毎日掌編小説投稿、三回目!「勇者と魔王に一閃を」

 世界は完全復活した魔王によって、刻一刻と終末に近づいていた。

「赤い満月が昇る真夜中」

 魔王は空を貫き全世界に語りかけた。

「魔族全軍と、我の力を持ってして、人間を一匹残らず滅ぼし、人類の未来に終止符をうつ」

 その言葉が世界中を恐怖と絶望で飲み込んだ。

 勇者が現れるまでは……。彼女は17歳という若さで、家族を失ったが、同時期に魔族の中でも幹部クラスを数体倒し、世界に再び希望が灯った。

 全ては、まだ生きようと、努力し続ける人たちのため。勇者は、魔王に立ち向かう。

「まさかこんなにも早く辿り着くとはな、お主は強い。誇っても良いぞ」

「強くなんかないよ。旅のいく先々で、私は何回も死のふちにたったし、あまりの強敵に足がすくみ、尻尾を巻いて逃げ出したこともあった」

魔王城に辿り着き、勇者は魔王を前にする。

「でもそれでいい、逃げ出してもまた挑めばいい。私の命が潰えるまでが、私の全てであり、人生であるから」

 勇者は剣を構え魔王を睨みつけた。

「そうか、そうでなくてはな!さあ、かかってこい、何度でも!」

 魔王は不敵な笑みを浮かべ、勇者を威圧し返した。勇者の剣先が大きく揺れる。剣と肩が次第に下がっていく。

「体が重い……威圧だけでこれほどとは、さすがは魔王、全人類を皆殺しにするのも容易いことか」

勇者は剣を構え直し、深く深呼吸した。「絶対に負けない。負けられない!」

 勇者は魔王に斬りかかった。

 最後は互いに構え見合いあう状況になった。

 その時、刹那に放たれた激しく光る球は、地面を抉って勇者に向かって進んだ。

 一瞬にしてあたりは光に包まれた。

「勇者よ、実に楽しいひとときだったぞ。だが残念だ」

「何が残念だ?」

 光の中から伸びる一筋の影があった。それはゆらゆらと動いた。その時だった、目にも止まらぬスピードで魔王を貫いたのだ。

 魔王は敗れ、他の魔族と同様体が灰になった。

 しかし魔王は笑った。「我の勝ちだ。勇者よ、我の野望はついに達成された!」

「ど、どういう意味だ!」

 腹の奥底からグラグラと湧き上がってくるような盛大で恐ろしい爆笑がおこって、雷が鳴りひびくときのように伝わって行く。

「我や魔族は元人間ぞ」

 それを聞いた勇者は瞳孔をちじめ、顔を真っ青にした。勇者の顔を見る魔王は、今まで以上に放笑していた。

「さいっこうのエンドだ!我に相応しい終わりだッ!」

「私はずっと人間を殺して……?」

 勇者はグラグラと震えていた。

「そうだ、その顔だ!さあ私にトドメをさすがいい」

 勇者はとどめをさそうと振り上げた剣を息を荒げて振り下ろす。

「うああ!」

 しかし直前で止まった。剣に自分の顔が映ったからだ。まるで怪物のようだった。その時、勇者はハッとして気がついた。

「……いやだ、お前の言いなりにはならない」

 すると、勇者は魔王に治癒魔法を唱える。

「な、何をする!?我を生かすなど何を考えておるのだ!」

「同じだった。私もお前と同じで、人間だから、怪物だから、そんな理由でまだ生きるべき人間をたくさん殺した」

「だからもう魔に身を委ねてはダメだ。一緒に生きて罪を償おう?その中で幸せを見つけよう。きっと前のエンドもより良いものになるから」

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