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太鼓の達人


今から富士山が見えるから
 本を読んでいないで、富士山を見なさいい!!



隣に座っていたおじいに
急に脇腹をつつかれる5分前。
私は小田急線に乗って本を読んでいた。
本といっても勉強の本で
ファイナンシャルプランナーの資格の
参考書を読んでいた。

私は今年、某アイスクリーム
同じ年齢に達したのだが
いかんせん、金銭感覚がバグっている時がある。
そのバグが一度発生すると
マリオのスター獲得状態のような感覚になり
目標のためとあれば、お金を使ってしまう。
その結果、20代は全然お金を貯めることが出来ず
恥ずかしながらこの歳にまでなってしまった。

お金のことを勉強すれば少しは
まともになれるのでは?!と安易な考えからか
ファイナンシャルプランナーの資格を
取ろうと考えたのだが…


神様は見ているのだ
そんな見え透いた愚かな考えを。


*


「え?」

脇腹を突っついてきたおじいを呆然と見つめる私。


今だ!!!!!
おじいが叫ぶ。


目線の先を見ると、家と家の隙間から
一瞬にして現れる富士山。
状況が飲み込めず
ぐずつく私をよそにおじいは
『今だ!』とまた叫ぶ。


また、富士山がチラリと見えた。


まさか…そのまさかだ
おじいは、富士山が見えるタイミング
私に知らせていたのだ。


『今だ!今だ!…今だ!』


おじいの知らせはとてもリズミカルで
まるでリズムゲームをやっているかのようだった。


なぜこのおじいは私にこんなにも強烈に
富士山を見せようとするのだろう。
この熱量はなんだ?!と困惑するものの
その迫力に飲み込まれ、
今だ!といわれると「…はい!」と
返事をしてしまった。

『今だ!』
「はい!」
『今だ!』
「はい!」

それを繰り返す私たち。
まるでこれはリズムゲーム。
その相槌は、太鼓の達人をやっているのでは
ないかと錯覚させた。


ドンドン、カッ、ドドン、カッ、カッ


ありえない出来事に私の脳はバグを引き起こし
今富士山という曲の太鼓の達人をやっているのだと
勘違いしてしまうぐらいであった。

おじいと奏でる太鼓の音色。
まるでパラレルワールド、小田急線。

2、3駅の間私たちは太鼓を叩き
富士山が見えなくなった。

あ、終わった、、、私たちの奏でが。
よくわからないが富士山を見ろ以外
話しかけられないし、もういいやと
ぐったりしていた矢先

黙っていたおじいが

今から一番富士山が見える地点に到達するから
 見ていなさい!!!!
』と
任務を説明するスパイの上司のような
口調で指令を下してきた。


まだ、終わってなかったのか?!


おじいはただただ、窓を見つめている。
気付けば掴んだ本の紙のカバーが
グショグショだ。

私は一体なにをさせ…



『今だーーーーーーーーーー』



おじいの渾身の今だ聞こえた瞬間
目のに映ったのは
田んぼの中に凛と立派にそびえたつ
富士山の姿だった。


まだ終わっていなかった!!!!!!
この渾身の今だは
太鼓の達人でいう『連打』のシーン。


このボーナスステージを逃すわけにはいかない!!!

「はいーーーーーーーーー」


私は心の太鼓を連打した。
バチが壊れるぐらい連打した。


フルコンボ!!!!

脳内であの太鼓達人のキャラの声がした。


私はなぜか達成感に溢れた。
おじいが見せてくれた富士山は
美しかった。
おじい、なんか知らんけど
素敵な景色を見せてくれてありがとう。


私は全力でおじいに振り向き
「なんか、ありがとうございます」とお礼を言った。

しかし、おじいはそれ以上何も喋らなくなった。
おじいのバチ壊れたんか?って思った。
そして、富士山もそれ以上見えなくなった。


おじいとのセッションは急に終焉を迎え
狐につつまれた気分となった私は
ただ窓を見つめ直した。


太鼓の達人コンテニュー
しかし、私の財布には金がない。
勉強しようと思っていた時間も
おじいとのゲーム時間で全て消費してしまった。


神様は見ているのだ
浅はかな人間の欲望を。
おじいはそのまま次の駅で降り
私はその出来事以降
ファイナンシャルプランナーの参考書を
2度と開くことはなかった。


サポートしていただきありがとうございます!サポートは全てボナム(愛犬)に還元しようと思います^^