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哲学対話:「哲学者の道具箱」の訳+感想

高校生向けの哲学対話(p4c)でジャクソンの「哲学者の道具箱(The Good Thinker’s Tool Kit)」を紹介しました。そのときに使った訳と、紹介してみて感じたことを残しておきます。まずはざっくり感想から。

ざっくり感想

【問題意識】哲学対話のファシリテーションをしていると、相手に質問することが難しいのかな?という場面に遭遇することがありました。参加者が安全な場を意識するあまり、「質問すると相手を傷つけてしまうのではないか」と考えていることもあります。その場合は、質問することの利点を全員で共有することで、安全性を保ちながら質問し合うことが可能になるかもしれません。他方で、参加者が質問の仕方がわからないと感じていることもあります。この場合には、一緒に質問の仕方を考えてみる必要がありそうです。哲学者の道具箱は質問の仕方を共に考えることを通じて、お互いに質問できるようになるツールだと感じていたので、紹介してみようと思いました。
【方法】10分ほどで司会者が道具箱を紹介した後に、30分ほどワールドカフェの形式でお互いに理解を深めてみました。その後、実際に対話の中で用いることを試みました。
【実際にやってみて】初めて哲学者の道具箱に触れる高校生にとって、直感的に理解することは難しそうだという印象を受けました。特に、理解しにくい項目がいくつかありそうです(前提とか推論とか)。ですが、ワールドカフェを行うことで、お互いに質問することがOKなんだ!という理解が生まれたようです。道具箱の中身を完璧に理解することを目指すのではなく、お互いに質問するというのはどういうことなのかを話し合うきっかけになりました。

哲学者の道具箱

以下のものは実際に使った道具箱の文章です。Jacksonの文章を意訳しました。Jacksonの文章は出典・参考資料から見ることができます。

W What do you mean?(それってどういう意味?)

明確さを求める—"W"は、思考の一側面を捉えることを本質的に意味している。その思考の一側面とは、意味の複雑さ・曖昧さ・多義性に対して敏感な思考のことである。"W”の質問は、問いを明確化する。

  • あなたは…によって何を意味しているの?(それってどういう意味?)

  • 著者は何を意味にしているの?

  • …とは何?

  • 聞き忘れていることは何?

  • 他に知っておくべきことは何?

R Reason(理由)

なぜ(Why)を考える—哲学者は意見を述べるだけでは十分ではないということを”R”は反映している。意見は理由によって支えられている必要がある。この理由は他の理由よりも良いものだろうか?私たちはなぜか(WHY)を知りたいときには、理由に関する質問をするものである。

  • 主張を支持する理由はある?

  • …の理由は?

  • 理由の一つは…。

A Assumptions(前提)

当たり前だと思っていることを認める/明らかにする—”A”は以下のことを認めている。哲学的思考の重要な部分は、議論・立場・論証・主張の根底にある前提に気づき明らかにすることである。前提を特定しよう、どのようにしてそれらの前提が私たちが見たり判断したりすることに影響を与えているのかを認識しよう、そのほかの前提についても特定しよう。

  • …と推測することは合理的?

  • 鍵となる前提に気づいている?鍵となる前提を特定できている?

  • この議論/主張に含まれている前提というのは…

  • 著者は…と前提している。

I Inference (推論)

「もし…なら(if…then)」について考える—"I"は、「もし…ならば…だ」という推論や含意を表している。例えば、もし(IF)私たちが何かをする、もしくは何かを行わない場合、そのとき(THEN)どのようなことが続いて起こるだろうか?結果はどうなるだろうか?推論には出発点(見る、聞く、嗅ぐ、味わう、触れる)と終着点(心が「動いていく」「場所」は、出発点で提示されたものを超えている)がある。ある人が顔をしかめているのを私が見たとすると(出発点)、その人は悲しい気分なのだと推論するかもしれない(終着点)。

  • …から…と推測するのは合理的?

  • もし…なら、…と推測するのは合理的?

  • …から、私は…と推測する。

T Truth (真理)

本当のことについて考える、私たちが本当だと思っていることの含意について考える—”T"は、主張されていることが実際のところ真(true)なのかに関わっている。私たちはどうしたら〔真だということが〕わかるだろうか?私たちが当たり前に真であると思っているものは、何かの基準を満たすべきだろうか?それらの基準とは何だろうか?私たちはどのようにして真であるものを評価できるだろうか?何かが真であるという確証を持てない場合でも、もしもそれが真だとしたらどういうことが含意されるのか想像することはできるだろうか?

  • 今言われていることって本当(真:true)?もしも真ならば、どういうことを含意している?

  • もしも…が真ならば、どういうことを言っている?

  • もしも…が真ならば…と言っていることになる。

  • …が真のとき、…を含意することになる。

E Example/Evidence (例/証拠)

主張が真であると証明する証拠(evidence)を提示する—"E"は立場や主張の明確化を達成するための一つの方法である。実例を示すことによって、一般的な主張を具体的にしたり、主張を検証したりする方法である。同じくらい重要なのが、主張を支持する証拠を提示することである。証拠とは何だろうか?証拠はあなたの所属分野によって異なるように思われる。証拠は、科学ではどのようなものだろうか?社会学では?数学や語学(国語)では?

  • …の例は何?

  • その例(EXAMPLES)や証拠(EVIDENCE)は、主張を支持したり示したりしている?

  • …は…の例です。

C Counter-Examples(反例)

主張が真ではないと証明する反例を提示する—“C”は主張が間違いであることを証明する方法や、少なくとも主張の限界を検証したりする方法を探すことで、主張や立場の限界を検証するという重要な課題を反映している。

  • …についての反例は何?

  • 今されている主張への反例はある?

  • …は…についての反例です。

出典・参考資料

哲学者の道具箱は下記のものを訳しました。
Jackson, T. http://p4chawaii.org/wp-content/uploads/PI-Good-Thinker’s-Tool-Kit-2.0.pdf

訳に際して下記を参考にしました。ありがとうございます。
http://p4chawaii.org/wp-content/uploads/やさしいソクラテス15v3120517-1.pdf
https://p4c-essay.hatenadiary.jp/entry/2018/01/21/173517


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