会社員10年の後、フリーランス3ヶ月をやってみた所感
はじめに
2023年の11月に東京からカナダのバンクーバーに移りました。一つ副業はあったものの、仕事が決まってない中でポップに移住したので、実質フリーランスになりました。これまで約10年会社員をやってきて、今回に至るまで一度も副業もしたことなかったので、3ヶ月ほどフリーランスをやってみての所感を備忘として書きます。たった3ヶ月なので、いち感想記です。想定読者は、副業の経験が一度もない1年前の会社員の自分です。
0/ 前提
30代前半、会社員10年(4社)
経験職種: 経営企画、コーポレートファイナンス、コンサル
それまで副業経験なし(切り売りできるスキルないなと思っていた)
その後の予定は流動的。フリーランスとして生きていくと振り切ってはなかった
3ヶ月フリーランスの後、現地のバンクーバーでフルタイムの就職が決まった ←イマココ
1/ やったこと
継続的なもの: 3社(15-30% x 2社 + 30-50% x 1社)
すべてスタートアップ (サイズは数名 〜 数十名)
内容はデータ分析とスタートアップでのオペレーション構築
どれも資本は日系だが2/3社は海外とのやり取りがメイン(ヨーロッパ・アフリカ)
単発: 3案件
通訳・翻訳 x 2
EC関連 x 1
2/ 所感
2-a/ 「案件をとる・継続する」という活動は大変
「とりあえず生き抜く」だけをテーマに、カナダにきて何をするのか、当初ノープランで来ました。現地就職目指すかもしれないし、最低限のキャッシュを稼いで何もしないかもしれないかもしれないし、フリーランスとしてきちんと生計を立てていくかもしれない。はたまた、好きなビール(北米のIPA)を発掘して日本に輸出するのもいいのでは?などと言っていたこともあります。
そのため、フリーランスとして生きると覚悟を決めたわけでもないですが、異国の地で生きていくためには色々複数の選択肢を検討しながら動く必要があり、短期的にでもフリーランスとして生計を立てていくにはどうすればいいかを考えました。最初から1つ案件はあったのですが、それだけではバンクーバーの生活費用(日本の1.2-1.5倍)をカバーすることは難しい。その1つ案件の稼働を増やすという選択肢はそんなに現実的でなかったので、他を探すことにしました。
本業があっての副業であれば、そもそもしなくても生活が成り立つ(はず)なので基本受け身でよいと思いますが、フリーランスとして生計を立てようとなると、引っ張りだこでない限り案件を取らなくてはいけません。案件をとりにいくという経験はないので、フリーランスを既にやっている友人に相談したり、営業というほどではないが、過去に関わりがあった方へそれとなく「空いてますよ〜」とアピールするなどしました。
結果的には、私が受けた仕事はそのアピールから決まったことはなく、「なんか暇そう」と匂いを嗅ぎつけてくれた友人からの紹介ですべて決まりました。就職活動もそうかもしれないですが、タイミングがとても重要だと思います。以前に「こういうこと手伝ってくれないか」と声をかけてくれた案件が1年後もそのままである可能性はとても低いし、中の人と仲が良いからという理由よりも(当然)事業ニーズがある方が案件にはたどり着きやすいと思います。
私は仲介サイト等を介さず結果的に友人の紹介で決まったので、いわゆる営業の大変さをフルに体感してないのですが、そもそも案件をとるステップとして
自分のスキルや経験を棚卸しして、これができますと説明できる状態にしておく
営業する(含む 仲介サイトでの応募)
受ける案件のスコープを決める(何やるか、アウトプットが何なのか)
受ける時間軸や稼働時間の期待値をすり合わせる
が必要です。
友人知人の紹介で(2)の営業がカットできたとしても、他にもステップがあります。そして友人知人の紹介だからこそ、スコープが曖昧で始めてから色々苦労するということも起こりえるかなと思います。また(4)期待値は自分の全体の稼働管理も鑑みて調整する必要があるので、タイミングよく依頼がきたとしても、それが自分のタイミングとあうかはまた別問題です。複数の案件を抱える場合、足元の業務もこなつつ、更に新規のことに頭を使い、タイミングも考え、自分の興味関心に合うことを・・というのはなかなかに至難の業だなァと思いました。
加えて、一度「案件をとる」ことと「継続する」というのは別。私の場合は友人の紹介だったのである日突然切られるということは考えにくいですが、殆どがスタートアップだったということもあり急に翌月からは継続が難しいということは十分にありうるなと思います。これらは◯ヶ月や1年契約といったことでリスクヘッジはできますがが、自分自身も縛られることになるので、複数の選択肢を並行して検討していた自分には合いませんでした。また、仮に友人知人の紹介であったとしても、やってみたら想定していたスキルや経験、そして事業ニーズがあわなかったということはありうるので、そういう意味でも継続しない可能性も頭の片隅に想定しておく必要があったなと思います(別に毎日考えているというわけではないが)。
なお「継続する」に関しては、自分への委託を継続する判断をする人、またはその近い人と定期的に(毎週でなくとも少なくとも月に1回)ミーティングの機会を持ち期待値を調整する機会を持つと良いなと思いました。忙しい人である可能性が高いので、始める際に定期開催でカレンダーにいれるのも良いと思います。
総じて、「案件をとる」「継続する」そして「実際に案件を実行する」というのを3体でなく1つの体で並行していやっていくというのは、時間の制約よりも頭の使い方の切り替えという意味で結構負荷があるなァと思いました。コンサル会社だと一番給与が高いのは案件をとってくるパートナーという職位の方ですが、若手が夜を徹するなか良いもん食っていいなァと思っていましたが、なるほどこういう大変さかと(10%くらい)わかった気がしました。会社員は守られてるというような言い方をすることもありますが、コンスタントに案件を取るとかスコープ、期待値調整といったことを日々考える頻度は少ないので、そういう意味でも負荷をカットできていたんだなと感じました。
3体、おもろいよね。
2-b/ 自由.. ですが何か?
そう、自由なのです。自由を標榜する民の私にはとても眩しい響きでした。日々の自分の時間の使い方を自由に決めることができる。特にバンクーバーは日本と16-17時間の時差があるので、午前の時間は日本の深夜、ヨーロッパの夜のため聖なる時間(と私は呼んでいた)であり、会議もなければスココココ(Slack)もない。朝起きて散歩するも自由だし、近くのカフェで優雅に朝餉をしばいてもよい。よく11時とか12時にジムに行ったりもしていました。私はあまり会議がなかった(週に3-4件くらい)だったので、夕方〜夜の時間もあまり時差に縛られることもありません。バンクーバーは自然が近いのが利点なので、平日15時からスキーに行ったこともありました。妻が学校に通ってるので、午後に授業がない日は買い物に行ったりということも。
これらの時間的な自由さを普通にエンジョイはしていていましたが、ここ数年間はコロナ下でリモート主体ということもあり、会社員時代も1日の使い方も隙間がありました(サクッと買い物行ったりとか)。そのため、突然の自由の余白にそこまで「ウヒョー!」とはならなかったように思います。むしろ、時差や複数の仕事をしていたからというのもあり、18時なり19時なりに今日も終わり!ときっちり割り切れず、むしろアフター6の会社員の友人の方がよっぽど自由に見えたものです。
はじめの一ヶ月目こそ、時差ボケを口実に日々ビール(IPA)飲んで日中もプレミアリーグを(ハイライトでなく90分)見る生活をしていましたが、なんだかそれも落ち着かず、結局だいたい10-18時くらいは働く生活をしていた気がします。このモヤ感については、最近読んだ仕事選びのアートとサイエンスという本の記載がとても腹落ちしました。急に空白になった時間の使い方への慣れもありますが、アイデンティティの考え方(それも慣れなのかもしれないが)な気もする。長めですが引用します。
特に異国で暮らしはじめたというタイミングもあり、”What do you do here?”という、ごくごくフレンドリーな問いに対して色々考えず答えたかったという気持ちもあるのかもしれません。上記のような「ネガティブ」、というのは大げさでも、自由という空白を得てみて感じるものは色々あるんやなと思いました(尻すぼみ感)。
2-c/ 金額設定の妙
業務委託をし始めるというときに迷うのが金額。だいたいは時給〇〇円や月〇〇%で〇〇万円、といった形で握ることが一般的だと思います。単価をどうするかという話。基本的にはスキルが高ければ高いほどあがるだろうし、需要が高い職種(エンジニアなど)も単価はあがるはず。ただ、私の少ない経験から言うと、「金はあるところにある」とも思います。
スキルや経験もありますが、個人の業務委託というところでは結局のところはお金を払う側の懐とルールの方が大きい変数だと思います。赤字の会社よりは黒字の会社の方が懐が広い可能性は高いですが、一定のサイズの企業だとルールがガチガチに固まっていて上限があるかもしれません。スタートアップの方がお財布事情は厳しい可能性は高いですが、調達したばかりや急成長中で瞬間風速の単価は高くなるかもしれません。お金に色はないが、それがどこから来るのか(黒字の利益、VCマネー、社長の懐、補助金 等々..)によっても引き出しやすさは十分に変わると思います。業務委託に慣れたフリーランスの友人は「黒字の中小企業は単価が上がりやすい」とも言ってました(私はあまり経験がないのでわからない)。
個人としては、単価は高いほどよいでしょう。ただ、大きな変数である発注元の懐事情に加えて、自分自身がその業務をどう位置づけているかにもよると思います。私の場合、単発の仕事も含めると案件によってときには3倍近く差がありましたが、それらは上記の懐事情に加えて、自分が何を求めているか(生活の基盤として必要、興味がある分野やテーマがありぜひ経験したい等)により折り合いをつけていました。自分の想定より低くモチベーションに関わりあまり価値を出せないことに繋がりうるなら受けない方がいいだろうし、逆に高い額を提示されても、自分が気を遣うくらいなら最初◯ヶ月は想定より稼働しますよといった調整もあるでしょう。
お金の話というの知人友人であるほど話しづらかったりするものですが、なるべく最初の段階でお互いの状況を尋ねるのが良いと思います。そして、そのためにも相場感をみつつ自分の現状と目標の単価感のレンジを常に持っておく(そして上げていくことを目指す)のが良いと思います。
3/ 良かったこと
ここ3ヶ月は、この先1年(やその先も)フリーランスとしてやっていくのか、はたまた全然違うことを自分でやってみるのか、就職するのか、毎週状況が変わるような状態でした。運良く現地就職が決まり、フリーランス生活は3ヶ月で終わりを迎えることになりました。3ヶ月を振り返り、得たものがあるとすれば「反脆弱性」、もとい「生存能力アップ」なのかなと思います。
3-a/ 毎月の振込額が定額じゃないことに慣れる
10年くらい家計簿をつけている(マメというより、放っておくと無制限に使いうるので)が、そこには毎月定額が振り込まれるという見えない前提があったように思います。毎月の振込額が結構上下するというのは自分にとっては新鮮な経験でした。特に最初は普通に節制のある生活をしてもマイナスだったので、毎月キャッシュを燃やして不安だったのですが、それも慣れればそういうものかという気がしてくる。正直北米はレイオフ等もよくきく話なので、今後数ヶ月 or もっと長い期間無収入という期間がきても、まあなんとかやってけるんじゃないかという気持ちは前より高まった気がします。
なお精神安定上、自分の月次のキャッシュフロー計画は(Excelまたはスプレッドシートで)持っておくのがよいです。減ってるけど予定通り、と思えます。
3-b/ 自分の稼働管理ができるようになった
私は元来楽観的な人間なので、だいたいのことは本気を出したら今週・いや今日やれるんじゃないかと思って生きています。そう思って一人でハードワークするのは勝手にやればいいと思いますが、楽観的な見積もりで迷惑をかけうるリスクがあります。複数の仕事を受けるということになると、◯%の稼働目安という議論は不可避なのですが、当初「10%と25%と35%って何が違うねん。。。」と困っていました。
見積もろうにも経験がないのでよくわからないのですが、少なくとも結果ベースで自分の稼働をトラッキングする仕組みを持つようにしました。業務ごと、そして「運動」「執筆」といった自分の活動prefixを決めて(5個くらいが限界)、Googleカレンダーにて記録、GASでスプレッドシートに吐き出して、1日の終わりにDiscordに飛ばすというのを回していました。それによって、今日/今週は働いたな、というのが実際はどうだったのかを数値で見れるようになったので、肌感に頼らず客観的に把握できるようになりました(例 たくさん働いてる気がするのに終わらない気がするのはなぜだ。。と思ってたら週3回もサッカー+ジム行っててやたら運動に時間使ってたから、など)。
少し経験をした今も、何か新しい案件をやる際に精緻な見積もりができるかは怪しいですが、なんとなく今の自分はどれくらい余白があるとか、逆に余裕がないのか、これくらいはできそうだという肌感は前よりついたと思います。以前は10-20%で何ができるんやと思っていましたが、その中でもできることはあるし、逆にフルタイムで働きはじめた後も、意識的に時間を割いてなにかに取り組むという挙動ができるのではという気がしています。
3-c/ 案件を受ける基準が見えてきた
正直この3ヶ月の中でも「失敗してしまったな・・」と思ったものもあります。主に期待値調整が原因で、改めてはじめのスコープを決めることが大事ということを強く感じました。スコープが定まりきってない場合は、時給ベースではじめてから月額固定に移行するという方法もあるでしょう。以下は案件を受ける際に考えておいた方がいいなと思った点です。
自分にとってのその案件の意味合い: その分野に次飛び込むことの検証でもいいし、シンプルに生活費を稼ぐためでもよい。複数の案件をやっていると時期的に集中することは確実に起こるので、そのときに気持が辛くならないように最初に意味合いをはっきりさせておくのがよい
スコープの曖昧さと稼働率のバランス: まだ課題が見えきってないが手伝い始める際には、その課題の明確化に工数がかかるので、稼働を一定確保しないと難しいことを認識する。課題とやることがはっきりしていれば20%でも力になれると思うが、入ってみて課題を探索する必要がある際には30%以上はないと難しいかもしれない
一緒に働く人の稼働状況: 一緒に働く人がフルタイムなのかも重要なポイント。関わる人がみな20-30%程度の副業メンバーばかりだと、コミュニケーションコストが増大する。初期のスタートアップでは仕方ないということもあるのでそれが悪いということではなく、実際思っていた実際の物事に取り組むよりもコミュニケーションにコストがかかりうることを認識しておく
色々やってみて、自分は下記のようなものだとパフォーマンスが出やすいなと思いました
データが整ってない状況でのダッシュボード作成とKPI抽出: 何もないときに、ツール(スプレッドシート/Tableau/メール通知等)ありきでなく、まずは最速で示唆を出す
ビジネス知識が求められる通訳 / 翻訳: M&Aの交渉の仲介、海外 >> 日本への提案書翻訳と通訳など
情報流通の設計と改善: 事業のサイズに応じた社内コミュニケーションの経路の設計。基本は以前Notion、会議について書いたことの延長。日本語/英語が混ざる環境だと尚更価値が出やすい
スプレッドシート/Excel全般: どんと来い
3-d/ 税金について少し詳しくなる
税金というのは面白いもので、すべてにおいて完全に白黒のルールが決まっているわけではないので、その曖昧さや慣例というものを学ぶこと、その判断(含む 税理士との相談)の積み重ねによってキャッシュの一部が自分のもとにわたるのか政府のもとにわたる(=税金)のかが動くというのは、会社員のときにはなかった新鮮な観点でした。
3-e/ 稼げるなら外貨はいい
今の円安もあるが、とくに米国の企業・組織は懐が大きいので、アクセスできるならgood
おわりに
自分には副業や業務委託という形にはそぐわない、とずっと思っていました。
コンサルはフリーコンサルというのもよく聞くものの、その後の事業会社やスタートアップのキャリアでは、自分は中に入って、中の人と話してナンボという価値の出し方をしていたと思ってたからです。そのため切り売りできるスキルはほぼないと思っていたし、加えてあまり◯%で区切るより0%か100%か、という働き方の方が好きです。これから働く会社でも100%頑張ろうと思っています。
フリーランスをやってみた今でもその思想(0か100か)はあまり変わらない気がします。ただそこに至るまでの選択肢として、こういう働き方もあるなというのを体感できたのは、自分の幅が広がったようで良かったです。ちなみに自由な時間でやたらと運動したので自分の体の横幅は狭まりました(どうでもいい)
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