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掌編小説「威圧」

『ピンポーン』
「はーい」
 私は、インターホン呼び出され、扉を開けた。
「こんばんは」
 その瞬間。ちくっと、おへその辺りから体中に冷たい何かが巡る。まるで氷水を流し込まれているかのような感覚。
「どうしたの、お姉ちゃん」
 私の弟の声が、背後から聞こえた。
「……いァ……あぁ、か」
 私の声は途切れ途切れで、言葉にならない。さっきまで冷たかった腹部は、今やマグマのように熱く、痛む。だから声が出せない。
「え?なに?ねえ、お姉ちゃんどうしたの?」
「か、ぎ、しめて……」
「鍵?……え、どう、したの……!」
――勢いよく、扉がしまった。
「っ?!ど、どうして」
「え、え、え……。あ、鍵、鍵。でも、でも、お姉ちゃんが外に!」
 ガチャン。扉から鍵が閉まる音がした。
「あ、あれ、僕……」

「ごめん、ごめん僕、鍵を閉めて……」
「……そんな、暗い顔をするんじゃない」
「だって……僕、見捨てた。僕は、死体が怖くて。本当のキョウダイを裏切って、鍵をかけた。僕は……僕は、僕が信じられない。こんな、最低だ。僕は、僕は……一体。ごめん、お兄ちゃん・・・・・
「……いいんだ。たとえ、お前が、人質の娘と親交を深め、仲が良くなって、姉弟同然になって、計画とは違った行動をしたとしても、俺はお前を許すよ。
 大丈夫、少しずつ慣れていけばいい。人の殺し方を少しずつ一緒に学んでいこうな。それまで、お兄ちゃんがちゃんと教えてあげるから」

「やるしかなかったんだ。でないと、お兄ちゃんに、殺される。ごめん、ごめんなさい、お姉ちゃん。僕に流れている血は、半分はお兄ちゃんと同じ血が流れている。僕も同類なんだ。赤い血は流れちゃいない。きっと悪魔のようなドロドロとした黒い血なんだ」
 暗い、錆びついた地下室を僕はグラグラと歩く。焦点の合わない視界で、鉄の扉へ。軋む音、擦れる鉄の音が鳴り響いて、僕にとって鋭い言葉が投げかかる。
「俺の娘をどこにやった!答えろ!」
「……」
「答えろぉ!」
「ごめんなさい……」
「ん……!何を笑っている!何がおかしい!」
「僕がやりました……ハハ、結局僕は、お姉ちゃんの背中を押して、家の外に出してから、鍵を閉め、お兄ちゃんに切り刻ませました。僕が殺したんです!僕が、娘さんを、実の弟のように思ってくれた人を!殺しました。お父さん、あなたも娘さんと同じところへすぐに送ってあげます」

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