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西村賢太ファンなら気付いてるかもしれないこと


さっき「小銭をかぞえる」を読み返してたら、

貫多が同棲中の女に金を借りようとしてるシーンで、

女が頷くのを待って、傍らの、彼女が好きな稲垣潤一の曲が限りなく続くCDラジカセのスイッチを切った。

西村賢太 「小銭をかぞえる」 p.139

ってのが出てきて、

「稲垣潤一って芝公園六角堂跡で言ってたやつじゃん!西村賢太って自分が稲垣潤一のファンなんじゃないの?」

と思い、西村賢太なりの脚色なんだろうなとか考えたりして、「芝公園六角堂跡」を引っ張り出してみたら、

そう云えば三十四歳時には、或る女と約一年間の同居生活を経てていたが、その折に先様へは、随分と強制的にJ・IさんのCDを聴かせてやってもいた。そ、そのうちには彼女の方でも、すっかりその世界に魅き込まれたらしく、あながち上辺だけの同調とも思えぬ執心ぶりを見せるようになったものだ。
これは貫多にしてみれば、してやったりの愉快事であったが、それでいながらそののちに、彼は商業誌にヘタな私小説を書き始めた折には、この事実を少しく変えてしまっている。
J・I趣味は、どこまでもその別れたる女のものであり、自身はそれに、内心辟易しているとの構図にしたのである。
(中略)
DV男の対比となる女がJ・Iファンであれば、そこには何かしらけなげで善良な人物像のイメージが、よりナチュラルな感じで備わろうとの計算も働いたのだ。

西村賢太 「芝公園六角堂跡」 p.25

ってズバっと書いてあった。「芝公園六角堂跡」もかなり前に読んだから、ここまでダイレクトに書いてるなんて忘れてた。というかもはや知らなかった。
多分初見の時はふーん、なんかそういう作品があるんだなーってくらいにしか思わなかったんだと思う。

僕は今回奇跡的に「小銭をかぞえる」→「芝公園六角堂跡」の流れでこの関係性を見つけたけど、超コアなファンとかは「芝公園六角堂跡」でこの内容を読んで、過去作全部漁って稲垣潤一の名前を見つけてたりするんだろうか。だとしたら相当キてる。

西村賢太は私小説書きだからこうやって急に10年くらい前の過去作が作中に登場したりするのも面白い。

こんなことに気付いて喜んでるのは相当なファンだけだと思う。

でも気付いちゃって嬉しかったから記事にしちゃった。

ではまた。

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