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Run Rabbit

ウサギは走るものだ。不思議の国のウサギも亀相手にも兎に角走る。あ、兎。

駆けっこは嫌い。世の中は競争社会なのに好き好んでまた競争するの?
馬鹿じゃないの?

運動というものから縁遠い自分は、好きな様に動くのは楽しいけど誰かが存在するのは嫌。自分のペースで動きたい。ルールも嫌。

去年、都会の職場から田舎の職場に移動して、時刻表に数字が並ばない駅でぼんやり電車を待つ日々が、この世界的騒動で変わると、電車に乗るのも憚れれる。

駅と職場も割と距離があるので、そこまで歩くだけでお腹が一杯なのに、混雑しない電車が止まる駅まで歩く事に。春が過ぎ、盛大に通勤車から雨水を飛ばされて怒り狂いながら歩き、今度はジリジリ太陽が自分を丸焦げにしようとする。


もう嫌だ。
そうして乗り込む電車のドアに映る冴えない中年女性の姿。
背中が丸くなり、よれたスリッパみたい。

今日もいつまでも空にいる太陽を避け嫌々歩く先にほんの少しだけ見える海岸。
少し寄ってみよう、と隙間に向かう。

暑いだけ。ただ暑いだけだった。

そこにふわりと足元に影が移動する。

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音も無くあらゆる圧力から放たれた様に飛ぶカモメ。
暑さも何もかも止まる。

気がつくと駆け足で追いかけている。
それ以来、またカモメに会いたくて海岸に行く。
見つけては追いかける。
朝も夕暮れも何故か追いかける。

靴がヒールじゃ邪魔。スニーカーに替わる。
走る走る。汗だくなのに追いかける。気付けば更に次の駅まで走る自分がいる。

特別寒い朝も、凍てつく風が吹く夕暮れも
音も無く飛ぶカモメを追いかけて走る。

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待って!待って!
自分も連れて行って!
この歳でハリー・アームストロングみたい。

決して自分を待つ事も無く風の抵抗も無いように飛び去るカモメ。

そしてまた春。そしてもうじき初夏。

職場に新入社員がやってきた。
社内での挨拶が済み、雑談中に一人が質問してきた。

「すごく姿勢が良いですね!何かスポーツをされていました?」

どうやら走るウサギは卒業したらしい。



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