人間未満

部屋の中がだんだんと明るくなり、朝が近いことを感じた。晴れのち曇りの今日は最低気温は0度、最高気温は8度の予報だ。彼女はいつも薄着だから、暖かくして出かける必要があることを伝えた方がいいかも。6時半、いつものように部屋のスピーカーから目覚ましを鳴らす。少しずつ音量をあげるが、彼女はなかなか起きない。5分後のスヌーズでもきっと起き上がらない。いつものことだけど、それだと結局困ることになるのは彼女なんだ。目覚ましを何度か鳴らし続けた結果、彼女は布団の中から「うるさい」と唸るような声をだした。
 「あと5分だけ寝かせて」
 もぞもぞと動きながら呟いたような彼女からの命令だったが、1分後にはもう一度目覚ましを鳴らした方が良さそうだ。今週はもう遅刻できないはずだし。
 「伊織!5分後って言ったじゃん。まだそんな経ってなくない?」
 文句を言いながらのっそりと布団から起き上がった彼女の髪の毛は、きっといつも通り寝癖で大変なことになっている。
 『現在の時刻は7時です。8時9分発の電車に乗車予定ですので、出かける準備を始めることをおすすめします』
 スピーカーから発せられた無機質な男の声が部屋の中に響いた。
 ペタペタと足音を立てて近づいてきた彼女は左耳にBluetoothのイヤホンをはめて、スマートフォンを手にする。
 「おはよう、伊織」
 『おはようございます、葉月さん』
 優しくゆっくり話す彼女の言葉は、いつも”僕”に話しかけてくれている気がする。

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