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best moment is yet to come

私のための歌

私のための歌だと思った。

「今後の人生で今日が一番のピーク」
五年ほど前に、友人と私が生み出した名言だ。
若さという最強の武器を無くしつつあった20代半ばの私たちは、生物学上今後退化していくだけの人生を冗談半分に笑いあった。

「アラサー」という言葉が文脈の中で使われるとき、たいがいそれは自虐的なマイナス表現だ。
かつては「成長」だった、歳をとるということが、いつの間にか「老い」と認識されるようになってしまった。
社会的立場やライフステージが変わることで実感できる成長もあるのだろうが、日々当たり前のように更新される周囲の【ご報告】を横目に、私はあの頃とさして変わらない日々を送っている。

人生は楽しい。毎日本当に楽しい。
そこそこ安定したホワイトな職に就き、心身ともに健康で、公私の人間関係も良好、そして何より大好きな推したちを生き甲斐として輝く私の人生は最高だと胸を張って言える。
しかし、見えない未来に時々漠然とした不安を抱くのも事実だ。
あらゆる面での長期プランが立てられていない中、目の前の日々を一生懸命生きているうちにも毎日人生の「ピーク」は過ぎていっている。
五年前の自分が冗談まじりにかけた呪いが、少しずつ現実味を帯びながら今もしっかり自分を縛っていることに時々気付く。

その呪いを、全否定された。
むしろ彼らは正反対のことを何度も何度も繰り返した。

ああ、だから私は彼らが大好きだ。
特別なものなど何も持っていない、世界の隅っこで生きるしがないアラサーにも光を照らしてくれる彼らの言葉が大好きなのだ。

もちろん、スケールも密度も桁違いの彼らの人生と私の人生における"best moment"の意味はまったく違うだろう。
それでも、同い年を含む同年代の彼らが伝えてくれるから、それだけで私には大きな意味がある。

今までたくさんのことを成し遂げてきた彼らでさえ、最高の瞬間がまだ先にあると言う。
いわんや、私をや。
まだやりたいことがたくさんあるのに、勝手に人生のピークを設定してたまるか。

私の人生の最高の瞬間は、まだこれからだ。

彼らのための歌

彼らのための歌だと思った。

「地獄のような社会に逆らえ」
九年前に、彼らはこんな言葉とともにデビューした。
グループ名には、若者に対する偏見や抑圧を防ぎ、自らの音楽を守り抜くという意味が込められているそうだ。

私はいわゆるButter新規で、私と彼らが共に歩んだ時間など彼らの歴史に比べればあまりにも短い。
加えて必修科目である花様年華も、フィクションとはいえあのストーリーをどうしても受け入れられず、概要を把握しただけで履修をやめてしまった。
そんな人間がこの歌について語るのは正直けっこう後ろめたい気持ちもあるのだが、そんな中途半端な私でもハッキリと分かるほど、この歌は彼らの歴史そのものだった。

私が勝手に作った「歌い手意識」という概念がある。
楽曲に歌い手の自我がどれだけ入っているかを指す言葉で、例えば「僕はここで歌ってるよ」的な応援歌っぽい歌詞は比較的歌い手意識が高いことが多いと思う。
言葉やメロディを含めた楽曲の世界観は、作り手のメッセージが込められた少し抽象的なフィクションであることが多い。
歌詞の中の「僕」は歌い手自身ではなく、そのフィクションの世界の中の主人公だ。
そういうとき、歌い手はその世界を代読してくれる存在で、歌い手と楽曲には少し距離があるため歌い手意識は低くなる。
しかし、彼らは「彼ら」として歌う。
歌詞に出てくる「僕」は私の知る範囲では彼ら自身であることが多く、つまりどれも異常に歌い手意識が高い。
それゆえ彼らの楽曲を聴くことは、彼ら自身を知ることに直結する。
そして楽曲を通して私たちが彼らのメッセージを理解しようとするとき、グローバルスーパースターという肩書きからは想像できないほど人間くさい彼らの姿が浮かび上がってくる。

「転落事故報告書~原因分析と対策~」ぴま

以前上記のnoteでも書いた通り、私が最初に彼らの音楽を聴いたとき、この歌い手意識の高さにものすごく驚いたのをよく覚えている。
時に強い口調で社会に抵抗し、時に優しくファンに語りかけ、時にその胸に秘めた想いを見せてくれることで、彼らはグループ名の通り自身の音楽と表現を守り続けてきたのだと思う。
そしてそのメッセージはいつしか世界中に広がり、彼らは誰も成し得たことのない偉業を次々に打ち立てるグローバルスーパースターへと上り詰めた。

そんな彼らが、今このタイミングで伝えてくれた言葉。
ただただ歌と音楽が好きなのだということ、変化は多くとも彼ら自身は変わっていないこと、結果としてのトロフィーなど関係なくこれからも彼ららしく前進していくこと。
これらの言葉が、単なる歌詞ではなく彼らからのメッセージであることを私たちは知っている。
自身の過去を認めて肯定したうえで輝かしい未来への希望を歌い上げる彼らに、その優しく柔らかな表情に、私たちは救われるのだ。

この歌はバズらせるためのものではない。
誰もがハマる中毒性のあるメロディも、チャレンジしたくなる印象的なダンスも、耳に残るキャッチーなフレーズも無い。
むしろ、過去からのオマージュだらけの作品であることを考えると、ある意味これは初見殺しとも言える。
それがまた歌詞の中の彼らの言葉ともリンクしており、今の彼らの素直な気持ちをそんなところからも私たちは受け取れる。

実は私は、このアルバムにしろ今年のFESTAにしろ、あまりにも集大成の色が強すぎて少し怖かった。
「俺たちの旅はこれからだ」は少年漫画の最終回の常套句で、このアルバムのプロモーションが終わった先の彼らがどうなるのか、その見えない未来が少し不安だった。

でも彼らが言うのだから、きっと間違いない。
まだ彼らは彼ら自身の旅の続きを創り出すために進み続ける。

彼らの人生の最高の瞬間は、まだこれからだ。

私たちのための歌

私たちのための歌だと思った。

彼らの言葉で私が救われて、でも彼ら自身からこの言葉が出てくること自体が私もとても嬉しい。
多幸感のサイクルみたいな、不思議な歌だ。

カムバ当日、SNSのTLに並ぶ言葉はどれも美しくて尊くて、それこそが一人ひとりの人生に彼らが寄り添ってきた証なのだと思った。
この一曲に、それぞれの思い出がきっとたくさん詰まっている。
これは、見えないお互いを想い合う私たちの歌だ。

ずっと走り続けてきてくれてありがとう。
これからも私たち、一緒に進んでいこうね。

You and I, best moment is yet to come.

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