About her | 彼女について
彼女はよく食べる、彼女はよくうたう、彼女はよくしゃべる、彼女は。
突然風が吹いたような自然さで彼女に出会った。「どこかで会ったことがあるような気がする」と言って、彼女は考え込んだけど、わたしは人間関係の入り口で自分を後回しにすることに慣れていて、遠慮がちに笑いながら、でも心をこめて「わかります」とだけ言った。心の底の方で、(そうであってほしい、仲良くなりたい、星と星が衝突するみたいなミラクルな出会いがわたしにも起こればいいのに)と強く思っていたことには気がついていた。
毎日、帰り道をひとりで歩きながら、podcast< call if you need me >を聴いて、パーソナリティの二人の全てに憧れていた。突然引力に惹きつけられたみたいに話すようになって、お互いを大事にまなざし合う関係。そんな二人の会話を聞きながらわたしは、毎日、ガラスの部屋に閉じ込められたような孤独感が消えなかった。
二つのバイトをする、実験的な新しい生活にも慣れて、次の一手を決めないといけない節目がまたすぐそこにあった。忙しさにかまけて、心を誰かに差し出し続けて、またいつの間にか、スマホの画面しか見れなくなっていた。何がしたいのか、未来が全く見えなくなってしまっていた。この空洞から抜け出せなくて、その日限りのきらめきだけを大事にかき集めていた。
彼女は、そんなわたしをガラスの部屋からふわりと誘い出したんだ。
お昼に中華とかケーキとか食べ過ぎたのに、二人でしらすの定食を食べながら、ポツポツ話した。とてもさみしい、よくわからないけど、と濁しながら話すと、どういうこと?教えてほしい、とちゃんと聞こうとしてくれたことが嬉しくて、頑張って言葉にしたけど、うまく話せなくて、それでも、次の瞬間彼女は、もう私がいるから大丈夫だよ、といたずらな顔をして笑った。わたしは心の底から安心して、何を話しても、話さずに無言でいても、わたしのままいられる、と思った。
祈るように伸ばした手を、すかさず大事に繋いで、目を見て、穏やかな安心をくれた彼女と、わたしはまだ出会ったばかり。
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