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Cinema:A24について

今回取り上げるのはA24という映画配給・制作会社である。 
『Everything evrywhere all at onece 』のアカデミー賞受賞が記憶に新しい彼らは、イケてる映画映画配給会社として知られていると思う。 

私自身、あまりA24に詳しく無いにもかかわらず、彼らが配給・制作している映画と聞くと安心してしまっていた。
消費者として背筋を伸ばす為、本稿では彼らが嘘つきか否かを確かめることとする。世の中には嘘つきが多いので気づいたタイミングで調査をする必要がある、まずは創業の流れから。

Ⅰ.A24の創業 

創業者は3人おり、それぞれ映画関連会社の出身だ。
ダニエル・カッツは、グッゲンハイム・パートナーズという投資会社の映画部門。デイヴィット・フェンケルが配給会社のオシロスコープ、ジョン・ホッジが映画配給会社のビッグ・ビーチにそれぞれ在籍していた。

フェンケル、ホッジが在籍していた映画会社は、どちらも創業当初のA24と同じく、インディー映画を手がけることが多く、魅力的な作品が散見され
る。



ビックビーチの制作作品には、『リトル・ミス・サンシャイン』、『キングスオブ・サマー』を始め、A24が配給した『フェアウェル』がある。『フェアウェル』はサンダンス映画祭で話題となり、サーチライトやAmazonスタジオなど錚々たる映画会社が手をあげる中、A24が配給権を獲得したという。ジョンが関係を良好に保っている証拠だろうか。

オシロ・スコープも同じく魅力的な映画を取り扱っている。その最たる例が『ビューティフル・ルーザーズ展』だ。アレグドギャラリーのアーロン・ローズとストレングスマガジンのクリスチャン・ストライクの共同キュレーションによる、反体制文化の衝撃的企画展のドキュメンタリー映画である。この映画に関しては別の記事で詳しく記載したいと思う。

右がカッツ、左がホッジ

謎多き会社であるA24はあまりインタビューを受けていないらしい。
彼らが直接受けたインタビューは2022年時点でGQとウォール・ストリートジャーナルの2件のみであった。

GQのインタビューでカッツが創業に関することを話してくれている。

「私はいつも事業を始めることを夢見ていたが、正直、自分自身の道に進みうまくやれるか少し不安だった。そんなことを考えている時期に、友人とイタリア南部からローマへ車で移動していた。決心がついた瞬間にいたのが、A24(高速道路)だった。」

名前の決め方があまりにかっこいい。
インタビューでは、A24を始めることはかなりチャレンジングな決断であったことや、構えたオフィスが当分の間整理されず、物で溢れかえっていた様子を語っている。

余談になるが、インディペンデント映画配給会社は皆同じような道を歩んだかというとそうではないらしい。

サーチライト・ピクチャーズは、20世紀フォックスがインディペンデント色強い作品を取り扱う部門として、1994年に設立し、現在はウォルト・ディズニー・カンパニー傘下となった。

アンナプル・ピクチャーズは、パパ(マイクロソフトとIBMについてで世界第3位ソフトウェア会社オラクルのCEOであるラリー・エリソン)から25歳の誕生日にもらった20億ドルを元手に娘ミーガンが爆誕させたという。

他のインディペンデント配給会社の始まりも気になるが、本稿ではここまでにしよう。長くなったがA24の創業は既述のとおりである。
次章では、彼らが配給・制作した作品を通して彼らにもう少し近づきたい。


Ⅱ.スプリングブレイカーズの配給とムーンライトの制作

A24が取り扱った象徴的な作品として、2012年創業からまもなくで配給・商業的な成功も納めた『スプリングブレイカーズ』、初の制作作品である『ムーンライト』ではないかと思う。
本章では上記2作品にフォーカスする。 

1.スプリングブレイカーズ(2013)

本作は、田舎の大学で退屈な日々を過ごす4人の大学生が、フロリダの酒・セックス・ドラックにまみれたパーティーに参加するべく、軽いノリで強盗を試み、成功してしまうと言う話だ。計画通りフロリダにたどり着いた彼女たちは、見るからに怪しい自称ラッパーのエイリアンと出会う。彼女たちの「軽いノリ」は加速し、最悪の結末を迎えてしまう。

監督のハーモニー・コリンはスNYのスケーターをリアル描写した『KID』の脚本を19才で手がけた鬼才。当時スケーターであった彼は、ティーンエイジャー/スケーターたちの声をリアルに伝えるスクリプトの執筆を依頼されて快諾したと言う。 

コリンはスプリングブレイカーズについて以下のように語っている。 
「僕が興味を持ったのは、本当に快楽的でハードコアな雰囲気のスプリング・ブレイクっだった。子供たちが1週間だけ、日常から脱出して行方をくらまし、自分自身を開放させる。その後再び、つまらない仕事や、理解のない両親がいる世界に帰っていく。そう言う感じが、とても良いと思ったんだ。」

コリンが語るように、本作と『KIDS』は、成熟した資本主義下で生きる空虚な若者をリアルに描いている点で通じるところがある。彼女たちの日常に対する冷め切った認識が痛々しいほどスクリーンから伝わってくる。

下の写真シーンは、お揃いの衣装にピンクの目出し帽を被り、完全に交換可能な存在となってしまった彼女達が「優しくて上がる曲を弾いて欲しい」とリクエストする。夕日をバックにブリトニー・スピアーズ “Every time” のメロディを奏でる、あまりにも切ない合唱シーンだ。

映画を見た人はわかるように本作は大衆受けは狙いにくい。
A24制作陣とコリンは、「サンダンス映画祭前の試写会では、途中退席者も10人あまりいたし試写会後知人の多くは『上映するな』『新しい仕事を探したい方がいい』と言ってきた」と悲惨な結果をインタビューで語っている。

内容とテーマだけに彼らも試写会での人々の反応は想像し得ただろう。
しかし彼らは、コリンへのラブコールを送るため、映画に因んで「GUN
BONG」をプレゼントしたらしい。

フェンケルはスプリングブレイカーズの配給について聞かれこのように語っている。
「ソフィアコッポラやハーモニーコリンの映画に携わるために天才である必要があるかと言えばそうではないかもしれない。‥スプリングブレイカーズを好きな人や会社は多い。でもA24は『それにかけてみよう』と言う。そこが違うところだと思う。」

2.ムーンライト(2016)

A24は『スプリングブレイカーズ』の配給後、ジョナサンクレイザー『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』(2014)、アレックス・ガーランド『エクス・マキナ』(2015)、等の話題作を配給し続け、さらに勢いを増した。その中でも印象深いのは初の制作作品であり、第89回アカデミー賞作品賞、助演男優賞、脚本賞を受賞した『ムーンライト』(2016)ではないだろうか。 

本作は、貧困地区で生まれた少年シャロンの人生を少年期・青年期・成人後の3部構成で描いている。貧困地区での黒人としての生活、薬物中毒でシングルマザーである母親との関係、ゲイとしてのアイデンティティの形成など、少年の人生を切り取って丁寧に描かれている。

本作がアカデミー賞を受賞した前年は、白人ばかりがノミネートされ#OscarsSoWhite のハッシュタグがTwitter のトレンド入り、アカデミーの構造が批判されている状況にあった。そのような状況下での、無名の黒人監督・主演俳優による作品が受賞したことからより注目されることとなった。

バリー・ジェンキンスは低予算映画『メランコリーの妙薬』(2008)でデビュー、批評家からの高評価を受けたが、その後8年間で監督したのは短編映画やテレビドラマのみであった。
脚本や企画はあれど制作に至らない状況にあったジェンキンスと、彼の友人ラクストン(ムーンライトの撮影監督)、ラクストンの妻でプロデューサーのアデル・ロマンスキーが話し合い、共にプロダクション「Pastel」を立ち上げ、『ムーンライト』を制作することになる。

本作が魅力的である理由の1つは、主人公がそれぞれのフェーズにおいて、その苦難を受け入れられるだけの救済を見つけ出し、生き抜く姿が巧妙に描かれている点にある。
『エブリシング・エブリウェアー・オールアットワンス』で、主人公エブリンが自身と娘のニヒリズムに打ち勝ち、自分の人生を愛するまでのプロセスにも同じニュアンスが含まれているように思う。シャロンとエブリンの偶発的な事象を受け入れて人生を愛す姿には学ぶところが多い。

『スプリングブレイカーズ』と同じくして、ムーンライトの配給も”おいしい話”ではなかった。今ではなんとなく流行りそうだなと思うようなテーマにも感じるがこの映画は7年前に公開されたのを忘れてはいけない。
カッツ;「「バリー、なんでうちにムーンライトを持って来てくれなかったんだよ」と言うが、よく言うよな思う笑」
フェンケル;「ハリウッドではよくあることだな」

インタビューでは、監督のバリー・ジェキンス、カッツをはじめとしたムーンライト関係者はアカデミー賞をじ受賞したのち手のひらを返す制作・配給会社に呆れているようだった。

Ⅲ.アートハウス映画とポップコーンムービー

創業の経緯やインタビュー記事などからみても彼らが金に目が眩んだファッション野郎とは違うことは分かってきた。少なくともそんなファッション野郎は、上記2作品には関わらないだろう。

『アフターサン』(2022)を撮ったシャーロットウェルズも、「A24年仕事がしたかった」と話しており、他映画関係者のインタビューでもA24の監督の考えを尊重する姿勢は高く評価されているようだった。彼らが現時点で確かにかっこいい人たちなのは確からしい。 

本章では、あえてA24が退屈な会社になってしまう可能性について考えた上で、A24の魅力につて整理して締めたいと思う。 

A24の魅力が薄れる可能性の1つとして”A24っぽさ”の顕示的消費の加速が挙げられる。

彼らはムーンライトの後もグレタ・ガーウィグの『レディーバード』、ショーンベイカーの『フロリダ・プロジェクト』(2017)、ジョナ・ヒル『mid90s』(2018)、アリ・アスター『ヘレディタリー』(2016)、『ミッド・サマー』(2019)などの話題作を世に出している。
上記作品にも当てはまるように、A24作品には多様な性的・人種的マイノリティが活躍する設定が多く、貧困や差別の商業的には扱いづらいテーマが多い。A24っぽいと抽象される映画にはこののような特徴を持つ作品が多いだろう。

近年、リベラルで左翼的な価値観を明示することが、競合作品としての商品付加価値と直結するような状況がある。ラディカルだった発想が消費社会に取り込まれ、革新的な切り口で作られたはずの映画が、かえって資本主義からの出口のなさを強く印象付けてしまう。
インフルエンサーたちまでもが嬉々として語るようになった、エッジの効いたA24作品の『一歩先を行く魅力』は、ソースタイン・ヴェブレンが提唱した『顕示的消費』の材料となってしまう危険性も孕んでいるのである。(冨塚2023:235-236頁)

A24が顕示的消費を促す動きを強め、そのような消費のされ方を良しとして大きくなっていけば自ずと魅力は失われていくだろう。私たち消費者としてもそのような消費の仕方は避けたい。

もう1つの可能性としては、大企業による買収に伴う大作主義への移行だろう。「グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち」「パルプ・フィクション」等の名作を手がけたミラマックスがそうであったように、巨大企業による買収され、大作主義に社風を変えてしまう可能性もある。

1993年、ディズニーに6,000万ドルで買収される。買収後もワインスタイン兄弟らは良い映画を配給し続けるのだが、当時のCEOマイケル・アイズナーとの間に摩擦が絶えず思うように事業を進められなくなったという。 

 A24が魅力を維持するのは難しい事なのだと思う。30年ほど前、ミラマックスが覇権を握っていた頃、小規模だが良質な映画を興行的に成功させミニシアターブームが起きたらしいが、すぐにブームは下火になったという。実際、2024年現在もミニシアターの閉鎖が後を経たず、我々の居場所がどんどんなくなっている。

 一方で、彼らのインフルエンサー達までをも巻き込んでしまうポップさと、ラディカルなセンスは、ミニシアターの閉鎖が相次ぐ現状を打開し得るのではないかとも思う。ソフィア・コッポラは自身の監督作『ブリングリング』の配給をA24に任せることにした理由を「アートハウス映画とポップコーンムービーの両方にリーチすることができるから」であると語る。(降矢2023:120頁)

 A24がアートハウス映画もポップコーンムービーが共存するオープンで自由な道を切り開き、我々の居場所再建を後押ししてくれる可能性もあるのかも知れない。

【参考文献】

小柳帝(2020)『小柳帝のバビロンノート-映画についての覚書 3 』woolen press。

グッチーズ・フリースクール(2020)『USムービー・ホットサンド2010年代アメリカ映画ガイド』フィルムアート社。

降矢聡(2023)「アートハウスとポップコーン」『ユリイカ』2023年6月号、青土社。

冨塚亮平(2023)「革新と包摂の峡間で-A24主要映画解題」『ユリイカ』2023年6月号、青土社。

Zach Baron (2017) How A24 is Disrupting Hollywood , GQ (https://www.gq.com/story/a24-studio-oral-history). 

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