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「誰もが自分らしく美しく」 中学生に伝えたい理想の世界

ARROWSが提供する、先生と企業が一緒につくる新しい授業「SENSEI よのなか学」をご活用いただいた企業様に、導入の背景や想いについて伺いました。

<お話を伺った方>
岩村 七瀬(いわむら・ななせ)さん

Global Mktg. & Comm. Senior Director, Masterbrand & Core G.
SHISEIDO Global Brand Unit

◆「美しさ」への無意識の偏見や差別と向き合うプログラム


──中学生を対象とした授業を開発されたのは、御社が進めている「SEE, SAY, DO. プログラム」が発端になっているそうですね。どのようなプログラムなのでしょうか。

SHISEIDOブランドがSDGsの目標達成に向けて少しでも貢献できるようスタートしたのが「Sustainable Beauty Actions」というプロジェクトです。その柱の一つがダイバーシティ&インクルージョンの領域で、「Unconscious Beauty Bias(以下、UBB)」について理解を深めるためのプログラムとして2022年9月に発足したのが「SEE, SAY, DO. プログラム」です。

岩村さん

UBBは、「自分らしい美しさ」を制限する無意識の思い込みや偏見を指します。性別、年齢、国籍などにとらわれず、誰もがその人らしい美しさを誇りに思うとともに他者の美しさを尊重できるような世界をつくりたいという想いは、当社のコーポレートスローガン「Beauty Innovations For A Better World」にもつながります。美しさというのは、私たちに力を与えてくれるもの。それを阻害する無意識の偏見や差別があるのであれば、少しでも解消の一助となりたい、そんな願いから生まれたプログラムです。

──「SEE, SAY, DO.」という名前にはどのような意味があるのでしょう。

「SEE, SAY, DO.」は、私たちがUBBと向き合うにあたって積み重ねたプロセスそのものと言ってもいいかもしれません。まず着手したのは、私たち自身がUBBについて理解し、バイアスから本当にフリーになれているのかを検証することでした。社内でディスカッションを重ね、同時に、お客様はどんなことを経験し、どんなふうに傷ついたり勇気をもらったりしたのか、調査を進めていきました(SEE)。無意識の偏見について理解を深めたのちに、今度は私たちにできることは何かを語り合い(SAY)、実際にアクションを起こしていくことで(DO)、徐々にスケールアップできるのではないかと考えたのです。

こうした一連のステップを多くの方に体感していただける場を作ろうと、UBBを擬似体験できるウェブサイトを立ち上げました。「こんな経験をしたことがありますか」「こんなことを言われて許せますか」といった質問に答えていくと、実際にUBBの壁にぶつかった方々の体験談を読むことができます。国籍や年齢を問わず、あらゆる方がさまざまな経験をされています。こうした実例を知ることはとても重要です。最終的に、自分には何ができるのか、何かをやってみたいと考えていただけることが、このコンテンツの目標となります。実際にワークショップ用のコンテンツもダウンロードできるようになっていて、身近な方々との話し合いや、企業のトレーニングなどにも使っていただくことが可能です。

◆学校現場でUBBに関するオープンな議論を

──こうしたプログラムの流れから、中学生向けの授業が生まれたのですね。

調査を進めていくなかで、若年の多感な時期に受けた偏見や差別は、たとえ些細なものであったとしても、後々まで記憶に残っている方が多いことがわかりました。自分自身が望まない「キャラ設定」につながっているケースも少なくありません。UBBに縛られることなく、もっと自由になっていいのだと多くの方に伝えたい──もし若い世代に私たちができることがあるのであれば、それは非常に意味があることだと考えたのです。

──教材を作るにあたって、どのようなことに留意されましたか。

身近な問題として捉えていただくことが、とても重要だと思いましたので、中学生が共感しやすい内容になるよう心がけました。授業は、「年上なんだからがまんできるよね、と言われたことがある」といった属性による他者への決めつけ、「自分はスタイルが悪い」といった自己の思い込みの事例を紹介し、自分に当てはまるものはないか確認するところから始まります。こうした事例についてはARROWSさんにご協力いただき、中学生600名に実施したアンケート調査を参考にさせていただきました。

授業を受ける生徒さんは、これまでUBBについてお友達と話をする機会があまりなかったのではないかと思います。この授業では意見交換の時間をたっぷり設けていますが、これも重視したポイントの1つです。意見を交わし合うことで問題意識を持ってほしいという意図もありますが、こういう話をしてもいいんだよ、という私たちからのメッセージと置き換えてもいいかもしれません。

──授業を受けた生徒さんの反応はどうですか。

おかげさまで、たくさんの反響をいただいています。授業後のアンケートを見ると、「自分が当たり前に思ってきたこと、考えてきたことを見直す機会になった」「誰もが生きやすい世の中になるよう、何が大切か、何が生きやすさを阻んでいるかを学ぶことは大切だと思う」など、考えるきっかけを得ることができた生徒さんが多いのではないでしょうか。

実際に私も授業見学に行ったことがあるのですが、みなさん活発に発言されていてうれしかったですね。中学生の捉え方は大人とは違うのだなという発見も新鮮でした。大人になると「自分は誰かを傷つけてしまっていないか」という観点で考えることが多いように思いますが、中学生は「自分はどうあるべきか」「もっと自分らしくあっていいんだ」と考える方が多くて。授業で自分と向き合った経験を、未来につなげていただけたらと思いました。

◆授業づくりのプロセスがさらなる挑戦への原動力に

──中学生に授業コンテンツを提供するにあたり、ARROWSとの協業を決めた理由を教えてください。

何と言っても、多くの先生方と直接つながっているというのは大きな魅力だと思います。学校現場の実態を非常によく理解されていて、私たちが伝えたいことを授業に落とすために必要な知見やノウハウを充分に提供していただきました。授業の展開の方法や1コマの時間配分など、要所要所で適切なアドバイスをいただき大変心強かったですね。

また、授業後のフィードバックを細やかにいただけることも重要なポイントだったと思います。SEE, SAY, DO.プログラムのウェブサイトは世界のどこからでも、どんな年代の方でも平等に見られる良さがありますが、見てくださった方が、その後どのように変容したのかを知るすべはありません。今回ARROWSさんにご協力いただくことで、授業が生徒さんにどのような変化をもたらしたのか、どんな議論を生み出したのか、先生からはどう評価されたのか、などがわかるのは、私たちにとって得るものが大きいと実感しています。

こうしたプロジェクトは、自分たちがやろうとしていることが社会にとってどんな意味があるか問い直すきっかけになるので、授業を作るプロセス自体が非常に貴重だと思います。また、それに対する反応が見えることにより私たちのモチベーションにつながり、さらなる挑戦に向けての原動力になると感じています。

──今後、中学生をはじめ若い世代に発信していきたいことはどんなことでしょうか。

成長過程にある多感な時期を迎えたお子さんたちが、周りの目を気にして「こうありたい」という気持ちを諦めることなく、自分の理想を追求できるよう「ちょっとの後押し」ができたらいいなと思っています。ありたい自分に向かってためらいなく前に進むと同時に、同じように前に進む他者を阻害しない。そんなふうに、各々が尊重し合えるような社会になれば素晴らしいことです。こうした世界を実現するために少しでもお役に立てたらという気持ちで、これからも若い世代を応援し続けたいと思っています。