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この割れ切った世界の片隅で

コロナウイルスが社会に与えた最も大きな影響は、見えづらかった社会の分断を可視化したことではないでしょうか。 ステイホームできない、明日を生きるのすら精一杯な人。パソコンを持っておらず、家では完全に社会から隔離されてしまう人。勉強ができるような家庭環境でない人。外で遊ぶ自分を自慢げにSNSに載せる人。「クラスターフェス」と称し、コロナに積極的にかかろうとする人。感染者を引っ越しにまで追い込む地方の村社会。 普段暮らしているとそのような人と出会わない、という人が殆どでしょう。

    • ひとり

      やっぱり生きるの向いてない。娘が熱を出したとかで先輩が早退して、代わりの仕事を断れずこんなに遅くなった。メールの文面が誤解を招くと注意も受けたし、同期の男はさりげなく二の腕を触ってきた。帰りの中央線でもぎゅうぎゅう押されて。午前1時、最終電車が走る音に涙が出る。社会はいつも私を傷つけるし、私はいつもひとりだ。 そんなあなたも、残念ながらひとりではない。電車の中にも「ひとり」が、もしかしたら隣の部屋にも泣いている「ひとり」が、この国には1億人以上の「ひとり」が生きている。今ま

      • 小杉湯で働き始めたよ!

        ZOOMで人と話していた時、無性にレンコンのきんぴらが作りたくなったんです。カーソルを「終了」に合わせて待機して、終わった瞬間に寮のキッチンに走りました。レンコンのイデアってあの可愛い形じゃないですか。だけど縦切りにすると歯ごたえがあって美味しい。将来誰かにきんぴらを作るとき、どんな切り方をしようかな?悩み始めたらすごく楽しくなっちゃった。 たぶん私はまずは輪切りにする。レンコンって本来こんな形をしてるじゃない。サクッ。だけど縦切りにもこんな良さがあって、私は縦切りが好き。

        • 何処か遠くへ行きたかった(完結編)

          最後の授業が終わってすぐにタクシーに飛び乗った、春休みの10日間旅行のこと。 ニューヨークへニューヨークへ向かう長距離バスに揺られながら、私はルームメイトのことを考えた。カレンという名前で、ヒスパニックだった。メキシコ国境から車で5分のテキサスの小さな町の出身で、大学に入るまで5人の兄弟とお母さん、お父さん、お爺さんと一緒に暮らしていた。彼女にとって私が初めて見るアジア人だという。スーパーマーケットまで車で1時間の小さな町の住人は皆南米からの不法移民ばかりで、大人世代は殆ど

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        この割れ切った世界の片隅で

          ミスター村上とボストンの伯母

          村上春樹氏が居たウェルズリー大学で2023年春学期を過ごした「わたし」の記録です。 1.伯母の町に春樹が来る 「私には母の姉にあたる伯母がいるの。ねえねって呼んでた。オレンジのラパンっていう車に乗ってる、まつ毛がくるんと上がったひと。車に乗ったらいつも『ラパパパパパパン、不思議な笑顔♪』って歌を歌って、前方のミラーにかけた匂い袋が揺れてて。ラックには、ねえねが好きな槇原敬之のCDが数枚入ったケース。マイケルジャクソンも好きで、スリラーを流しては怖がる私を笑ってた。何より凄

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          近況報告

          「君に会えて嬉しいよ。君は数少ない、『続けている』人だからね。生き残るって本当に難しい。じゃ、出会いに乾杯。」中学の時、目の前の起業家を講演会に呼びたいと先生に駄々をこねたことを思い出しながら、檸檬ハイのジョッキを両手で掲げる。当時彼は「雲の上の人」だったけれど、今の彼は私と何ら変わりない人間。私より遅いペースで串カツを食べる、くるくるパーマの痩せた20歳。 一番安い串にかぶりつきながら、果たして自分は本当に「続けて」いるのかどうかと訝る。そもそも「続ける」の定義はなんだろ

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          時岡すずを愛することにした

          ホームレスシェルターでのボランティアの帰り道。地下鉄の階段を降りていると、背丈が190センチはありそうな黒人のおじいさんが杖をついてやってきました。杖をこんこんしながら、あっちにいったりこっちにいったり、ゆらゆら、ゆら。もしかして目が見えていないのかもしれないな、と思い声をかけると、Thank you, Thank youと言って腕を掴んで階段を降り始めました。すると言うのです、「10ドル寄越せ、それか死ぬかどちらか決めろ。」 ポッケを見ると刃物がキラリと光っています。だけど

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          (雑記) 馬鹿な女

          愛読書はココシャネルの名言集。プリクラとメイクと甘いものが好き。綴りを覚えるためにwednesday, wednesday, wednesdayとノートに300回書き殴る勉強法をずっと続けていた。ある海外の学校に行きたくて1年間かけて青チャートを10周したけれど、やっぱり数学が最後までできなくて落ちた。「社会課題に興味がないなんて理解できない!」と言いながら、自分が興味があるのは苦しんでいる人のいる現場だけで、それが現実になる司法、立法、行政の仕組みは何度も同じ箇所を読まない

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          パーフェクト・ガール

          2021年の振り返りです。 冬  「夢は、叶ったほうがいいです。でも、叶わない夢もあります。どうしようもない、形を変えでもしない限り、叶わない夢というものもあります。」 合格通知を受け取った夜、何百回も浴びた中島みゆきさんの声に包まれながら、もうこれを聞いて涙を流すことは一生できないのかもしれない事実に呆然とした。どうしようもない世の中で、叶いそうもない夢に泣く。もう、「向こう側」に来てしまった私にそれは出来ない。長崎に刺されたピンは、私の口角をぐいっと強引にあげて、「

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          「毎回すべてを忘れて寝てるのかな?」という落合さんのモヤモヤが分かる年になった

          地元を出て8か月、日本を出て3か月が経った。ただ一つ分かるのは、それは「あのときのわたし」には一生戻れないということだ。どれだけ頑張ろうとお金を積もうと、あの「長崎県の公立高校に通う17歳女子」の視点はもう二度ともとに戻らない。アメリカに来たことでどんどん経験則で片隅の物事が語れなくなっていく感覚を得てはじめて、私は社会に対して責任を持たなけらばならない、私はもう大人なのだということを気づかされた。教育についてや地方格差について意見を求められようが、もうボストン在住の19歳女

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          2021年6月14日の日記

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          東京未完成日記

          朝起きて、ホームレスの人に会いに行く。グレーのTシャツ、シンプルなジーンズ。昼は駅のトイレでメイクをしたあと上野で友人の作った映画を見て、六本木のメイドカフェに行って、使用済み下着を売る店の店主とお話をしに行く。今度は駅のトイレで青のワンピースに着替えて、夜はビルの48階で、社長さんに焼き肉をおごってもらう。次の日の昼は、共に海外大進学をするハーバードやスタンフォードの友達と遊ぶ。夕方はインドのスラムの子どもたちとビデオチャット。 老若男女を問わず一発で覚えられる名前は、自

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          令和若者宣言-坂口安吾に触発されて-

          帰り道の唇は金属の味がする。数時間すっかり震えきって細胞の死んだ唇。それをちろと舐めては、血のような風味に甘美な幸福を感じていた。中央のほうに残る疼きは顔から首、首から身体に伝わり、全身の力を抜いてバスの背もたれに私をへにょんともたれ掛からせる。中学1年生のとき、先輩に「1番脱力している瞬間はいつ?そのときの感覚で吹いて欲しい。」と言われて、「帰りのバスの座席...ですか?」と答えて笑われたっけ。よく考えたら「寝てるとき」という答えのほうが正解だったのかもしれないけど、私にと

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          この割れ切った世界の片隅で を読んでくださったすべての方へ

          投稿からまだ丸1日もたっていないうちにこんなにたくさんの方に読んでいただけて、本当に嬉しいです。貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。 記事を書こうと思ったきっかけは、本当に些細なことでした。英単語を覚えていると、手元の赤シートの色の鮮烈さにある記憶がよみがえって来たのです。 男の子が赤シートを得意げに小学校に持ってきました。 「なんに使うと?」「赤ペンが消えるとばい!」「へー!すごか!」 「ほかに使えんとかな?」みんなで赤いものを探して教室をぐるぐる。

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          思春期の自己規定とSNS

          どうやらみな、日々の一刻一刻にすらも、戦略を立てながら生きているらしい。そう気づいたのは、高1の夏頃だったと記憶している。初めて上京し、顔見知りがぐんと増えた平成最後の夏だ。 Aくんは言った。「俺、賛成する事柄でも、『ここで反対したら面白いかな』っていう場面では反対したりするよ。印象をつけたいからね」。そんな人狼ゲームみたいな日常を過ごしている人がいるのか!と驚嘆した。 Bちゃんは言った。「わたしのインスタ手芸の写真ばっかり載せてあるでしょ。それも手芸がもとから好きだったん

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          風船

          7歳の頃、うっかり風船を飛ばしてしまったことがある。ひゅるひゅるひゅる。尻尾は私を嘲笑うかのように空に舞った。 風船ごときで泣く年でも無かったけど、ただ湿った手のせいで自分から離れゆくものがあるという事実にパニックに陥った。 それから、手に入りそうなものは全てぎゅっと握るようになった。倍率の高い選考も、紐を腰に巻き付けて固くちょうちょ結びにすれば逃げていかなかった。 いま。私の目の前には無数の選択が広がっている。「中学生 校外」「中学生 留学」と検索していた時代はとにか