福島県立医科大学による、甲状腺がん検診のメリットに関するミスリード


福島県立医科大学の見解

県民公開講座の動画

このYouTube動画は、

福島県立医科大学 医学部 甲状腺内分泌学講座 主任教授
放射線医学県民健康管理センター 甲状腺検査推進室 室長

動画の概要より

上記の肩書きを持つ古屋文彦氏による県民公開講座で、福島県で現在おこなわれている甲状腺がん検診についての説明がなされているものです。

この動画の中で古屋氏は、甲状腺がん検診のメリットについて、

  1. 安心

  2. 早期診断と早期治療

  3. 甲状腺検査の解析

を挙げています。しかるにこの説明は、甲状腺がん検診の実際について大きくミスリードするものです。

早期診断と早期治療

まず2番目からです。これには理由があります。

がん検診の主要な目的は、がんに罹っている人を無症状の内に発見して処置をおこない、
症状が出てから見つけた場合に比べて
経過がよくなるようにする事です。これは、死亡までの期間を延ばしたり、がん告知以後の身体的や心理的の負担を抑えるものです。したがって、
症状が出てから見つけても変わらない
のであれば、検診が効果を発揮したと評価されません。にもかかわらず、甲状腺がん検診にそのような効果は全く確認されていません。
成人においては、そういう効果がほぼ無いであろう間接的な証拠がありますが、小児については証拠自体が乏しいです

もし、無症状で見つけて処置をしても生存期間が延びるなどしないのであれば、負担は大きくなる可能性もあります。なぜなら、
発見した時点から、症状が出るまでの時点
の期間の分、病気と認識される期間が延びるからです。心理的身体的経済的等の負担も増します。

実際にどのようであるかは確かめてみないと解りませんが、甲状腺がん検診について、集団に属する人びとの性質の大体の条件を揃え、検診実施の有無を違えて比較する事は著しく困難であり、現状で直接的の証拠はありません(将来も望めません)。

古屋氏は、無症状で見つければ、甲状腺の機能を残して手術が出来、合併症や副作用が抑えられると主張していますが、上述のように、検診によってそのような効果が得られるとの証拠はありません。

  • 機能を残せる

  • 合併症(併発症)を抑えられる

これらは、
無症状で処置しなければ、より予後が悪かった
との勝手な想定をしているに過ぎません。処置が遅れれば予後が悪かったとすれば、処置した事で予後が良くなったのだ、としているだけです。実際に比較はしていないのです。

要するに、古屋氏の主張は、
既に認められている効果
では無く、
検診の実施により発揮される事が期待される効果
です。
これを区別せずに、前者であるように主張しているのがミスリードです。

ここで、期待されるなる表現に確率的意味は込めていません。
あったら良いな
というような意味合いです。

安心

メリットの最初に古屋氏は、安心が得られる事をメリットとして挙げています。つまり、甲状腺がんに罹っていない人が検査で陰性になれば、罹っていないのだと認識して安心に繋がるというわけです。

ですが、福島における甲状腺がん検診は継続的におこなわれます。今回が陰性でも、次回の検診があります。そもそも、見守りの名目で継続的に検診がおこなわれるという社会状況そのものが、不安を与える構造になっています。いつか罹るかもとの含みを感じさせるからです。
放射線曝露による発生率上昇が無いと主張しつつ検診も継続するのは、整合的ではありません。ここは3番目のメリットの無理やりの主張にも繋がっています。

がん検診において安心とは、あくまで副次的な効果とみなされるべきものです。
がん検診の主要な目的は、先述のように、生存期間や、心理的身体的の負担を減らす(負担の上昇を抑える)ものです。それがあるからこそ、検診の実施が推奨され得ます。それが無ければ、病気と認識される期間が延び、却って負担が増える可能性があるのも、先述の通りです。

つまり、検診によって、検診しない場合に比べ経過が良くなる効果が認められていないのに、
不安をいだく人に陰性判定をして安心を与える
事をメリットとして掲げるべきではありません。にもかかわらず、安心が得られるのを1番目のメリットで挙げ、本来その副次的効果の前提となる主目的のほうを、古屋氏は2番目のメリットとして挙げています。更に、2番目のメリットはそもそも認められてすらいないのです。
私が2番目を先に採り上げたのは、そちらの効果発揮が主たる目的であるのに、動画ではそれが後回しにされていたからです。

もっと言えば、検診には、
病気が無いのに陽性判定される(誤陽性)
場合もあります。当然これは、大きな心理的負担に繋がります。

甲状腺検査の解析

このようなものを、検診を受けるメリットとして掲げるべきではありません。
古屋氏は、

甲状腺検査の解析により
放射線影響の有無に関する情報を
ご本人や家族はもとより県内外の皆様にお伝えできることがあります

動画の字幕より

と主張していますが、放射線曝露による甲状腺がん罹患の程度が異なるかどうかに関する情報の共有は、
学術的な知識への興味・関心
に繋がるものであって、あくまで調査研究の意義として掲げるものです。がん検診のメリットとして強調すべきものではありません。

先に私は、

放射線曝露による発生率上昇が無いと主張しつつ検診も継続するのは、整合的ではありません。

と書きました。
放射線による甲状腺がんの流行(発生率が平時より大きくなる現象)が無いのに検診を勧めるには、

  • 実は検診に効果がある

これを主張しなければ正当化されません。そこを古屋氏は、いや、福島県立医科大学は、

  • 実は検診に効果がある←2番目のメリットの主張

このように正当化しようと試みているわけです。ところが、これまで説明してきたように、

  • 実は検診に効果がある←検診の効果を支持する証拠は無い

実態はこのようです。更に、3番目のメリットの主張として、

  • 学術的な知見の蓄積とその共有

これを掲げています。ですがこれは、
検診の効果以外のものを、検診の効果であるかのように誤認させる
ようになっています。実際に住民の甲状腺を検査してその人自身にどういったメリットがあるか、という、受ける人の健康の観点から、
甲状腺がん検診を含めた調査総体の意義
という、より社会的な観点とすり替えて、検診のメリットとしているわけです。

検診を進めるために福島県立医科大学がすべき事

シンプルです。

甲状腺がん検診が効果を発揮する証拠を提示する

事です。これは、最小限なされるべきものであって、それがあれば検診しても良いとはなりませんが、まずそこからやらないと、検診の推進を主張しようがありません。

参考資料


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