300km/hの領域で走るということ
これは、私の人生観を作った名作クルマ漫画「湾岸ミッドナイト」に登場する有名なフレーズ。
日産スカイラインGT-Rを専門とする職人気質のチューナー(クルマをいじる人)・黒木隆之がモノローグの中で語る言葉だ。
チューニングの真の奥深さを知らない客、そしてチューニングの真髄に迫ろうとせず金儲けばかり企んでいる同業者に嫌気がさして、従業員を全員解雇したった一人でチューニングショップを営む、狂人揃いの作中でもかなりの変人・黒木。
(イーロン・マスクだっていきなり全員解雇なんてしなかったのに!)
私は彼と同じでGT-R(特にR32は世界一のクルマだと思っている)が頭おかしいレベルで好きなのと、彼のように頑固で職人気質の漢キャラが好きなこともあり、このフレーズは空で言えるレベルに記憶している。
今日、私は仕事終わりに会社の先輩方とゲーセンに行った。
一番の目的は「湾岸ミッドナイト マキシマムチューン6RR」。
もはや原作を知らない人でも「車のアケゲー」と言えばコレと思い浮かべるかもしれないレベルに知名度のある、でも怖そうなクルマオタクたちがどっかり座っているから遊んだことはあまりないであろう、アレ。
私がクルマ好きなのを覚えてくださっていた先輩が、仕事が早く終わる日があれば行こうと以前誘ってくれていて、ついに今日実現したのだ。
湾岸の原作自体は何度も読んでいる私だが、アケゲーの方は実はほとんど遊んだことがない。
大学の頃と、入社してすぐの頃に数回遊んだ程度で、バナパス(やり込み要素のアイテムを変えたりするカード)も持っていなかった。
そんなだから、「わ!!いきましょう!!」とか言いながらドラテクには一切自信がない状態で、ゲーセンに向かった。
まず肩慣らしに、という感じで私たちはいくつかクレーンゲームをやり、ちいかわのぬいぐるみに手こずったりして空気を温めた。
そして、前述のような怖めのクルマオタクたちが帰っていったタイミングを見計らって、ついに「湾岸ミッドナイト マキシマムチューン6RR」へ。
いざ筐体を前にし、コインを入れ、シートに座ると、両耳元から思ったよりも爆音でBGMが流れている。
湾岸のBGM自体はいつもSpotifyで聞いているけど、ゲーセンで聞くとこんな感じなのか…。
そう思いながら、私は迷わず車種選択でGT-R(BNR32)を選んだ。
「GT-RのRは、不敗神話のRだ!!」
先輩方だからといって遠慮はしない、オレのRで軽くちぎってやるぜと思いながらバトル開始。
相手は911ポルシェターボ(湾岸原作はご存知ないはずなのに奇しくもブラックバードの車)と、WRX(たぶん)。
「WRXはわからないけど、911は扱いにくいクルマだしひょっとして楽勝か?」
と思っているうちに負けた。
めちゃくちゃ負けた。
単独で走っていた時は、よくわからないランキングだけど全国5位も叩き出していたのに全部のバトルで負けた。
でも超楽しかった。
「あれ?遅くね?」
と先輩方はお思いだっただろうが、満足だった。
興奮冷めやらぬ状態で帰りの電車に乗った時、なんとなく私は黒木の言葉を思い出した。
そう言えば私は、さっきのバトルでアクセルベタ踏みしていた。
日産が世界に誇るエンジンRB26の凄まじいパワーと、4WDならではのトラクションのかかり具合に陶酔して、直前番長と化していた。
※レースゲーで直線しか速くない人を「直線番長」と揶揄することがあります
対して先輩方はどうか。
初めて遊ぶ人とは思えないスピードで一般車を避けながら、深夜の阪神環状線で高速スラロームとコーナリングを繰り返していた。
「公道300km/hを出すというコトは、必然的に250km/h級のコーナーリングを繰り返していくコト」
速く走る人は、いつだってコーナリング、つまり方向転換をしているということなのか…。
なんだか、これは仕事にも当てはまりそうな気がした。
仕事が早い人、すごいスピードでスキルアップしていく人は、早すぎて周囲に気づかれないような方向転換をきっと繰り返しているんだ。
日々、小さなGood・BadやKPT見つけて、Tryを繰り返して、速さを、未体験の領域へ行くための速さを、求めているに違いない。
私は、250km/h級のコーナーリングをしているだろうか?
振り返ると、私はいつも直線番長だった。
たまたま仕事がうまくいっている時、トラクションがかかっている時、「なんか最近いい感じだラッキー!」とアクセルベタ踏みだった。
300km/hの領域で走るためには、250km/hのコーナリングを目指さなくては。
グッと減速してだらだらコーナリングするんじゃなく、250km/hで、だ。
楽しい上に、なんだか前に進むためのヒントをもらえたような、温かい夜になった。
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