見出し画像

プロコフィエフ:五重奏曲 ト短調 Op.39

2003年に書いた原稿をweb用に直しました。

五重奏曲 ト短調 Op.39


 プロコフィエフは1923年からパリに居を構えます。当時のパリではラヴェルの活動が絶頂期、ストラヴィンスキーの評価も確立していてプーランク、ミヨーらの<6人組>が活躍し始めていました。ちなみに1923年パリでは、ミヨーの「世界の創造」、ストラヴィンスキーの「結婚」の初演が行なわれ、プーランクはバレエ「牝鹿」、オネゲルは「パシフィック231」を作曲中でした。プロコフィエフはルービンシュタイン、シゲティ、シマノフスキ、ピカソ、アンナ・パヴロワらと親しく交際しました。<6人組>とも交際し、特にプーランクとは非常に仲が良かったそうです。2人は一緒にピアノを弾き、大好きなブリッジに興じ、プーランクがプロコフィエフのピアノ協奏曲の作曲の手伝いをしたりということもあったそうです(プーランクは晩年に、亡き友人プロコフィエフの思い出に捧げるため、オーボエ・ソナタ[1962] を作曲しています)。
 そうした中、プロコフィエフはヴァイオリン協奏曲第1番ピアノ協奏曲第2番などを発表しますが、彼の作品は強烈な不協和音などの表現にはすっかり慣れっこになっていたパリの批評家たちには「時代遅れ」だと判断され、冷淡に扱われてしまいます。立腹したプロコフィエフは、<6人組>くらいのモダンな作品を書こうと決意し、異様に複雑な音楽を作曲し始めます。それが「鉄とはがねで出来た交響曲」と呼ばれる交響曲第2番 Op.40、それと並行して作曲された五重奏曲Op.39 の2曲であり、その攻撃的なリズムと強烈な不協和音に満ちあふれた過激な作風は、プロコフィエフの全作品中でも突出したものになっています。


 オーボエ、クラリネット、ヴァイオリン、ヴィオラ、コントラバスというt特異な編成のこの五重奏曲 Op.39 は、短いバレエ作品「ぶらんこ(Trapeze)」のための音楽から生まれたものですが、その成立事情は極めて複雑です。1924年、プロコフィエフは元マリンスキー劇場のバレエ・マスターだったボリス・ロマノフの巡業バレエ団「ロシア劇場」から、5つの楽器によって伴奏される新作バレエのための音楽を依頼されました。プロコフィエフは、クーセヴィツキーから依頼されていた交響曲第2番を書く間に「若干の収入を得るため」、1924年7月にこの依頼を受け入れ、その際にこの独特な楽器編成を提案しました。バレエ「ぶらんこ」のプロットは極めて単純なものしか残っていないのですが、サーカスの生活に基づいたものでした。登場人物は踊り子、曲芸師、中国人などで、踊り子をめぐって爆竹による決闘が行なわれ、その爆発で踊り子が死んでしまうという、何とも残酷で救いのない内容です。プロコフィエフはこのプロットに従って作曲を始めましたが、最初の段階からこの音楽をバレエ音楽と同時に、演奏会用の五重奏曲としても成立させることを決めていました。作曲は順調に進み、8月には完成したのですが、バレエ団の方が経営難などの理由で稽古に入れず、ロマノフが振り付けを始めたのは、翌1925年に入ってからでした。しかし、ここで問題が発生します。ロマノフが何だかんだと沢山の変更を要求してくるのです。プロコフィエフは、既にディアギレフとのバレエ「鋼鉄の歩み」Op.41 の仕事に入っていたので時間もなく、そうでなくても作品の出来には自信がありましたから、出来上がったものに手を加えることは拒否しました。しかし、曲の追加だけはいやいやながら同意し、「序曲」と「水夫の踊り(Matelote)」の2曲を作曲しました(この2曲は作曲者自身によってオーケストラ用に直され、ディヴェルティメント Op.43 の第1、3楽章として聴くことができます)。すったもんだの末、同年秋にバレエ「ぶらんこ」はようやく初日を迎え、1926年までに何回か上演されましたが、そのどれもが大きな都市ではなかったため大きな話題にもならず、ロマノフのバレエ団も同年解散してしまいました。当初からこの音楽は演奏会用の五重奏曲としても考えていたプロコフィエフは、オリジナル版をOp.39として出版することで作品の完全性を確保しており、また追加した2曲も別の作品で生かすことができたため、いろいろイヤな思いをしたバレエ「ぶらんこ」への興味を失っていたと思われます。現在ではバレエの「ぶらんこ」のためのパート譜もスコアも残っておらず、最終的なシナリオも振付けも、何もかもが消失しています。プロコフィエフの作品の中でも、この謎の多い「ぶらんこ」のためのバレエ音楽は、研究者の興味の対象になってきました。近年では研究も進んできており、プロコフィエフ・イヤーを迎えるにあたって、「序曲」と「水夫の踊り(Matelote)」が残っていたピアノ用の手稿から五重奏に復元され、この1月にマンチェスターで五重奏曲Op.39 とあわせて演奏されました。また、舞台版も4月8日にロンドンのイングリッシュ・ナショナル・バレエで上演されることになっています。
 作品は6つの楽章で構成されています。どのパートも極めて高度な技巧が要求され、更にその複雑な書法と目の回るような変拍子(特に3楽章!)のために、アンサンブルを整えていくことも至難です。では、最も過激で先鋭的だったプロコフィエフが描いた、悪夢のような6つの情景をお楽しみ下さい。


余談「結婚」

ストラヴィンスキーのバレエ「結婚」は大好きな作品だ。ディアギレフに献呈され、1923年にバレエ・リュスで初演された

ピアノ4台、打楽器9種、独唱4人、混声合唱という特異な編成の作品

おれは当初はアンセルメのLPを愛聴していて(アンセルメは初演の指揮者)、その後バーンスタイン盤にどっぷりハマるようになる。「春の祭典」や「火の鳥」よりもずっと好きになった。バーンスタインの録音のピアノはなんと!アルゲリッチ、ツィメルマン、カツァリス、フランセシュ


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?