#1 王子の場合

我が家へ帰るのは何年振りだろう。母上が亡くなって久しいが、これほど家を長く開けたことはなかった。父上は寂しがっていないだろうか。まさか父上に限ってそんなことはないだろう。再開を喜ぶ間もなく次のスケジュールの話を始めるに違いない。次はどこの国へ行かされるのだろう。少し休みたい。

王国まで1日ほどの場所に見晴らしのいい高台がある。暗闇の中に我が家が薄らと見える。今日中には王国に到着するだろう。

深夜、伝令が思い詰めた表情で近付いてきた。父上の身になにかあったのだろうか。一瞬そんなことが脳裏を過ぎる。
「どうやら国王陛下が王子の帰国に合わせ国中の娘たちを集めてパーティをすると言い出した様です。」
以前から父上には身を固めろと言われていたが、まさかこんな手に出るとは!

王国に着いた。
いつも通り国民は私の帰国を歓迎してくれている。しかし今日はいつになく着飾った女が目立つ。
やはり伝令の話は本当なのか。今晩のことを思って少し逃げ出したくなった。

父上は挨拶もそこそこに今晩の予定を話し始めた。やはり伝令の話は本当だった。年頃の娘およそ3500名を城に呼ぶらしい。そんなに紹介されても覚えていられないだろう。そもそも我が家にそれ程の人数をパーティに呼べる様な場所は有っただろうか。

なんだこの女の数は。眩暈がする。
私も男だ。自分のために時間を割いてくれたことに申し訳なさは感じるものの嫌な気はしない。しかし多すぎる。これら全てと挨拶をするのか。
一人30秒としても1750分。1日以上かかるではないか。死人が出るぞ。
そんな心配をよそに公爵は紹介を始めた。
「ーーートレメイン夫人の御息女。アナスタシア嬢、ドリジェラ嬢。」
一人10秒程か。10時間程で済むなら耐えられる…か。


…何人目だ。永遠に続く様な公爵の紹介。
300人までは数えていたがもう最初の方の娘は顔も覚えていない。見てみろ。端の方の女なんか寝ているぞ。何人か倒れているが救護も近づけないほどに人が多い。何より暑い。この場を冷やせる様な便利なものなどないのだ。当然だろう。
天井付近に白いモヤが見える。あれはなんと言ったか。確か年に2回の戦で観測される、湿度が上がると天井付近に発生する…そうだ「コミケ雲」だ。まさか我が家で見られる日が来るとは。たまには帰ってくるものだな。
そう考えているうちにまた一人倒れた。


恐らくこの娘で最後だろう。
頭がぼうとする。私も倒れるのか。父上は何故ああも元気でいられるのであろう。一代で王国を築く胆力は伊達ではないのか。
その時だった。


ーー続きは本編をお楽しみくださいーー

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