遠い昔の感情が佇むのは

きょうこそは立ち上がろう
きょうこそは外に出よう
きょうこそはあの人に挨拶をしよう

腕に刻まれた線の数だけ、そうやって固く決意をした。
じんわりと痛みが降りかかってきては、わたしのことを責める。
いたい、いたいよ。
いたいのはどこなのか、それはわたしにはわからなかった。

きょうこそは
あしたこそは
あさってこそは

そうやって何回も何回も決意を繰り返す。
がんばれ、がんばれ、がんばれ。
無闇に自分をふるいたたせては、魔法の言葉を頭に浮かべる。
がんばれ、がんばれ、がんばれ。

なのになんで、
きょうもわたしは

立ち上がれないんだろう
外に出れないんだろう
あの人に挨拶をできないんだろう

なんでわたし、全部隠してへらへら笑っているの

なんで、どうして。
そうやってこころに刃物をつきつけては自分を責めるんだ。

ぜんぶ、自分のことなんだ。
勝ち負けなんかない、ぜんぶ、自分のことだから、誰かと比べることなんてしなくていいよ。
たたかいなんかじゃないよ、これは。

ふと気づくと、ぼんやりとしたひかりが目の奥でゆらゆらと揺れている。
ゆらゆら、ゆらゆら。
そのひかりは近くに来ようとも、遠くに行こうともしていなかった。
手を伸ばす。
ひかりに向かって、手を伸ばす。
でも届くことはない。
どこにいるかもわからない。
なにがしたいかもわからない。

ゆっくりと、目を開ける。
そこには、ひかりなんてなかった。
真っ暗な闇の中みたいに、閉ざされた空間だけがそこにあった。
むくりと起き上がる。
重力がいつもの10倍くらいに感じて、いやになった。
体が重い。
気分が上がらない。
眠気が止まらない。

わたしはもういちど、ベッドの上に体を投げ出した。
ぼすん、という音とともにベッドが軋んだ。
なにも見えない、なにも感じない。
近くにあるはずの壁も、見えない。
褪せた花束は、どこにあるんだっけ。

「お、は、よう」

声が出た。
まだ声なんて出せたんだ、わたし。

空を裂くように手を大きく振った。
何か引っかかるものをかんじて、くっと引っ張るとぱちりと音がして電気がついた。
くら、くら。
眩しい。
眩しすぎて、しばらく前が見えなかった。

近くの壁に、褪せた色の花束が無数に棲みついていた。

なにも聞こえない。
なにも見たくない。
なにも、かんじたくない。

そんな中ふと目に入った、あか。
あか、赤、紅。
床にぽたり、ぽたりと落ちたあかは、どうしようもなく綺麗で、目が眩んだ。

顔を覆い、ふらふらと上半身を揺らす。

体がだるくて、ぼんやりと頭の中が揺れた。


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