ザホーンティングオフヒルハウス

『ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウス』

by キミシマフミタカ

 これは、一般的いうホラードラマではない。なぜならホラーのガジェットが怖くないからだ。宙を浮きながら歩くノッポや、首折れ女や、開かずの赤い部屋や、誰かがドアノブを回す恐怖など、それなりに道具は揃えられているが、本当の怖さはそこにはない。これは、ある恐怖の一夜を体験した子供たちが、その恐怖と(それぞれの方法で)向き合いながら、その後の人生をどのように生きていくかという、恐ろしい物語なのだ。

 成人した長男は、ホラー小説のベストセラー作家となり、長女は葬儀屋となり、次女はLGBTで心理学の博士号を取得、次男は薬物中毒で施設に入退院を繰り返し、三女のネルは心を病んでいる。そして父親は、2男3女から疎まれる不確かで曖昧な存在であり続け、恐怖の一夜に消息を絶った母親は、この物語の最大の謎であり続ける。
 
 カメラが360°回るたび、ドアを開けるたびに、現在と過去が入れ替わり、観る者はその恐怖の一夜と現在の結びつきを、強烈に体験することになる。第6話、家族が集まった通夜の席の長回しのシーン(1シーン20分ほど)は必見で、まるで秀逸な舞台劇を見ているようなスリリングな感動を覚える。これはそう、ラース・フォン・トリアーの名作映画『ドッグヴィル』を(作風は似ていないが)思い出させるシーンでもある。

 悲劇を抱えた兄弟姉妹たちの物語、といえばそれまでなのだが、その根底に怪奇現象があるという設定がなんとも魅惑的だ。そう言うと、結局は幽霊よりも人間そのものが怖いのか、という意味に取られそうだが、ここではあくまでも怪奇現象そのものが、物語の軸として機能している。その絶妙なバランスが、このホラードラマの真骨頂の部分で、伏線が見事に回収される脚本と相まって、エンディングまで一気に引き込まれるのだ。

 企画・製作総指揮はマイク・フラナガン。2019年にスタンリー・キューブリックの『シャイニング』の続編となる『ドクター・スリープ』を監督したホラーの新鋭だ。あのティモシー・ハットンが、老いた父親役で好演(怪演?)しているのも見逃せない。物語は一応終結したように思えるが、Netflixではシーズン2の製作が決まったらしい。どんな続編になるのか、まるで見当がつかない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?