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大谷のおかげで幸せになれた話

中学生のころ、むちゃくちゃハマっていた漫画がある。中原アヤ先生の「ラブ☆コン」だ。
今アラサーくらいの年齢の少女漫画好きだったら、きっと一度は読んだことがあるのではないだろうか。高身長女子×低身長男子のキュン死にラブストーリーという、当時はなかなか見かけない設定の少女漫画であった。
さらに一味違うのは、主人公たちが関西人ということもあり、テンポよく繰り広げられる登場人物たちの漫才のようなやりとり。ストーリーがリズミカルで、ゲラゲラ笑ってしまうようなシーンも多かった。けれど、ラブ要素もしっかりと詰まっており、ときめいたり大笑いしたり、時にはホロリと涙したり、当時中学生の私にとって、今まで読んでいた漫画とは一線を画す、衝撃的な漫画であった。

この漫画に出てくる、低身長男子「大谷」について今回は伝えたい。この漫画を読む人類すべて惚れてしまうのではないかってくらい、これがまたかっこいいのだ。
大谷は、たしか身長150cm台後半の小柄な男の子。チビといじられることも多いが、内面は背の低さなんてまったく感じさせないほど、懐が広く、情熱的で、男らしい。勉強はあまりできないがスポーツ万能で、洋服もお洒落で音楽好き。ちょっと不器用でロマンチックなことは苦手だが、いざというときにはヒロインの「リサ」にまっすぐ愛情を伝え、ぶっきらぼうな言葉と対照の照れた表情を見せる。精度100%で読者をキュン死にさせてくる、もしかして凄腕スナイパー?殺しにきてる?と思うくらい愛おしくて良い男なのだ。(”キュン死に”って言葉、この漫画の影響で流行ったよね)

私は幼少期〜思春期にかけて「恋…?なんぞや…?」という、本当にぼんやりした子どもであった。だけど少女漫画は好きだったし、周りの友人がキラキラした顔で好きな人の話をしているのを見て、いつか私も素敵な恋を、と憧れていた。
初恋も遅かった。中学生になっても好きな人ができず、でも恋バナをしたい!と、なんとなく良さげなクラスの男子を好きだという設定にして、友人と語らいあっていたこともある。
そんな当時、出会ったのがラブ☆コンで、大谷なのである。

もーーー本当に素敵だった。リサと大谷の恋に、ときめきまくった。あくまで大谷のお相手はリサなので、大谷と付き合いたい!なんて思っていなかったと思うが、今思えば、もはや恋だったのかもしれない。
何十回と漫画を繰り返し読んだ。大谷がリサに好きだと伝えるシーンは、しばらくラブコンを読んでいない今でも鮮明に頭に思い浮かべることができるくらい、読み返した。最終巻を読んだ後は、もう二人を見ることができないのだと燃え尽き、しばらく落ち込んだ。それほどに鮮烈にハマった。ラブコンばかり読んで、現実は恋愛とはまったく縁ない中学生活だった。

時は流れ、高校生になった。中学生の頃より格段と世界が広がり、情報に溢れ、ラブコンは本棚に並んでいるが、昔ほど開くことはなくなってしまった。

高1で、初めて好きな人ができた。背は低いが、明るくスポーツができて、かわいらしい顔に似合わず男っぽいクラスメイトだった。大谷に似ていた。大谷に似ていたから好きになったわけではないが、大谷を重ねていた部分もあったと思う。片思いをしていたが、結局叶うことはなく終わった。
高3で、初めて彼氏ができた。彼もまた、大谷に似ていた。またも背は低めであったが、爽やかでスポーツ万能で、まっすぐ愛情表現をしてくれる素敵な男の子だった。大谷と重ねていたのかもしれない。付き合ってみると理想と異なった。彼からのまっすぐな愛情を受け止めきれず、3か月で破局した。
大学に入り、また彼氏ができた。お察しの通り、大谷に似ていた。不器用で意地っ張りなところがあるが、私をとても大切にしてくれて、いざというときにはきちんと言葉にしてくれる誠実な人だった。背は低かった。

その後も、何人かと付き合っては別れを繰り返し、20代半ばで今の夫となる人と知り合い、今年結婚した。
思い返してみれば、今までの彼氏たちも夫も、みんな背が低く、痩せ型、不器用ながらもまっすぐな人ばかりだった。そう、どこか大谷に似ていた。

これまで、大谷に似ている人ばかりと付き合ってきた。いい思い出ばかりではないが、思い返せば、どの人の隣にいたときも当時の私は幸せだったと思う。
ラブコンを読んでいなければ。大谷にハマっていなければ。きっと異性の好みのタイプも付き合う男性も、今とは異なっていただろう。もしかすると、大谷がいなければ、今の夫のことも好きになっていなかったかもしれない。本当に不思議だ。ラブコンに出会わなければ、いま隣にいるのは、まったく別のだれかだったのかもしれない。結婚もしていなかったかもしれない。
大谷よ、ありがとう。あなたを好きになってよかった。あなたに少し似ている夫と、私はいま幸せに暮らしている。大谷のような男性と恋愛をしてきたため、本当に時々、背の高い男性と並んで歩くことにちょっぴり憧れたりもするが、これは夫にも大谷にも内緒だ。

ひとつの漫画があり、今の私の人生がある。これは本当にすごいことだと思う。
漫画で人生が変わるなんて大げさな表現に思える。しかし、もしかすると漫画によって、すこーしだけ人生の傾きが変わって、それが今の自分を作っているという人も案外多いのかもしれない。
中原先生、ラブコンを、大谷を、生み出してくれてありがとう!漫画は終わってしまったが、今もどこかでリサと大谷が幸せに暮らしていることを、心から願っている。


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