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言葉と関係性の話

この記事は「スクラムマスター Advent Calendar 2023」の19日目です。

はじめまして。とある重厚長大なメーカー企業のDX推進部門にてスクラムマスター、チーム開発を推進するものとして仕事をしているものです。
普段あまりインターネットに記事を書いていないのですが、スクラムマスターのアドベントカレンダーがあると耳にし、ひと枠書かせていただければなと思い筆をとっています。何を書こうか迷ったのですが、最近個人的に大事にしている、言葉と人の関係性について話をしたいと思います。

2023年は私にとって少しチャレンジングな年でした。
転職して以来エンジニアとスクラムマスターを兼任していたところから、専業のスクラムマスターとして従事することになり、複数の開発チームに携わることになりました(※ 複数チームのスクラムマスターを兼ねることの是非についてはここでは触れません)。
在籍組織の文脈において、それぞれの開発チームの主たるステークホルダーは事業部門の社員で、ステークホルダーが≒主たるサービス利用者となります。複数のチームに携わることによって、これまでより多くのステークホルダーと関係を結んでいくことになったのです。

悲しいことに(そしてよくあることだと思うのですが)、事業部門と社内システムの開発部門とは「わたし発注する人」「あなた受注する人/作る人」という関係性になりがちです。同じ会社の組織なので、本来であれば一つの目標に向けて共創する関係でありたいところが、システム開発を委託する部門・される部門、システム開発をする部門・監督する部門、のような振る舞いがプロジェクトの各所で観測されるようになっていきます。
一緒に作るはずのプロジェクト関係者がお客さん化してしまうのには、様々な要因が絡んでいるのは言うまでもありません。パッと思いつくところでいうと以下のようなものも一例として挙げられるかもしれません。

・事業部門が本業として提供している製品・サービスの変更容易性がソフトウェアと全く異なるために、アジャイルなソフトウェア開発のプロセスに馴染めない
・事業部門には当然ながら本業があり、ソフトウェア開発のプロジェクトは片手間となりがち(接している時間が少ないがために自分ごとになりづらい)
・ソフトウェアとはコンサル会社に入ってもらいながら外部の会社に作ってもらうものであって、現場はただ作られたものを受け入れるものだと思っている

事業部門がアジャイルなソフトウェア開発プロセスや、ソフトウェア開発に参画するということそのものに慣れるにはそれなりの時間が必要です。(プロジェクトの関係者がそれらにスムーズに馴染めるようにあれやこれやをするのも、スクラムマスターがプロジェクトに参画する意義の一つなのはもちろんです!)

しかし最近プロジェクト関係者がお客さん化してしまう要素の一つに、私たちが関係者を過剰にお客さん扱いしてしまっている、ということがあるのではないか?と思うようになりました。
プロジェクトにまつわるミーティングの場を観察していると、「〜〜させていただきます」という言葉が一方からだけとてもよく聞こえてくることがわかりました。他にもいくつか、ちょっと過剰なぐらい謙った表現や丁寧語が所属する部門の面々から事業部門に向けての発言で見えて来たのです。

「させていただく」という言葉だけを取り上げてみると単なる敬語に過ぎないですが、相手に許可を求める謙った言い方であり、聞き手側の許可や判断が先行する印象を残していきます。
それだけでなく、ひとつのものを作るために集っている場において、どこか一方からだけ過剰な敬語が聞こえてくる状況というのは非対称な関係ですよね。
こうした言葉の選び方によって、関係者をお客さん化してしまう、非対称な関係性を固定してしまっている一面もあるのではないか、というのが最近の仮説です。

よくよく考えてみれば、スクラムチーム内でも言えることです。
在籍組織は多様なバックグラウンドを持つ人の集まりでして、私のように中途採用で入社するものもいれば、いわゆる情シス的なロールで長く勤めて来たものもいたり、あるいはそれまでソフトウェア開発やデジタルと無縁の場から異動して来たもの、と様々です。時にはビジネスパートナーさんのお力を借りつつ、所属組織や年齢、経歴など全くバラバラなメンバーがスクラムチームを組んで活動しています。
そうしたバックボーンがあることにも起因すると思うのですが、特にチームの立ち上がり期において、「〜〜させていただきます」や「〜〜してもよろしいでしょうか」という言葉がチームの中で聞こえてくる時があります。
チームの中に上下関係や傾斜がかけられていると、多くの場合、より上位に見える人への依存が起こり、チームメンバーが対等にパワーを発揮して良いものを作ることは困難になると思われます。
私たちは無意識に選ぶ言葉・聞く言葉によって、その場にいる人々の関係性に傾斜をつけてしまうので、「〜〜させていただく」はチーム内ではふさわしい言葉ではないでしょう。
それゆえ、Working Agreementを定めるときに必ずと言っていいほど「〜〜させていただくは禁止」を入れる提案をしています。

スクラムチームという枠組みの中だけでなく、チームとステークホルダーという関係性においても、両者が対等に、互いの専門性を発揮して、共通の目的に向かって協力できる土壌を整えることがモノづくりにとって重要です。良いソフトウェアを作るプロジェクトであるために、チームとステークホルダーの間の関係性が対等なものであるように気を配り、必要なマインドや文化を場にもたらすこともスクラムマスターの仕事であることを実感しています。そしてこれは Zuziの #ScrumMasterWay のレベル2そのものなのかもしれないな、と書きながら思い返しています。

言葉と関係性の問題は、聞き手がどのように受け止めるかという話で、人から言われてみないと気づかないことも多いでしょう。自分が発した言葉が残した印象を自覚したり、場に適したよりふさわしい言葉を選ぶには時間と練習が必要です。私自身もまだまだ修行が足りないですし、一朝一夕にうまくいく問題ではないですが、積み重ねの問題だからこそ絶えず頭の片隅に置いておきたいと思っています。

結局何も解決していないフワッとした話でしたが、ここまでお読みいただきありがとうございます。

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