第7回目。続ける!毎日一作品掌編小説!『be worth it]

「なあ、みなと、俺少し太ったと思わないか?」
 俺は皿洗いをしているミナトに声をかけた。みなとは俺の彼女だ。
「んー」みなとは俺をじっと見た。「太ってないと思うけど?」
「体重が上がっているんだ」
「だったら間違いないね」何枚も厚着した彼女の頬は赤く火照っていた。「今度一緒にランニング行く?」
 やっぱりみなと優しいな、今日だって本当は仕事で疲れているはずなのに率先して皿洗いしてくれている俺もそんなふうにできたらな。
「うん、そうしよう」

 ランニングを予定していた日。みなとは先に家を出ていて、待ち合わせ場所で合流する予定だ。しかし、俺は待ち合わせ場所には行かなかった。
 もし俺が待ち合わせ場所に行かなかったらみなとはどんな反応をするのか気になってしまった。でも、みなとは優しいからきっと許してくれる。
 面白半分だった。

「ごめん、別れよ」
 そう告げられたのはその翌日のことだった。みなとは一向に俺が待ち合わせ場所に現れないのでどこかで事故に遭っているんじゃないかと思い、夜遅くまで探し回ったそうだ。警察に家で休むよう強要されて初めて家に帰ると、晩御飯を先に食べて寝転がっている俺を見た時にはもう次の日になっていた。
「お皿洗っといたよ」
「は?」
 みなとは冷たい視線を送り続けていた。
「どうしてこんなことしたの?」
「え、面白いかなーって思った」
「誰からも見てもらえなくなって、最悪嫌われるわよ?」
「うん」
 俺はこの時、本当にムカつく顔をしていたと思おう。なんせスンとした表情に口をすぼめている顔は本当に何様なんだと思わせるほかないからだ。
「私ね、ずっと家族からあなたとはもう別れてって言われてたの。だってこんな性格じゃあね、仕方なかったのかも。でも私はそんなあなたを変えてあげたかった。」みなとの目尻が赤く染まっていた。「でもできなかった。ごめんね、別れよう」
 みなとはカバンに荷物を詰めて家を出ていった。その間俺は何も言わなかった。言えなかった。最低な男だ。

 どうしてこんなことをしてしまったんだろう。今更後悔しても、もう遅い。
 ごめん、僕が悪かったよ。愛の価値を見誤っていたよ。君の俺に対する優しさは無限だと思っていた。そんな人いるはずもないのに。縋っていたんだ。甘えていたんだ。
 君があまりにも優しいから、俺は自分勝手になってた。
 どうすればこんな自分を変われる?
 相手を思いやる気持ちが欠けていた。
 ごめん、許してくれとは言わない。ただ謝りたいんだ。
 もしこの小説を読んでくれていたら、謝らせてくれ。だから俺はこの小説を書いたんだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?