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幼年期の終わり

今日、母と一緒にIKEAに行ってきた。
2週間前に引っ越してから生活必需品を買いに行く暇がなかった私を心配して、わざわざ実家から来てくれた。

私にとっては、今回の引っ越しが人生初の一人暮らしなので、どんな道具を買っておけばいいのか全くわからず2週間を過ごしていた。
だから、実家をいつも完璧に整理整頓して「超・動線のいい家」にしていた母が一緒に買い物に来てくれるのはすごくありがたかった。

私の新居のアパートは駐禁の細い道路に立っているので、少し離れた駐車場に自分の車を止めて待っている母を私が拾いに行く約束になっていた。
朝起きると既に「着いたよ」と連絡が来ていて、私は飛んで家を出た。

駐車場で母と合流。
離れて暮らしたのはまだ2週間しかないし、私はまあまあのマザコン(?)なのに、一瞬「誰だっけ?」という感覚になってしまったのだから人間の脳というのはおそろしい。

なんて挨拶したらいいかわからず私は「ヤッホー」と言って、なるべく車を見られないようにさっさと母を車に乗せた。
運転席側に貼ってある「無限-MUGEN-」のエンブレムを見られたら、チンピラみたいとか言われる気がしたからだ。
※「無限」は私の好きなクルマのパーツメーカーです

名二環に乗って、長久手方面へ。
あっという間に目的地のIKEAに着いた。


到着した頃ちょうどお昼だったので、私たちはまずIKEAの入り口にあるフードコート的なあの場所でホットドッグを食べた。
めちゃくちゃフライドオニオン的なやつがこぼれたし、こぼさないように気にするあまりめちゃくちゃお下品な食べ方をしていたと思うけど、別に親だしいいかと思えて久しぶりに緊張感なく人前でものを食べられている自分に気がついた。
※私はご飯をよくこぼすのが恥ずかしいので、人と一緒にご飯を食べるのが少し苦手なのです

食べ終わったら、順路に沿って「インテリアのお手本」みたいなコーナーを回った。
何年か前に初めて来た時は「はえー、かわいいお部屋だー」としか思えなかったけど、一人暮らしを始めたおかげで「この部屋のレイアウトは便利そうだな」とか「このお皿はかわいいけど使いにくいかもな」とか、見る目が変わっているのを感じられた。

特にキッチン周りのコーナーでは、最近料理をすることが増えた(実家では月イチくらいしかしていなかったけど最近は毎日している)ので、母と一緒にお皿やキッチンの道具のことで詳しい話をできるようになっていたのが楽しかった。
こんなことならもっとはやく実家にいる時から料理をしていればよかった、と思った。


「そういえばなんでイオンとかじゃなくてIKEAに来たんだっけ?」
と、レジに並んでいる時になんとなく聞いた。
すると、
「JKボンバーズがこの前テレビに出てたから」
と母は言った。

「JKボンバーズ」とは、私の大好きな芸人・インポッシブルがJKになった姿のことだ。知らない方に簡単に説明すると、

  1. JK姿の二人が道を歩いている

  2. 犬や猫など可愛い動物を発見する

  3. 「でもな〜んだかんだ、アナコンダ!」と言いながら巨大なアナコンダのぬいぐるみをスクールバッグの中から取り出す

  4. 犬や猫を何かしらの点で凌駕するアナコンダの素晴らしさを確認した二人が突然「ドカーン!!」と叫んで爆発し終了

というネタがあり、そのネタの中で登場するアナコンダのぬいぐるみこそ、IKEAで売られているヘビのぬいぐるみなのだ。
※正確には「ニシキヘビ」として売られている

そのネタを最近テレビで見て、JKボンバーズ=インポッシブルが好きな私のことを思い出し、IKEAに誘おうと思ったらしい。
そんなポイントで思い出されるなんて、インポッシブルの二人も嬉しいと思うよ。

「JKボンバーズのヘビのこと、覚えてたんだ」と私が言うと、「アレだけハマってたんだからそりゃ覚えてるよ」と言われた。
なんだか、小さい子供がレンジャーとかプリキュアにハマったせいで自動的に変身セリフを覚えてしまう親みたいだ、と思った。
母にとっては、私はまだ小さい子供の頃と変わってないのかなぁ、と思ってちょっと泣きそうになった。


私の新居に戻ってきて、買ってきたものを二人で家に並べた。
IKEAを楽しみすぎて、その時すでにもう18時。
そろそろ母は実家に戻らないといけない時間だった(他の家族は誰も夜ご飯をつくれないので)。

「じゃあ、家事なんて適当でいいんだから体力温存してよ」
と言って、母は帰る支度をした。
初めて、私の家から母が実家へ戻っていく時だった。
「またね」
と言って、母はあっさり帰っていった。

玄関からリビングに戻ると、薄暗い部屋の中テレビがつけっぱなしだった。
ネクストコナンズヒントがついていた。

私は、その時初めて「ついに子供時代が終わったんだ」と実感した。
引っ越した当日は、まだ別荘を手に入れたぐらいの気持ちだったので、一つの時代が終わった感覚はなかったのだ。

これからは一人で生きていかなくちゃいけない。
ちゃんとした大人にならなくてはいけない。
でも大人ってどうしたらなれんだろう?

何をしたらいいかわからないけど、何かしないといけない気がした。
猛烈に、何かしないといけない気がした。

暗い部屋で一人 テレビはつけたまま
僕は震えている 何か始めようと

ザ イエロー モンキーの「JAM」みたいな状態だった。

とりあえず何か夜ご飯を作らないといけないし、ずっとソワソワしているわけにいかないので、適当にチャーハンをつくった。

幼年期の終わりは、思ったよりあっさりしていた。


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