VlogはYouTubeのブランド力を高める
「好きなことして生き」ていきたいと人類すべての人が願うようになって久しい。たとえYoutuberが「ユーチュバーになりてぇな~、でかいラーメン食べるだけ~」であったとしても、「ユーチュバー“~するだけ”じゃないです。めちゃくちゃしんどいです」なのである。様々な才能、運と本人の努力のスペクトラムによって輝かしいランキングアルゴリズムの海を駆け抜けていくのがYoutuberなのである。
そのようなYoutuberが今までのテレビ芸能人やアイドル、映画俳優とちがうのは「親しみやすさ」だと言われている。たしかにYoutuberとして成功できる人は「クラスで流行っていることを自分でもすぐにやれる人」と誰かが言っていた。斜に構えてクラスで「〜するだけ〜」と言う人より、すぐにメントスコーラして校庭ではしゃいでる人の方がYoutuberとしては成功できるだろう。
視聴者とYoutuberの親密さが成功の鍵となるわけだが、その親密さは単にYoutuberで頻繁にビデオをアップロードしているからだけではない。Youtuberは視聴者との交流を行いオーディエンスのエンゲージメント(AE: Audience Engagement)を高めているのだ。
このYoutuberにおけるAEを、ブランドにおけるConsumer/Customer Engagement (CE)の枠組みで議論しているのが今回紹介する論文である。ブランドにおけるCEとは、たとえば服や販売店といった企業と顧客の間の親密性のことである。日本語では、カスタマーエンゲージメントと呼ばれることが多いようだ。
特に頃の論文では、ある有名YouTuberのVlogに焦点を当て質的分析をおこなうことでVlogのどのような側面が視聴者のCEを高めているのかを議論している。つまり、この論文ではYouTuberというブランドへのカスタマーエンゲージメント(CE)がVlogによってどのように高まるのかを検討している。ちなみに、Vlogとはビデオで日常を移したブログのようなものである。
この論文で分析対象となったのは、Zoë Elizabeth Suggという英国人のYouTuberが運営しているZoellaというチャンネルである。2009年からYouTubeをはじめ現在のチャンネル登録者数は1070万人である。本論文で引用されている調査によると、2020年では3700万以上あるチャンネルのうち1000万人以上の登録者を持つのは300だけだそうである。
この論文では、ZoellaのVlogを選び、ケーススタディとして分析することでCEの要因を探っている。このようないわゆる質的分析は、量的分析とは違い1つ現象を記述しているに過ぎないが、定量分析では分析できない微妙なニュアンスを捉えたり、量的分析の枠組みや方法を考える土台となるという点で重要な研究と言えるだろう。
論文では、Suggが行ったCEを高める方法は3点あることが指摘されている。それは、「インタラクションの充足」「インタラクションの奨励」「インタラクションの振り返り」である。
インタラクションの充足とは、コメント返しなどで視聴者の声を聞くことである。これは、単に質問に答えるだけではなく視聴者からコメントで要望のあった動画を作成するなども含まれる。
インタラクションの奨励のような方法も取られていた。これは、「見たい動画があったらコメントしてね」といったように自分への呼びかけを要求する方法である。
加えて、インタラクションの振り返りも行っている。「購読してくれてありがとう」といったように視聴者が行ってくれたインタラクションについての感謝を述べるといったことがこれにあたる。
書いてしまうと、YouTubeを見たことがある人なら誰でも知っているようなことかもしれない。しかし、これらのAEのための方策がCEの理論的枠組みで解釈できるとこの論文が主張していることだろう。それはすなわち、YouTuberとはブランドであり、その視聴者は顧客であるということができるからである。
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