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「ずむや」3年やってきて(思考と学び)

2018年5月末に「ずむや」をオープンして以来、3年。小さなネットショップをやるために考えていたこと、学んだことを書きたいと思います。初めての有料記事にしましたが、途中まで無料で読めるので、ぜひに。

どんな読者を想定しているかというと、個人でネットショップをやってみたい人の参考になるかもしれないし、ずむやを楽しんでくれてる人にも3年間の紆余曲折を面白く読んでもらえるかなと思っております。私は麻雀関係の仕事だけで生活しているのですが、ネットショップはひとつの選択肢として面白いし、よい経験にもなりました。それではよろしくどうぞ。

■ずむやを始めるにあたって

1.理由

ずむやをはじめようと思ったのは、麻雀のプレー以外で「麻雀ファンを楽しませることができる自分発信の何か」を持ちたかったからである。周りの有名選手をみると、解説やトークが面白かったり、楽しい写真をupしたりと、麻雀以外にもエンターテインに秀でた人が多いが、自分は特に何もない。しいて言えば文章がたまにウケる。瞬時に気の利いたことはできないが、練りに練ったら自分にも人を楽しませることができるはずなのだ。よく考えて面白いものを作ってみよう、と思ったのが始まりで、2018年の初め頃である。

2.不安

まったく売れなかったらどうしようと心配だったが、どうしようと言っていても仕方ないので、最初に用意する商品や梱包資材は少なめにして守備寄りに構えていた。そんな心配もしつつ最低1年は継続する計画で、反応が悪ければ随時考えようと思っていた。後から知るが(いずれにしろ小規模とはいえ)思い切ってお金と脳みそを使って良いものを作る方が結果的には物は売れる。

物を売るとなると予期せぬ批判が集まる可能性もあると思っていた。後述するが当時の世論は現在よりも個人商店に厳しかったのである。とにかく真面目にやろうと考えた。しょうもない批判をしたがる人は「誠実・スマート・ハッピー」の3点が揃うと回避できる場合がある。できない場合もある。とにかく動機は真剣に人を楽しませたいことにあるわけだから、なんとか信頼を得たいと思っていた。

3.大平は商売に向いていない

とにかく何事も安請け合いしがちな人間である。そして興味があれば儲からなくてものめり込みやすい。私はここ数年、自分を大いに反省し変わろうとしている。

数年前から他人を助ける際は、①助けが必要な状況で②私に助けを求めていて③私にとって助けたい相手、である場合以外は心を鬼にして助けないようにしている。ちょっと冷たいようだが世の中には「とにかく与えられようとする人」がいるので仕方ない。そいつらからの評価は別だん要らない場合がほとんどである。

ろうそく問題というのをご存知だろうか。単純な作業と違い、知的でクリエイティブな仕事は報酬を気にしない方が成果が上がるそうだ。つまり面白そうな仕事だ。ここには仕事の成果が上がることが自分のうだつを上げない可能性も示されている。面白い事にトライしたい人は自力で「鈍しないように貧しない」努力が必要だと中年になってから気付く。

そこでずむやを始めるにあたって「何があっても儲けを出す」と決めていた。決めないとついつい儲けを出さない恐れがあると思っていた。人には向き不向きがあるが、不向きな場合は自覚を持ち、自分を冷静に分析し対策することが必要である。

■値段のこだわり・しくじり

1.やっぱり安く売りたくなる

決心したものの「ファンサービスが動機だし」「若い人もいるだろう」と、ついつい値段を安くしたくなる。「安い=親切」は錯覚である。お金に疎い私はいまだに錯覚しているところがあるが、責任をもって販売できる価格であることが誠実な対応でもある。値段については失敗が多い。

2.麻雀の点数にこだわるな

私はこだわってしまった方の人間である。これから何かを売りたい麻雀関係者に言いたい。麻雀関係の物販で人はついつい2600円とかにしがちだが、手垢のついた手法であるしブランティングの面からも大したメリットはない。デメリットは多い。原価の上昇や消費増税の時に、ずむやはとても悩みを抱えた。値段は純粋に適正な数字を付けることをおすすめしたい。送料が1本場なのも無茶だった。

3.ずむやのポジション

とはいえ販売価格はコストから算出されているのだが、もうひとつのこだわりに「ヴィレッジヴァンガードで売っていそうな価格にしたい」というものがあった。今もある。

「麻雀グッズ」と言われるずむやの商品だが、元々は麻雀グッズというより、「雑貨屋で売っている雑貨のデザインがたまたま麻雀モチーフ」という立ち位置を目指していた。微妙な違いである。バンドのライブで売ってるTシャツと、雑貨屋でみつけるバンドを取り上げたプリントのTシャツの違いを分かっていただけるだろうか…。みんなが麻雀グッズというので否定をする気は特にないけれど、記念品より日用品志向という思いがあったのである。

ずむやのように超小規模で作っている商品と全国で売られている商品の値段を釣り合わせるのは、とても難しい。ヴィレッジヴァンガードで売ってそうな値段で売れないから作るのを断念した商品も多い。そして必然的に原価率が高めになる。が、値段が高いと商売に向いていない自分は売る技術も低いはずなので、これでよかったのかもしれない、とも思っている。

■2018年の利益、実は15000円

1.儲けを出すという決意は嘘なのか!

2018年の5月末にオープンしたので、半年で15000円しか利益を出さないというのは逆に難しいと思うのだが、約50万円を使って約50万円売り上げた。これには理由が…。確かに儲けを絶対に出すと決意した大平だが、最初に書いたとおり不信感を買う可能性を大きくみていたので、確実に成功させるために信頼を獲得するまで追跡可能な郵便で送りたいと考えたのだった。ずむやの送料はシャレ半分、普通郵便で送ることを想定した価格であること半分だったので、大きなコストがかかることになった。

2.ゆうパケット

1cm~3cmで3段階の値段があり、追跡可能な郵便である。これを使っていた。が、梱包は当初の見積もりよりかさばることも多く、2cm以内とうたっている段ボールを買ってもいざ組み立てると微妙に郵便局の計測をパスしないなどの不測の事態もあったりした。

3.試作にもなにかと費用

ずむやの商品はデザインの原稿を作り、無地の商品に印刷を依頼しているものがほとんどである。今となってはあちこちの業者の仕上がり具合はだいたい掴めているが、最初の頃はうまく予想どおりの仕上がりにならず、試作を重ねることになったのも原因である。

4.印刷費の爆上げ

この年、変なタイミングで印刷費が爆上がりしたのもある。それでやむなく値上げをした所で、別の業者も微妙に値上がりしてビックリ。何度も変更するのに気が引けたのと、値段に変な縛り(麻雀の点数)を付けていたせいもあってその後なかなか動かせず。とにかく値上げがたくさんあって困った初年だったのである。

が、理由はそれだけではなく、最初に安めに売りたいという理想を持ってしまった自分の甘さにもある。責任をもって運営をするということは、やはり責任をもって維持できる価格で物を売らないといけないと痛感する。

5.それでも続ける

初年はとにかく信頼を得ること、面白いものを作って麻雀ファンに広く認めてもらうことに注力していた。今から成果を出す!と思っていたので、当時はそれほど苦ではなかった。コストは掛かったが自分の作った物に50万円ものお金が払われたのだ。だからいけると思っていた。今思えばしくじりの宝庫である。

■翌年からは徐々に利益

1.コスト削減

前項で書いたコストを徐々に減らしていった。郵送については、ずむやが受け入れられたことを実感したのと、3cm以上の厚さの商品も作りはじめたのを機に、追跡なしの普通郵便に切り替えた。パーカー等はゆうパックも使っていて、今年から特約契約もした。

試作についてもデザインが徐々に上手くなっていったのと信頼できるプリント屋をたくさんみつけたことでほとんど不要になっていき、色の出具合なども予見が付くようになってきたので、試しに販売前に作ってみることもあるがほぼそのまま商品化できるようになった。

2.ショップの移転

2020年の6月から新ショップに移転した。理由はユーザー目線の使い勝手が主だが、手数料が多少安くなった。その代わりに固定費がかかるので途中で休業したり売上が落ちたりすると、元いたショップの方が良かったことになる。退路を断った形である。

3.少しロットの多い商品にも挑戦

オープン当初は注文があったものを1個ずつ印刷してもらう商品しかなかったのだが、ある程度まとまった枚数の注文が要るシルクスクリーンのバッグやパーカーを始めたり、100個のマグカップを作ってみたりと、多少のリスクを取って製作コストを抑えることもしてみた。

利益が出はじめたお陰で、ほとんど儲けはでないけど作りたいから作る、という商品もたまに紛れ込ませている。またもしくじりのにおいのする話だが、作りたい物は作ってみたい。実のところ、置いてはあるが今までひとつも売れていない商品も普通にある。とにかく、商品の幅も広がって賑やかになってきた。

4.お金について

とはいえ大平は変わらず大平である。商売は上手くないし、ずむやの利益だけで暮らせるわけでもない。しかし、小さいながらも店をやってみることでお金についての疑問や発見も生まれた。

金儲けを卑しいことのように思う人もいるのに、ずむやは利益を出せるようになった結果、作れる物が増えて、利用してくれる人々もより楽しい気持ちになっている。5万円でできる商売と、50万円でできる商売では、提供できる価値の差は数だけではないことに身をもって気付いた。さらに世の中はもっと大きい商売だらけであることに、改めて驚く。これらはずむやの比にならないほど儲け、画期的な物を作り、我々をハッピーにしてくれている。

先程少し触れたが、ずむやオープン当時の世論は物を売ることにカラかったのである。SNSでは、どう考えても手間ひまがかかりそうな物の値段について「材料費は安いはず」と不満を言う人も散見した。ずむやもオープンの際に思わぬ批判が集まるかもと心配した理由だ。

現在はコロナによる世の中の変化があり、働き方について多くの人が考えるようになっていると思うが、2018年当時は働き方といえばなんとなく「誰かに雇われて労働力を提供すること」のように考える人が多かったのである。だがそういう仕事も、物を作って売る、サービスを作って売る、という大きいビジネスの中のひとつの部門を担っているのだということが広まりはじめている向きを感じる。ずむやのような小さい店にとっても、麻雀プロにとっても、追い風のように思う。

ずむやはもっと大きくしたいが、難航している。

■「楽しい」を提供し続けないと売れなくなる

1.慢性的なネタ切れ状態

「麻雀ライフをお洒落に面白く」はずむやのコンセプトだ。麻雀が好きな人がより麻雀を楽しむための物を作りたい。が、オープン直後から慢性的なネタ切れである。最初は牌が散りばめられたデザインと卓のデザインだけではじめたが、この頃から「後は点棒とか用語くらいしかネタがないよ」と思っていた。奇跡的に存続している。

2.常に話題を

ずむやをやっていて気付いたことのひとつに「常に話題を提供し続けないとパッタリと売れなくなる」というのがある。対局や他の仕事で忙しいと放置しがちになるが、そんな時に一瞬で忘れ去られ得るのである。

広告には主にTwitterを使っているが、見せ方や言葉の選び方も含めて「楽しい」を心掛けている。またYouTubeも使い始めたが、閑古鳥が鳴いている。動画作りの勉強のために、続けるつもりだが。

年に一度の「周年まつり」も、話題や楽しさの提供が狙いだ。記念の粗品を作るというだけのイベントだが、やってる方はまあまあ楽しいし、みんなも楽しんでくれているつもりである。1周年には4000円以上のお買い物で粗品タオル、2周年はお買い物した方全員にミニクリアファイルだった。今年も面白いものを製作中である。お楽しみに。

3.楽しめるデザイン

デザインそのものの良さも当然必要なことだろうが、ユーザーが楽しめるデザインという点で学んだのは「SNSに写真をupしたくなる」ことの必要性だ。いわゆる「映え」。SNSを楽しむのはもはや生活の一部である。つまり、胸にワンポイントや背中にデザインのあるTシャツより、必然的に前面にデザインのあるTシャツの方が売れやすい特徴がある。

販売経路がネットのみというのも理由である。サムネイルで魅力が伝わりやすい、というのは大事なことである。こういうのは巡り巡るので、そのうち素材の質とかが重要視されるようになったりするのかもしれない…。

4.ずむやユーザーがずむやを楽しくしてくれている

常にネタ切れのずむやだが、前述のようにSNSに写真をupしてくれることで、ユーザーがずむやを楽しくしてくれるという不測の事態に救われている。参加型コンテンツのようだ。ツモパーカーを着て集まって麻雀を打っている光景などが目に入ってくると、とても嬉しい。話題が話題を呼ぶこともありツモパーカーは人気で、とてもありがたく思っている。

よくよく考えれば、20年くらい前でも個人でネットショップを作る術はあったが(実はトライしてコケたことがある)伝える術は少なかったし、小ロットでの物づくりには限りが多かった。今はスマホひとつで参加できるし、市場自体が参加型コンテンツのようになりつつあるのかもしれない。

■趣味にするのは難しい理由

1.仕事としてやるべし

ここからはネットショップをやりたい方向けに、自分なりに助言できることを書きたい。

よく「趣味でやってるんですか」と聞かれることがあるが、大して儲からないとしても、仕事としてやることをおすすめしたい。

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