モチーフは面白いが、割高感が強い『東京サイコデミック ~公安調査庁特別事象科学情報分析室 特殊捜査事件簿~』
ゲーム概要
PS5, Switch, Steamなどで発売中
プレイ状況
約10時間でクリア済み
オカルト好きには刺さる
本作は章立て形式の事件捜査ADVだ。
主人公と相棒・紅葉は世話になった探偵・岩井を冤罪から救うべく、
異能教団と呼ばれるカルトの教祖や、その教団によって生み出された異能者を追っていた。
本作の中では、その異能者が関与している可能性のある事件を調査し、それが超常現象によって発生した事件かどうか解決していくこととなる。
各事件は章ごとに分かれており、ライフイズストレンジとかにも見られた演出として毎回OP, ED映像が挿入されるので、プレイできる探偵ドラマとしても楽しめるだろう。(ED飛ばせないのはちょっと問題あるが)
本作で描かれる事件は有名な都市伝説をモチーフにしており、人体自然発火現象、ファフロツキーズ現象、神隠し、魔の三角海域など、オカルトに触れたことがあれば興味そそられる内容となっている。
もともと私が本作に注目したのも、人体自然発火現象を科学的に調査するというのを目にしたからだった。
また、調査の過程で扱う要素も複数あり、様々な資料の読み込み、監視カメラなどの映像解析、音声解析など、他のゲームではどれか一つしか導入されていなさそうなツールをまとめて扱うことができる。
監視カメラの内容を追って特定の人物の行方を捜したり、公的っぽいフォーマットの書類を眺めたり、音声情報から位置を特定したり、やってみたかった捜査を実際に体験しながら推理をするのはなかなか面白い。
映像や写真などの情報は実写で作られているものも多く臨場感があるのもいい。
ただ推理の難易度は相当簡単だ。
大抵の場合大体のことが先んじて分かってしまうので、カタルシスを感じる転換点には乏しかった。
また、基本相棒がずっとそばにおり、次はあれを調べよう、その次はこれを調べようとやることを限定されがちなので、自由度はあまり高くない。
推理をするというよりは証拠集めをしている、というイメージが強い。
また、本作の主人公は基本的には安楽椅子探偵を決め込んでおり、証拠や情報を仲間に提供してもらって調査をしていくこととなる。
特にその過程でハッキング(というかクラッキング)を伴うため、メカニックと呼ばれる仲間には大分お世話になる。
もともと仲間たちとの関係性がよく分からない&説明もされていないのに、余計に他の仲間の影が薄くなりがちなのがもったいなかった。
UIはパッド使えばOK
Steamの評価を見るとUIの出来が悪いという評価が見られた。
たしかにマウス・キーボードでやるにはちょっと癖が強く、私も早々にパッドに切り替えた。
多分Switch版とかPS5版ではそこまで気ならないのではないかと思う。
Steam版でUIに不便さを感じるならパッドでやってみるのをお勧めする。
値段の割には出来が甘い
例えばこれが2, 3000円ほどの価格帯なら、ええやんおもろいやんって以降の文句には目をつぶっていただろう、たぶん。でも6000円払ってるんでね…
どうも本作は売れそうな要素を寄せ集め、PRに精を出し、それなりの価格をしている割には、肝心のゲーム部分はボリュームやUI、ゲーム進行に数々の問題を抱えており、個人的にはあまり心証が良くない。
画面の点滅の激しい箇所が多い。
各章のテレビがアップになっているところとか、報告書作成で物証を選択したときとか、目がチカチカするのがきつかった。
敏感な人はお気をつけて。
また特に序盤に顕著だがキャラクターの不自然な説明口調が痛々しい。
中途半端に説明するくらいならモノローグで文章読ませてほしい。
あと渋い刑事ポジションであろうキャラクターが痛々しい。
序盤から話していることが結構脱線したり論理立っていなかったり、かと思えば口調を荒げてすぐ怒鳴ったりするし、怒鳴ればなんか音割れてるし。
正直相当序盤からもう出てきてほしくないキャラだった。
にも関わらず仕事できるキャラ設定なので終盤まで出張ってくる。
メインの声優は基本的に悪くない。
がモブの声優があまりにも聞くに堪えない素人でかなり浮いている。気が散る素人演技よりは無音のがマシだ。
人名が覚えづらい。
かなり徹底して読みづらい姓名をしている人名ばかりなので、
読み方もわからなければ覚えることも難しい。
一番目にする相棒の名前も覚えていない。
主人公たちが何をしたいかよくわからない。
世話になった岩井の冤罪を晴らすためなのか、異能教団の行方を探ることなのか、異能者が存在するかどうかを明らかにすることなのか、異能の脅威から人々を救うことなのか、あるいはその全部か、よくわからない。
ボリュームが少ない。
というか尻切れトンボに終わるのでそう感じるのかもしれない。
あとエンディング曲がなあ(個人的な感想です)
オープニングは結構好きなインストのわりに、毎回強制的に聞かされるエンディングはちょっと歌詞が恥ずかしい。
…と思ってたらエンドロールで流れるフル版はさらに恥ずかしかった。
正直言えば、本作以上に推理要素やUIが優れていて、本作よりもっと安いゲームはたくさんある。
例えば以下3作はいずれも推理アドベンチャーとして良作だが、3作合わせて買っても本作より安く済む。
👇ビジュアルノベルの要素が強いがオカルトミステリとして推理も楽しめる
👇映像から推理するアドベンチャー
👇音声から推理するアドベンチャー
この先ネタバレあり
本作はミステリではない
ゆえにノックスにもヴァン・ダインにも則っておらず、終盤で急に証拠が増えたり、黒幕である異能者集団の存在が明らかになり、それまで科学的に証明できたと思っていたはずの事件はやっぱり異能によって引き起こされていました、という顛末になる。
この辺りは人によっては相当反感を買いそうだ。
私は嗜む程度のミステリ好きではあるとはいえ、超常現象と思えるような事件を論理的に解決することに快感を覚えるので、それを否定されてしまうのはちょっといただけない。いや相当いただけない。
だってそうだろう、被害者の体内に発火物質が滞留していて、エタノールを常飲していたってことなら一応自然発火の説明はつくか(まあ実際問題としては難しいだろうけどそこは創作だし)と思っていたら、実は自在に発熱できる特殊能力の持ち主が他の異能者に操られて自殺したのでした、とか後から言われても「はあ」ってなるじゃん。
ほんであっさりこれで真相がわかったね、みたいにされても「え、俺の調査は?」ってなるじゃん。
ユーザーのプレイを制限しておいて、実はこれ特殊能力だったんですよ~って言われたところでイラつくだけでは?
特殊能力なのは知ってんだよ。だって毎回報告書で、これは異能が関与していたかって聞かれてるんだから。これ後から報告書書き直されるやつだって一章時点で分かってんだよ。でもゲーム側がミスリードでもなく露骨に答えを誘導してるから、わざわざユーザーが空気読んで、科学的にはこうですかねぇって報告書書いてんだよ。
そんで後から実は超能力でした、じゃあ報告書書き直してくださいねって、もう制作側が空気読んでるユーザー相手にドヤ顔してるみたいであまりに情けない。
後から明らかになる真相って他人に教えられる形じゃなくって、うまくユーザー側に気付かせるように仕向けるからこそ、やられた!ってなるんだよ。
逆転裁判とダンガンロンパから勉強し直してくれ。
まあそう考えると本作のジャンルが「2D×シネマティック・リアル科学捜査シミュレーションゲーム」とされているのも納得だ。
これはミステリではない。
まあリアル科学捜査でもないけど。
あと最後の謎解きは全然納得いっていない。
謎解きの質的にも、謎解きを仕掛けてきた意味も、謎解きを仕掛けてきた人物が知りようのない資料を引用していいというのも納得がいっていない。
まず神蔵が最後の謎解きを出してきた理由がわからない。
主人公が有能かを見極めたかったとか言っているが、そのガバガバ謎解きで何がわかるというのか。紅葉が無警戒に握手して遺伝子操作させられてる時点で無能にもほどがあるでしょ。
んで、出された謎解きといえばポーカーの役を作れって、どの役?
なんでいつの間にかストレートが正解ってことになってるの?
んでまあ過去の資料から役の根拠となる資料を探せっていうのはわかるけど、ジャックとエース以外あまりにも地味、どころか資料に直接載ってないのもあるってどういうこと?
これまで過去のエビデンスボードとか資料閲覧できていたのに、この時だけ閲覧できないって何?
ちょっと前に仲間キャラ集合したのに今回は何も相談できないのはなぜ?
ほんで謎解きに使う資料の存在をなんで神蔵は認知してるわけ?
逆に言えば、捜査の過程でたまたま使った参考資料を何で根拠にしていいわけ?
それありならもう何使ってもええやんけ。
つまり最後の謎解きは、これまでの振り返りをしながらエモっぽい演出をしたかっただけの要素にしか見えず、そのために整合性やリアリティを投げうった本作の中でも最低の謎解きと言える。
…いや待て、エモを狙うなら仲間との協力とか入れるよな、普通。
もういよいよこの謎解きが何をやりたかったのか分からなくなってきた。
まとめ
本作の設定や操作ツールが魅力的なのは間違いない。
ボリュームやシナリオがこれを活かし切れなかったのが残念である。
シナリオをミステリに強い人に任せて、システムとかはUIブラッシュアップすれば絶対面白い要素はあるので、そういった改良の上で続編が出るなら、買う、かも。いや分かんないけど。
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