なんでタイトルがモノマネなんだろう、って初めて聴いた時は謎だった。
シャンプーで色落ちして、それからリンスも忘れるから傷んだままの髪の毛は、おんなじようで段々違ってくる。モノマネをどれだけ極めたとして、その人にはなれない。おんなじ部屋でおんなじ匂いになったとて、彼は彼女になれないし、彼女も彼にはなれない。
相手の気持ちを考えて行動しなさい、って学校で言われる度に酷な話だよなと思ったのを思い出した。どれだけ相手になろうとしても、相手にしか分からない閉ざされてるところには辿り着けないし。
すれ違ってなさそうで、紙1枚分ずつ段々とすれ違いが生まれていってそうな2人の話を、切ないはずなのに明るい、軽いメロディと演奏で世に送り出すことができるのって凄すぎるな。
おんなじ時間を過ごしても、見えてるものは違ってたんだね。好き、がいつのまにかその人になりたい、に変わるときってありますよね。

14.幽霊失格
幽霊失格っていうタイトルからまず良い。
この曲の幽霊と主人公は、お互いに離れられない親子みたいだなと思う。子離れできない親と、もう少しで離れられそうなんだけどやっぱり親のことが好きでたまらない子ども。お互いの信頼関係があってこその尊さは良いんだけど、世間の目とか年齢とかいろいろ、心が揺らいでいる。
曲中でもいろんな場面で「キメ」が出てきていて特徴的。そのキメの度に2人の心の揺らぎが表現されているようで、なんか勝手に頑張れ〜って応援してしまいそうになりました。
けれども、ギターソロからの後半は少しイメージが変わる気がしていて。ちょっと2人が覚悟を決めたのだろうか、そんな風に読み取れる。数分の曲だけど、歌詞と音が相まって、1本の小説を読み終わった達成感を味わえた。繋がってるって大事だな。

15.こんなに悲しいのに腹が鳴る
ひとつひとつ、本当に自分勝手なライナーノーツを書いていたのにもう最後。気づけばへとへとの私が居て、イントロのどことないドラマのエンディング感に癒された。やっと終わりという安堵と、もう終わり?という驚き。
最近はCDを盤で買うっていうことも減ってきて、配信で聴くことが増えた。実態のないものを追いかけてたら、ライブへ行くことの情熱は増した。
今回久しぶりに、CDを予約してCDショップに買いに行くということを経験させてくれたこのアルバムのことを、私は本当に愛おしいなと思う。ドキドキソワソワしながら店員さんに話しかけて、特典も受け取って、大事に抱えて家に帰る。前はこれが日常だったなって思い出した。
小さい幸せを重ねながら暮らしていたこれまでを、すっかり忘れてしまっていたな。いつのまにか大きくて目立つものだけが重視されるようになってしまっていたな。
死ぬほど生きたい。死ぬまで愛したい。
改めて、わたしの暮らしにクリープハイプがあることを、幸せだなと思った。


もはやライナーノーツではない。けれども、わたしはクリープハイプにしがみついて、これからも生きていく決心をした。してしまった。死ぬほど生きてやる。

#ことばのおべんきょう  #クリープハイプ

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