ファイナンスを知る(前編)

本屋に行けばファイナンスの本を買っていた

「サルでもわかる〜」みたいなファイナンスの入門書を沢山買ってきた。でも、社会人数年やって、そういう本を何冊も読んでも、「ファイナンス?任せろよ!オイ!」みたいな状態にあまりならなかった。ファイナンス、なんかよくわからんなってずっと思ってた。先祖はサルかもしれないが、きっと前世はサルではないのだと思う。

社会人8年くらい、4社目にもなって、「ファイナンス」においてどういうことがわかってれば事業に効くのか、やっと自分なりの答えが見えてきた気がする。色々な業種があったけど、「事業を成長させたい」という気持ちで取り組み、仕事と向き合う中でストリートファイト的に掴んできたものが多い。

いわゆるファイナンスの世界(金融)にはコワモテで、港区に住み、そしてNewspickでドヤるか匿名でtwitterに勤しむ人が多い(主観)。そうした人々とは、F1キーを外す点くらいしか共通項は持てそうにないし、そういうことじゃねえよとワンパン入れられそう(どうせならシャンパン入れてほしいですね)な気もするが、ストリートファイトならぬストリートファイナンスを備忘として書き記そうと思う。

なお、私自身は会計士でもなく、あくまで「事業を伸ばそうと願う人が、知ってると役立つかも?知らんけど」というテンションで書いています。

….

そもそもファイナンスとは

当然ながら事業に関連するのはこのCorporate Finance(コーポレートファイナンス)です。じゃ、コーポレートファイナンスってなんぞやってことですが、個人的には「ファイナンス思考」の朝倉さんが書いてる「企業の価値を最大化するために行う活動」というのがしっくりきます。企業価値の最大化のためには4つの活動が必要になると言います。

  1. 外部からの資金調達(集める)

  2. 資金の創出(増やす)←

  3. 資産の最適配分(振り分ける)

  4. ステークホルダーとのコミュニケーション(説明する)

事業の前線で走る人に関わる部分は主に2. 資金の創出(増やす)だと思います。事業を伸ばして、キャッシュを生むということと理解しています。なので、その視点で、個人的な経験を紐付けて書いてみたいと思います。

社会に出てコンサル —> 事業会社(うどん屋) —> PE —> スタートアップ(イマココ)、と移りました。トピックであるファイナンスについて、それぞれでの学びは TL; DR(スタートアップっぽいですね)こんな感じです。

  • モデルを組む (コンサル)

  • 1億円と10億円の違いを知る (うどん屋)

  • お金に執着することを諦めない (PE)

コンサル: モデルは絵空事。でも絵がないと議論は始まらない

DDを25件以上やる

コンサルではモデルを沢山作りました。4年弱で25件以上デューデリ(DD; 買収前の対象企業の精査)をやって、だいたいモデルを作ることになるので、エクセルとの親交(信仰?)を深めたのもこの頃でした。モデルというのは、例えばオーストラリアにおける業務用冷蔵庫の5年間の市場規模は?とか、インドで輸血用血液製剤につけるRFIDがどれくらい売れそうか?みたいなものをとにかく表計算シートで要素分解して、なにがしのロジックをつくって数字をはじき出すという営みです。

きちんと組まれているモデルというのは、美しい芸術品のように理路整然としています。そういうモデルに出会うとハアハアしてF2キーを連打してどんどん式を見に行ってしまいます。そして、モデルを組めるようになることの良さは、それが胡散臭いものであるということを知れるということです。

胡散臭さの正体

どういうことか。上記であげたような市場規模の算出であれ、売上の推定であれ、「うーん、多分50億くらいと思うで?」という主張には残念ながら数千万円を払ってくれません。なので、きちんとそれを分解して、それぞれの変数をデスクトップリサーチやインタビューを通してかけ合わせます。例えば薬の売上であれば、人口x罹患率x対象の重症度の割合x使ってくれる医師の割合x服薬率x薬価、といった具合に。この中で年齢別で更に分けたりもします。

これらの変数をきちんと調べて埋めていくときっと確からしい売上が算出される、といいのですが、実際にはモデルを作り始める前からざっくりした数字の幅感を持っていることが多いので、だいたい着地は見えていたりします。モデルを作るのは、未知の答えの探求というよりも、数字の裏付けを作りにいくという面があります。なので、先程の例の50億でいうと、実は50億くらいやろなと思って、変数をいじることも少なくはないです。

胡散臭く感じてきたでしょうか?そうです、胡散臭いのです。綺麗なロジックで組まれた数式に見えますが、実際は直感とか経験から導かれたものを数字で裏付ける絵空事であるとも言えます。アメリカ人の上司から「モデルはサイエンスよりアート」だと言われたこともあります。薬の例で言えば、患者数x薬価、みたいなものを色々要素分解しているわけですが、要素を分解すればするほど、結局それぞれの変数の確からしさに依存し分散するので、モデルは変な数字をはじき出す確率があがります。必ずしも要素分解すればするほど正確性が上がるわけではないのです。

インドの鬼電

私もモデル作成に少し慣れてきたくらいの頃は、出来上がりが綺麗なのですが自分の作ったものをもとに意思決定をされることにとても不安を感じていました。だってすべての変数の前提条件に自信があるわけでなく、そこを少しいじれば売上がかんたんに2倍にも半分にもなることを知っているから。人口のように正確性の高いデータばかりではなく、インドのRFIDのケースでは私がインドのクリニックに鬼電しまくって聞いた数字をもとに変数を入れ込んだりもしていました(インドのお医者さんは結構皆答えてくれるんだけど、いかんせん電波が悪い)。

モデルを組む効用

話が長くなりました。では、こう胡散臭くもあるモデルを組めることは事業を前にすすめる上でどう役に立つのでしょうか。

1つは、「確からしい」モデルが実はそうした微妙に頼りない変数に依存していることが身にしみてわかるようになることです。結構きれいなモデルを見せられると、そういうものかねえ、と納得してしまいそうになりますが、自身でそういう経験があると、適度に疑ってかかることができるようになるため、事業の実態の理解進みます。モデルは愛すべきヤツですが、何事も距離感が大事です。

2つ目は、アクション可能な単位に物事を分解できるようになることです。結局売上しかり、市場規模しかり、その算出すること自体で事業が伸びるわけではありません。しかし、分解して算出することにより、要素と影響度がより明確になります。絵から、事業を前にすすめるための議論がはじまるのです。なんとなく売上を上げる方法を考えるより、具体の議論・検討ができます。「この変数=レバーめちゃくちゃ重要だな..」とか「かなり楽観的に見てもこれくらいしかいけないぞ」といったことが見えてきます。

特に後者は結構重要だなと思っていて、スタートアップにいるとビッグなドリームにトゥゲザーしようぜ!ってなりがちですが(10Xはあまりそういう感じではないですが)、ぶっちゃけこのままいくと売上ビッグじゃなくないですかね?じゃあどうしますかね みたいな話が、より納得感を持って議論できるようになります(私はこれを「健全な絶望」と呼んでいます)。

もちろんPEとかで投資するような、売上が安定している渋い企業等に比べるとスタートアップは不確実性が高いです。モデルを組んでも、どこまで予見できるのか?というのはあります。それでも、たいていのことは要素分解して一定の数字に落とすことができると信じています。SaaS企業は特に数字に分解しやすいと思いますが、それ以外でも、今まで存在しない全く新しい収益モデルばかりではないので、不確実性が高いからといってそれを予見することをやめるのは怠慢だと思います。異論があればタイマンしましょう。

まずは売上=客数x客単価でよい

モデル、というと複雑なイメージが伴います。私も1,000行くらいのモデルを作ったり見たことがあります。DDやる人はそれで良いですが、事業の現場にいるたいていの人にとっては不要です。

まずは、売上=客数x客単価の分解(3行)からでいいと思います。売上を毎年5%ずつ伸ばす、という想定よりももう少し踏み込んで、客数を2%/客単価を3%伸ばす想定にする。あるいは、客単価は簡単には増えないから客単価は固定で客数が5%ずつ増える想定にする。前者を実現する施策と、後者を実現する方法は変わってくるはずです。これが2点目で書いた「アクション可能な単位に物事を分解できるようになる」ことに繋がります。

逆に、タブも行数も多いし、要素もたくさん分解されてるし、色も統一された綺麗なモデルなのだけど、実際これどうやって売上伸ばす/コスト削りますかね、という議論を始めるとイマイチ議論が進まないこともあります。本格的にモデルを作り出すと結構手数がかかるので、全体像が見えなくなることもありますが、結局はツール。それを使って議論・事業をどう前に進めるかを見失わないことが重要です。1,000行のエクセルモデルより手書きの10行の要素分解が事業を前に進めることは十分にあります。まずは3行でいいから、まずは自分で作ってみることで見えるものがあります。

1点目から長くなってしまいました。うどん屋とPEの話は後編に回したいと思います。

追伸

モデル、というとハードルが高い感じがします。実際銀行とかコンサルが出してくるモデルは行がやたらと多いし、タブも多いし、DO NOT TOUCHって赤字で書いてあったりするし、コワモテです。

でも、モデルは日常生活にも役立つし、もっとポップに使えるものです。ポイントは要素を分解して判断をしやすくするということなので、行きつけの珈琲屋で何を頼めばいいかもわかるし、値上げするクレジットカードを継続すべきか?という判断もできます。なので、もっとポップにモデルを作るといいんじゃないかなと思います。

ちなみに、私はモデルを組みクレジットカードを継続すべきでないという叡智を導き出しましたが、更新月を間違え普通に値上げされた会員費(5万)を払っていました。事業も日常も、やはり実行を伴わなければ、キャッシュが減ってしまうという好例ですね。

つづき↓


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