地雨

「どこにもいかないでね」

ずっといっしょにいてあげる

「わたしのことわすれないでね」

毎晩君のことおもいだす


窓の外で雨がまばらに降っている
君は雨の音がすきっていってたっけ
ぼくはどうしても憂鬱になって仕方なかったな

雨の日のラジオは電波も悪いしね
月が揺れているように見えるんだ
雨のせいかな、雨のせいだよ

「ひとりにしないで」

きみのこと抱きしめてはなさない

「かなしいきもちをけして」

とびきり楽しい話をしてあげる


雨のせいでラジオが聞こえない
君の声も少し引きずって聞こえるよ
いまなんていったの、ってきいたらどこかにいってしまいそうで
ひとりにしないでっていったのは君のほう
ぼくのほうがひとりぼっちだ
雨のせいかな、雨のせいだよ

「ねえ、一緒に何処かへ行かない?」

「いいね、どこにいこうか」

「うんととおく、だれもいないところまで!」

「どこまでいってもひとはいるよ」

「それじゃやなの、二人きりになりたいの」

「いまここに二人きりだけど?」

「だから!」

「わかったよ、どこにいく?」

「日本中を旅したいな森の中とか、空の上とか」

「かなしいきもちなんてわすれちゃうくらい、うんとたのしいところ!」

「ぼくは学校があるから長くはいれないよ」

「ふたりじゃなきゃいみがないのに!」

「きみがさきにいってよ、あとからおいつくから」

「それじゃだめ、いきもかえりもふたりなの」

「どうしようか」

「いったりきたりしようよ、そしたらずっといっしょだよ」

「いいね」

「ずっとふたりきりがいいね、しあわせになろうね」

涙を拭っても前がぼやけている
ぼくはひとりぼっちだ
雨のせいかな、雨のせいだよ


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