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意気地無し

「死にたい」はデフォルトで、特に重きもない。理由はそれぞれあり、無いけど思ってしまう時だってある。例えば、むしゃくしゃしてしまった時、人を傷つけてしまった時、怒られた時、大事な書類を忘れてしまった時、珈琲を零してしまった時、電車を乗遅れてまった時。…心底、見惚れてしまうお月様に出会った時。俺が死にたいと思う理由は大体最後の理由に似ている。健気に咲いていたたんぽぽが憎く、貴方の様で、ヒラヒラと風に花弁を揺らされて、心が不覚に播らいでしまった。君に出会ってからか、好奇心旺盛になり、「死にたい。」から安易に「もう少し、生きてもいいかな。」に安易に変わり、何故か悔しくてこんなにも単純なじぶんが醜く、吐き気がして堪らなかった。
月光が自室まで降り注ぎ、それはまるで吊り下ろされた処刑台かの様な。まだまだ生きたくて、布団の中で小さく縮こまった。真ん丸な月を見ると余計に死にたくなる気がして、ギュッと目を腹った。そういえば、今夜は彼奴が帰らない日だっけ。そんなことをふと思い出せば、支配された心はすっと軽くなり今なら終わりを迎えれるのでは?と見ないようにしていた月を眼球に移す。
『死んでしまおうか。』
窓を開けて夜風が身を包む。上半身を窓の外へ乗り出した時、『プルルル』と君からの着信だけに設定した着信音が鳴る。無視をしてそのまま身を投げればいいのに、と心の隅では生きたいと思っているのかスマホを手に取り、画面をタップした。
「………、あ、樹?」
耳の奥をつく俺の大好きな声。
『…どうした?』
不安そうに俺の名前を呼ぶから安心させるようになるべく優しい声で応える。
「…大丈夫?」
俺の異変を気づくのが得意な君。
『ちょっと、死にたくなっただけだよ。』
君の声は俺の精神安定剤だ。真っ赤な血液の色をした生き生きとする君、薔薇。その周りを取り巻く黒い百合。
『…俺が死んだら、おまえは困る?』
自嘲気味に笑う俺に優しく、包み込むような声を出す薔薇。
「困るけど、その際は俺も死ぬよ。」
自分を落ち着かせるようにタバコを手に取り、ベランダに出る。もう深夜で、周りは静けさを纏い、ライターの炎が怖いくらい大きく、濃く感じた。
『俺、死にたいなあ。』
吸い込んた煙を吐き出しながら呼吸と共に漏らす何時もの台詞。弱音。そして君が言う言葉もいつもの台詞。「俺と一緒に逝きようよ、ね?樹。」
〝死のうか。〟は本当に死にたくなった時のために置いておく台詞。

愛してるよ。

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