022



忘れるようなものならと
想像するのも  言葉にするのも
偽りはない  意図だってない
強いていえば  身軽でいたいだけだ

そのくせ今日も抗っているのは
明らかに確かに逆らっているのは
基盤の思想を悠々と飛び越える程度には
そうであった  という  だけのことだよ  君は



傷を貰っていたいんだ  もっと  ずっと
いろんな色の  いろんな形の  味の  匂いの
いろんなものにつけられて  常にいっぱいでいたい
要らないほどに与えられて  常に溢れ返っていたい


ひとりでいたいは無意識に癖付いた虚勢でとどのつまりは嘘になっていた  ああ  素直過ぎたなあ
隠すとか  騙すとか  そんなつもりはないけれど
捻って  試して  篩に  その思惑は否定できないや
ひとりでいさせてもらいたいんだよな  そうだよ


生活の端々で思い出す  君の話す君以外の話
最近のこと、小説、映画、生物、遊具、

街を歩く  液晶に向かう
擦れ違う情報が着ているパーカーの袖に掛かる
ほつれる  でてくる  糸  呼び鈴代わりの青銅の風鈴
気圧に応じる古傷のように  思い出される声と笑窪
痛ければ痛いだけ良い  深刻であればあるだけ良い


憶えているとしあわせに抱かれたそのときと同じ丈夫さで  きっと  忘れたくても憶えているんだな
忘れたいと思ってしまえば  忘れたいと思ったことを憶える  憶え直す  瘡蓋は剥がせば剥がすほど濃い痕になるように  染み着いて消えづらなっていく
それでいい  それでいいよ



永遠が無いだなんていわない
君が有るといえば僕も乗るさ
それとは全く別の話だ


今よりももっと弱かった頃の現実主義が失せないせいで  剰すほどの備えがほしくなる  無くてもいいようにしておきたくなる
運命に委せきれないくらいには  僕だって君を好いていた  ごめんね  愛なんかじゃない  そんなに綺麗なものじゃない  かんしょうなんかさせない


隅から隅まで埋め尽くすよう  目一杯汚してほしい
内側にだって焼き付けて  治りきる前に描き足して
君と生きた形を  君に生かされた証を  一ミリでも多く遺していってほしい  片手間で充分だからさ
憶えきれないほどに詰め込んで  押し出して  打ち負かして  市販薬で濁った水を劇薬で澄ませて
出逢いを果たして  運命を恨んで  偶然を嘆いて
どうか



共通の仕草を知って  単純に安直にうれしかった
真逆の動機を知って  深刻に殊更にうれしかった
知らない棘を差されては悟る敵わないが酷く心地好いこと  らしくない灯り  それにしか灯されられなかった花火  不自然なまでに絶え難い柳


二度同じものはつくれないと出来の良い数個を残して  少しずつ消した  不器用で些末な反抗心たち
以来代わって生まれるのはいつも
千切れそうでも精一杯の眼差し  尽きようとも乾くまいと絞り出し続く雫  絞られる出口を気に留めず軽快に開ける抜け道  こっそり溢す光のため

経験に伴って溢れなくなる液体を暗喩に思って苦しくなったり  それならこんなのを受け入れて喜べる日もそう遠くはないかもしれなかったり
皮肉だって裏から見れば透き通る角度も見付けられるらしい  捻くれ過ぎて真っ直ぐになりそう  裏切りなら若くないから任せて  硬い柔軟性を育んで


二年越しのリベンジが当然のように叶ったこと
重ねて励まされようとするなら  憶えておいたって悪くはないよな
幼少振りに悔しくて泣いたこと  過去に無く塩味の無い涙だったこと  そんなのがひそかに嬉しくて  誇示するように嗚咽したこと
あまりにも優しく愛しい記憶  過去になるほどの時をそう思うように生きた僕  やったじゃん



シャワーの前で洗顔料を泡立てていた時
円を描くように動く右手の甲で輝く銀色  その軌道に飛び乗る勢いで弾んだ心につられて飛び出た「ああ綺麗ねえ見てー」は 当然 誰にも 届かずに

独り言が多いことは自覚していたけれど  まさか  他人を想定した口調がここまで染み着いているとは  なんて  柔らかく寂しい反省と

綺麗だと感じるものを捉えて  共有したいと口から出るまで  その間にあったのは心の弾みのみで  伝わり方や映り方を気にしない言葉を口からも流せていたな  なんて   淡く光った希望と



浅すぎの失敗をした  らしさ  成就  心穏やか
代わりに成功したのは行動と直観だったらしい
ほんの少しの不便を気にして慎ましく宿る十ミリの印  四ミリの心強さ  延ばした余命は幾何か


ミサンガの磨耗を促すように
時計の故障を唆すように
微かな寂しさを遺して除かれていく瞬間を
明日も  明後日も  そう  きっと  どこまでも

その短い指で  手繰り寄せていような






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